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「スマイル! 子供つばさクリニックって、ここかな?」
 
 ママがカーナビで地図を確認しながら、住宅地の一角で車をとめた。二月の冷たい風で、ガラス窓が冷たい。ママは保険の仕事で車をよく使う。あたしは学校の帰りに、校門からひろってもらってここまで来た。歩いたら、二十分くらいかかると思う。

(これ、病院?)

 前髪をいじりながら、あたしは目をほそめた。貝殻のように渦を巻いた細長い円形の壁で、ニョキニョキと細長い煙突が空に向かって飛び出している。

 三階建てで、壁は真っ白、無数の丸窓がついている。外にはジャングルジムやシーソーや砂場があって、セーターやトレーナーを着た子供たちが楽しそうにさわいでいる。まるで、どこかの遊び場みたい。

(変なところ。行きたくないな)

 あたしはうつむいて、ビーズの腕輪をにぎった。昔、パパからもらった。なぜかふれると、がんばろうって思えるから不思議だ。

「いらっしゃいませ」

 エントランスの回転ドアを開けると、事務所からひとのよさそうな、五十才くらいのおじさんがでてきた。でっぷりして、ワイシャツからお腹がはみ出しそう。えりもパンパン、ついでに、丸い大きな顔も笑顔ではじけそう。

「つばさクリニックにようこそ。林さまですね。所長のカザマです。今、スタッフのミノワに案内させますので」

 背の低い、二十くらいの女の人が布の袋を抱えて出てきた。ロングの髪に黄色いシュシュがゆれている。ウサギの耳がついた帽子がかわいい。
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