【完結】嫌われ令嬢のはずなのに、姉様と慕われ、王子に愛されてます!? ― 過去の罪と向き合う転生の物語―

朝日みらい

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第一章 転生令嬢、処刑を覚悟する

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​「――ああ……知ってる。これ……繰り返す……の?」

 ​きらびやかな音色で鳴り響く、王立学園の入学式の鐘。その瞬間、わたしの中に流れ込んできたのは、あり得ないほど鮮明な**「前世の記憶」**でした。血の気が引いていくのを自覚しました。

 ​自分の名前――クラリッサ・ヴァレンティーナ。公爵家の令嬢。

誰もが羨む美貌と財力を持っているけれど、実際は悪役令嬢。過去のわたしは、虚勢を張り、見栄を張り、誰からも愛されず孤独なまま人生を終えました。

 そしてこの人生の筋書き(シナリオ)も同じ。弱者をいじめたあげく、最後には側近の侯爵令息イザークの断罪により、王太子にも見限られ、冷たい処刑台に立たされる未来が待っていました。

​「……なんで、よりによってまた同じ役なのよ!」

 ​愛する人は誰もいなかった……。そこで終わったはずのわたしが、今ここで目を覚まし、そしてかつての傲慢令嬢の体にふたたび魂を宿しているなんて。

過去の苦い記憶と、人生の筋書きが胸の中で重なりました。

わたしは知っています。この物語の結末を。

処刑台の冷たい木目に頬を寄せ、見下ろす人々の冷たい瞳。

「お前のような悪は、この世界に必要ない!」

 イザーク様の激しい糾弾。

「お前はもう、私の婚約者ではない」

 レオネル殿下の、氷のように冷たい声。

​その光景がフラッシュバックして、身がすくむような恐怖が全身を襲いました。

だから、入学式の日。王子殿下が優雅に演説する煌びやかな会場で、わたしはひとり小さく決意したのです。

​「もう、目立たない。絶対に。波風を立てない。できるかぎり、この世界で空気みたいに生きて、未来の処刑から逃げてみせる!」

​――と。


​ けれど、運命というものは皮肉なものです。

わたしが全力で下を向き、壁の花になることを決意したすぐあとに、その人と目が合ってしまいました。

​「――やあ」

 ​柔らかな低音が鼓膜に届く。

王宮第一王子、レオネル殿下。漆黒の髪に、深い蒼玉のような瞳。入学当日からすでに圧倒的な存在感で、ざわめく令嬢方の視線を一身に集めておられました。

 その殿下が、なぜか真正面からわたしを見つめている。

「君の瞳は……煌めく宝石のようだ」

「なっ、なななな、えぇっ!?」

 ……今ですか!?入学早々ですか!?

 ​やたら高貴でやたら直球な台詞を投げかけられた瞬間、わたしの隠密作戦は一瞬で崩壊しました。

視線が集中していくのが分かります。

「あのクラリッサ様が」
「王子と……?」
「まさか……!」

というひそひそ声。

ぎゅっと拳を握りしめ、叫び出しそうになる心を必死で抑えて。

(ちょっと待って、このシナリオだと……王子に気に入られて……また断罪ルート一直線じゃない!)

 ​未来予想図の**「処刑台」と「ざわめく群衆」**が、ぱっと脳裏にフラッシュバックして。鳥肌がぞわぞわっと背筋を這っていく。

「や、やめてください!わ、わたしは目立つような者ではっ……」

 必死に取り繕うわたしに、けれど殿下はおかしそうに微笑みました。

青空みたいな人だ、と胸が痛む。

「ふふ。そんな必死に否定しなくてもいい。……でも、残念だな」

「……なにがです?」

「君が、目立ちたくないと言うこと。僕は――もっと知りたいのに」

 ​さらりとそんな言葉を口にする王子。

その横顔にまた、隣の令嬢方から悲鳴混じりの声が上がります。

(やめて!そういう台詞はせめて人目のないところで!)

 ​内心で頭を抱えながら、その日からわたしの**「目立たないで生きる計画」**は、予想外の方向に転がり落ちていったのです。


 ​それからというもの、わたしは過去の過ちと向き合う日々を送りました。

特に、前世で最もひどく傷つけてしまったイザーク様の妹、リーゼロッテ様のことが、いつも心の奥でわたしを責め立てました。

 最も恐れている断罪の執行者であるイザーク様。そしてなにより彼の愛するリーゼロッテ様にはひどいことをしてしまった……。

彼女のことが、いつも胸の奥でわたしを締め付けます。


​ ある日、わたしは勇気を振り絞って、花束を抱えイザーク様の屋敷を訪ねました。

だけど、門番に「クラリッサ様、あなたには、リーゼロッテ様は面会を望んでおりません」と冷たくあしらわれ、追い返されてしまいました。

それでもわたしは諦めきれず、小さな手紙を花束に添え、門扉の前にそっと置いて立ち去りました。

​『過去のわたしは、リーゼロッテ様にひどいことをしました。心から謝罪させてください。そして、もし許していただけるなら……いつか、この花のように、わたしがあなたの人生を彩る日が来ることを願っています。』


 それはまるで、凍てついた心を解かす春の雪解けのような、淡くも切ない、新しい感情でした。
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