春の風のシノリ

朝日みらい

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 ボートが左へすすんでいく。そのまま二回転してしまう。
 力の入れ方がまちがっているのかな。あれ、今度は右の方向にいきすぎて、足こぎボートにぶつかりそうになってしまう。

「なにやってるの? ヘッタクソね」

 助けようともしないで、華子はうでをくんでニヤニヤしているだけだ。

 もう泣きたくなってきた。

「春菜、力をぬいて、リラックス、リラックス」

 となりのシノリが、あたしのうしろに座った。それから手をのばして、あたしの手にそえる。

「カッカしてたら、何も見えなっちゃうわ。あんなやつ気にしない、気にしない。さあ、わたしと、こぐわよ。いち、に、いち、に!」

 シノリの手びょうしにあわせて、あたしはオールをこぎはじめた。すると、まっすぐにボートが進み始めた。あたしはおもわず笑顔になった。

「よーし、春菜、スピードあげるわよ。木のみんな、風をおくってちゅうだい」

 シノリがさけぶと、池のまわりの木々たちがいっせいにえだをふり始めた。

 風が波をつくって、ボートは波におされてグングン進む。気持ち良い風が、あたしの髪をぬけていく。
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