[完結]婚約破棄されたけど、わたし、あきらめきれません

朝日みらい

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2 冷静で賢い男

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 アンドレはエミエルが眠ると、彼女の書棚から上等の牛皮で装丁された古書を手に取り、ベット脇で読み始める。

 王立学園で学年一、二位を争う秀才で、特に魔法術に関しては、学年で一度も負けたことはない。

 他の上二人の兄は、アンドレほど頭は平々凡々で、長男は大人しく平均的、次男は頭は空っぽだが、腕力だけは人一倍である。

 
 そんな兄たちとは違う理由――。
 それはアンドレはファイナス男爵の実の子どもではなく、部下だった亡き魔法使いの息子であったからだ。

 実の親から、ファイナス男爵の役に立つ人間になるようにと命じられて以来、アンドレは文字通り、育ての親の命じるままに生きてきた。

 「エミエル様のよき友なり、兄となり、支えてあげてくれ」

というフェレス公爵からファイナス男爵の頼みから、男爵はアンドレにエミエルと仲良くするようにと教えこんだ。

 エミエルは思った以上に、手間のかかる性格だった。そして、アンドレには思ったことを素直にお願いしてくる。

 クリストフ王子と結婚したい、と五歳の少女のわがままを真に受けたアンドレは、五歳児らしからぬ働きで、王子との出会いを演出して、見事、婚約まで漕ぎつけた。

 それからも、エミエルのそばにいて、数々の要求にもそつなくこなしていたおかげで、彼女はすっかり彼に頼り切っている。

 フェレス公爵も、娘にいつも寄り添うアンドレをいたく気に入り、お小遣いを渡そうとしたが、彼は断固断り、

「すべて、ファイナス男爵様のお陰です。ぼくへの感謝はすべて男爵様にお願いします」

と、決して受け取ろうとはしないのだった。

 フェレス公爵はその感謝の気持ちを、文字通り、育ての親に注いだ。

 公爵が国王の城の増築工事を請け負うと、材料の発注から運搬業務まで、すべてをファイナス商会に依頼した。

 一介の中小会社に過ぎなかったファイナス商会はその工事の成功で、国中でもよく知られるようになり、その他の工事も請け負い、今では有数の運輸会社となっている。


 アンドレは、速読でエミエルの部屋にある蔵書を片端から読み始め、夜明けには全てをほぼ読み終えていた。

 小窓からの太陽の日差しから、エミエルのあどけない童顔が照らし出される。

 丸っこい顔立ちに輝く金髪が肩まで垂れている。

 小柄で背は低くく、鼻は丸っこく、愛嬌のあるブルーアイと、口は少し大きい。

 本人は伸びなかった背丈と容姿を姿見で映して、がっかりした顔をするが、アンドレにはひどく愛らしく感じられる。

 彼女ほど、自分の気持ちに正直であるのに、なんて自分は人の裏の裏を考えるのだろう。

 アンドレは愛おしげに、眠り姫をそっと飽くことなく眺めていた。
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