【完結】公爵様に恋したら、なぜか弟の文官に監視されている件について ~一目惚れしたのは兄なのに、邪魔してくるのは弟でした~

朝日みらい

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第7章:気づいてしまった気持ち

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 金髪が揺れるたび、私はその人の姿を目で追ってしまう。


 いつも麗しくて、優雅で、まるで物語の中の王子様のよう――それが、レオナルド・ヴァン・エルベルト公爵様。


 最初はただ、“落とす”つもりだった。  

 家のため、自分の未来のため――そう思えば、いくらでも気持ちに蓋をして進めると思っていた。



 けれど。

(……なんか違う。心が、落ち着かない)

 最近、困ったことがひとつある。  

 公爵様の隣にいる“彼”が、どうしても気になってしまうのだ。

 銀縁の眼鏡。冷静すぎる表情。不器用で優しい指先。  


 ジーク様が視界に入るたび、胸が――なんというか、きゅっとなる。

「……気のせい、気のせいだってば!」


 自分に言い聞かせても、心はごまかせない。  

 視線が交わるたびに、呼吸が早くなる。  

 少しでも声をかけられたら、なぜか顔が熱くなる。


(おかしい。これは、変だ。だって私は……公爵様が、好きだったはずなのに)


「……え、まさか私……」


 気づきたくなかった。  

 だってこれは、想定外。予定になかった感情。

 最初の一歩は、家の再興のため。 
 
 公爵様との恋は、夢みたいで理想的で――あんなに綺麗で、完全だったのに。


(でも、私が本当に好きになっていたのは――)



 思い返す。何度も止められた場面。

冷たい言葉。過保護な行動。


 でも、その全てが、“私を守るため”だったと知った瞬間、心が揺れた。  

 あの庭園で、転んだ私に手を差し伸べてくれたのは――公爵様じゃなくて、ジークだった。


(……そうだよ。最初からずっと、隣で私を見ていてくれたのは)


 冷静で、無愛想で、不器用だけど。 
 
 誰より真っ直ぐで、誠実で、目を逸らさない人。


(私……ジークに……)


「好き、なのかも……」


 声に出した瞬間、すべてが繋がったような気がしました。


 公爵様を思っていた時は、どこか遠くに恋があった。  

 でも、ジーク様を思ったら――心が、自分の中に戻ってきた。


 この胸のくすぐりは、夢じゃなくて、現実。

 本物の感情だ。


 * * *

 その日、図書室の窓際で、私はぼんやりと公爵様の姿を遠目に眺めていました。  

 綺麗な微笑。完璧な振る舞い。たしかに、憧れの存在。


 でも、もう心が痛まなかった。


 ――痛むはずだったのに。


「……あの笑顔、どこにでも向けてるのね」

 小さく呟いた私の隣に、いつのまにかジーク様が立っていました。

「兄上は、感情を“使い分けている”だけでの人形です」

「でもあなたは……私だけを見てくれてましたよね?」


 彼はしばらく黙ったまま、窓の外を見つめていた。  

 そして、静かに。

「……ですが私は、あなたの涙だけは……流させたくは無いのです」


 その言葉が、胸に深く刺さりました。

 優しいとか、嬉しいとかじゃなくて――涙がこぼれそう。


(この人は、ずっと……私のことを、本気で考えてくれてたんだ)


 そんなまなざしに、心がふるえる。


(……間違えていたのは、私だったんだ)


 恋は、姿かたちじゃなくて、  
 誰かが自分に“本気”で向き合ってくれているという実感だったのかもしれない。


 私が欲しかったのは、飾られた笑顔じゃなくて――  


 たった一人の、真っ直ぐなまなざしだったんだ。
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