義理の母、娘に追放された聖女は、聖なる力を得て、復活します

朝日みらい

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1 エルテメル・イーナス

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「エステメル・イーナス。君との婚約を取り消す。代わりに、君の妹のマチルダと結婚を申し出る」

 ここは、イーナス伯爵家の広間である。

 ふたりは共に十七歳になり、来年には晴れて式を挙げる予定だった。

 この、結婚一年を控えたパーティーの場で、婚約中のガーランド公爵から、思いがけない婚約破棄に、来賓者はざわめきがおこる。

 イーナス家は、この村の聖職として、人々の怪我を治癒する聖女を中心にを治めてきた名家だった。

 幼少の頃からエステメルは、強い聖なる力で、人々のために祈りを捧げ、病や負傷した者たちを癒してきた。

 しかし、実母が亡くなり、三年前から義母と一人娘のマチルダがやってきてから、徐々に彼女の魔力は弱くなった。

 代わりに、彼女の聖なる力は強まり、今では聖職は全て、彼女が取り仕切っている。

 エステメルの希望は、村の領主ガーランド公爵との結婚だっただけに、彼女の落胆は計り知れない。

「……わたくしのどこが悪かったのですか?」

 崩れ落ちそうな体を、何とか気力で持ちこたえて、エステメルは尋ねる。

 ガーランド公爵は、マチルダを傍らに引き寄せ、

「結婚の条件は、聖女であることだったはず。たしかに婚約した頃は聖なる力で村人たちから尊敬を浴びていたけれど。今は、聖なる力は無い、ただの令嬢だけだろう? それに、美しいんだ」

 マチルダは、胸があだけた赤いロングドレスを着ている。目鼻立ちは整い、銀色の豊かな長い髪を垂らし、切れ長の瞳に晴れやかな笑顔をして、義理の姉を見下ろしていた。

 それに比べて、エステメルの容姿は老けて見えた。目鼻立ちが整った顔立ちは陰を帯びて、どんよりとした灰色の瞳に、長い栗色の髪には白いものが混じっている。

 長い間、自らの体の中にある生気を絞り出して、聖なる力を生み出してきたツケが、彼女の実年齢より皺や老化を早めてしまったのかもしれない。義理の母娘が来てから、かつての輝きを失っていた。

「……そんな。お父様からも、何かおっしゃってください。こんな、理不尽なことは駄目だと……」
 
 エステメルは、すがりつくように、義母と他人ごとのように済まして座っている父親にひざまづいた。

 父親は、娘を、まる他人事のように、まじまじと見下ろしながら、

「お前はもう、一族の恥さらしだ。荷物をまとめて、出て行くがいい」

と、言い放った。
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