義理の母、娘に追放された聖女は、聖なる力を得て、復活します

朝日みらい

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6 アメリア・アテス

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 山間の谷間に広がった、小さな町の中心街には、レンガ造りの建物が所狭しとひしめいていた。

 ここは、王都へと通じる国道に面していて、通り沿いの噴水広場には、四軒ほどの宿が軒を連ねている。

 エルテメルは、馬屋をのぞき、あの体格のよい黒馬を見つけた。

 『シャノンソン』と看板が下げられた二階建ての小さな宿である。

 受付の呼び鈴を鳴らすと、受付嬢は奥の部屋から出てきた。

 村での聖女であるエステメルを知っていて、

「おはようごさいます、エステメル様。こんな早くにどんなご用件でしょう?」

「騎士のオークスト様は、いらっしゃるかしら」

「オークスト様なら、二階の二番室にお泊まりになられてますけど。もしかして、魔法使いの方とお知り合い?」

「いいえ」

 エステメルが首を振ると、

「そうですか。いえ、ずいぶんと偉そうな個性的な方だなと思って。オークスト様の部屋に押しかけていますよ」

「そうなのですか……」

 エステメルは小首をひねりながら、階段をあがり二番室に行き、ドアをノックした。
 
 ドタバタと足音がして、

「オークスト様っ? いったい、どこいっちゃ……」

と、ドアの隙間から顔を出したのは、髪の毛が燃えるように赤い、十五くらいの少女だった。
 魔法省で認定を受けた胸章のワッペンを、灰色のワンピースに付けている。

 少女は、エステメルの顔を見た途端に笑顔を曇らせ、

「おばさん、誰?」

と、ぶっきらぼうに言う。

「わたくしは、エステメル・イーナスといいます」

 エステメルは笑顔で、丁寧にお辞儀をした。

「ほうほう、あんたが、元凶のエステメルさんね……」

 小柄な少女は、目の敵のように、エステメルの風貌をじろじろと観察した後、偉そうに背伸びをした。

「あたし、アメリア・アテスよ。彼の所属している冒険者パーティーの仲間の一人で、国王様より認められた優秀な魔法使い。でもあり、かつ彼のよきパートナーよ。ついでに、将来の彼の花嫁候補でもあるの」

「アメリア様が……花嫁候補、なのですか……」

「そうよ。だから、早くここから立ち去ることね。おわかりかしら?」

 エステメルは、冷静に頷きながら、

「そうなのですね。知りませんでした。でも、昨日、オークスト様はわたしの住まいまで来られて、求婚をされたのです。それは、一体、どういうことなのでしょう……?」

 すると、あれほど余裕そうだった、少女の顔が急に険しくゆがんだ。

「な、なんですって。まさか、わたしという花嫁候補を飛び越えて、こんな白髪まじりのおばさんとなんて! 嘘も大概にしなさいよね」

「嘘なんて……」

「絶対、嘘ついてますよ! あなたのことは彼から聞いてるの。聖女をクビになったんでしょ。それに、義妹から婚約者も奪われたのよね。オークスト様ったら、突然、わたしに無言で、置き手紙だけ残して王都のお屋敷から飛び出しちゃうから、あたし、乗合馬車を乗り継いで、やっと田舎まで追いかけてきたっていうのに……」

「でしたら、わたしのことを、あなた様はご存じなのですね」

「オークスト様から毎晩のように、耳にタコができるくらいに聞いてるわ。命の恩人、女神様だって」


「そうでらしたのですね。アメリア様も、ここまで追いかけて、大変だったでしょう」

 エステメルは、気の毒になってきた。


「べつに。わたし、こう小さく見えて、結構、体力には自信あるのよ」

と、アメリアは胸を張る。

「わたしは若くて、これだけ美人で可愛くて、しかも性格だってすばらしく良いの。そんなわたしをさておいて、あなたにオークスト様を奪われるわけはいかないの。いえ、絶対にありえないんだから」

 そう言うと、指先をパチンと鳴らし、白い魔法の杖を手にした。

「さあ、わたしと勝負なさい。あなたの魔力を吸い尽くして、ミイラみたいにしてあげる!」

「やめて。わたしがあなたに張り合う気はないの。わたしには、もう、聖なる力はほとんどないし……」

 アメリアは首をひねりながら、差し向けた、火花が散っている杖を下ろし、

「つまり、あなたみたいな無能な人に、オークスト様は求婚をしたと? 肌もシワシワなのに?」

 エステメルは頷いて、肩をすくめた。

「……そうなのです。一度はお断りをしたのです。ですが、そんなわたしでも必要とおっしゃってくださったのです。でも、あなたのような方がいらしたのなら、わたしは帰ります」

 力なく出口に背を向けた時、階段からフォルクが、赤い薔薇を抱えて上がってきたところだった。

「……エステメル様!」
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