8 / 19
(8)
しおりを挟む
翌日、エドワーズは使用人に命じて、オカリナが自分が許可しない限り、外出も手紙も出させないように告げた。
もちろんオカリナは、そんなエドワーズの勝手な方針に耐えられなかった。
すぐに外出の許可を願い出た。
彼女は街に買い物に行きたいと頼んだものの、エドワーズは拒否した。
「外出する必要がないだろう。わたしが必要なものは全て用意しているんだから」
と彼は言った。
「私はただ少しの自由が欲しいだけよ。たしかにあなたのおかげで何も不自由してはいない。でもね、私は自分の足で歩きたいの」
「私の婚約者なら、私の言うことを聞くべきだね」
オカリナは、エドワーズの態度に沸々と腹が立ってきた。
「私はあなたのものじゃないし、従う義務もないわ!」
と彼女は叫んでいた。
「そんな口をきくな。私は愛し、幸せにする義務があるから、そうしているだけなんだ」
「支配されたくないって言っているの!」
「なんだ、その口の利き方はなんだ!」
エドワーズはオカリナに手を上げた。
「無礼な女だ。きみを養っている私に感謝するべきなんだ。私に従え!」
と彼女の頬を思い切り引っ叩いた。
オカリナはエドワーズにショックを受けて、床に膝をつき、晴れ上がった頬に手を当てがった。
「ちょっと……どうしてそんなことをするの? 私を傷つけるおつもり?」
あてがった指の隙間から、ぽろぽろと涙がしみ出てきた。
「すなかった。感情的になりすぎた。でもね、君が私を怒らせるせいなんだよ。いずれ、私の想いが通じるだろう」
エドワーズはオカリナにそう言って、彼女を屋敷の一室に閉じ込めてしまった。
「エドワーズ、開けて! 誰か、開けてください!」
オカリナはドアを叩いて、助けを求めたが、誰も来なかった。
それ以降、毎日、エドワーズの暴力に怯えることになった。
オカリナは、彼に懸命にお願いした。
「なぜ、わたしを自由にしてくださらないの。解放して!」
「だめだね。君は気まぐれだ。他の男と浮気するかもしれない。あの孤児院での騎士と逃げようと考えているんだろう?」
「そんなことするわけない。それに私はそもそも自由なの」
「いいか、君はぼくの小鳥なんだ。ぼくの籠から一歩も外に出るんじゃない」
「ひどいわ。あんまりよ。わたしはこの屋敷から出ます! あなたとは婚約を解消します!」
「聞き分けの悪い小鳥が!」
彼はオカリナの頬に張り手をして、彼女を壁に押し付けた。
「二度とこんな口を利くんじゃない。もし、次にそんなことをしてみろ。もっと怖い目にあわせてやるからな」
そうやって彼に少しでも口答えをすると、手や足を引っ張ったり、平手打ちしたり、髪の毛を引っ張ったりした。
オカリナはエドワーズの乱暴に耐えながらも抗議し、涙を流し続けた。
「いくらひどいことをしても、わたし、屈しないわ。早く、わたしを自由にしてください!」
「しつこいな。きみは私のものなんだ。私以外の誰にも話してもいけないし、触れてもいけない。お前は俺の言うことを聞くだけでいい。そうしないと、後悔するはめになる」
そんなオカリナに手を差し伸べたのは、監視役の女中の一人だった。
彼女はオカリナに同情して、食事や水や傷薬をこっそりと届けていた。
オカリナに優しく話しかけて、彼女の心を少しでも軽くしようとしてくれた。
彼女はオカリナに、
「あなたは美しくて優しい方。あなたはこんな目に遭うべきではないです。自由になるべきですわ」
と言って、彼女を励ました。
「私はオカリナ様を助けます。ここから連れ出すご協力をします」
とまで約束してくれた。
「ではお願い。紙とペンを持ってきて……」
手紙を出したりしたら、罰せられるに違いない。それを覚悟して女中は急いで紙とペンを持参してくれた。
「本当にありがとう!」
オカリナはブルームへの手紙をしたためた。彼女は次のように書いた。
『ブルーム様へ
私は今、エドワーズ様の屋敷に閉じ込められています。あなたに会いたくてたまりません。自分の地位と名誉ばかりを考えている両親は、きっと助けにはなりません。私はあなたしか頼る方はいません。
エドワーズ様は私を自分のものだと思っています。彼は暴力を振るったり、罵ったりします。私に自分だけを愛するように強要しているのです。
私を助けてください。一緒に逃げたい。あなたと一緒に生きたいのです。
どうか、私を暗闇からお救いください。
あなたを愛するオカリナより』
オカリナは手紙に封印をして、女中に渡した。
「これをブルーム様に届けて。彼は騎士団本部にいますから」
と彼女は言った。
「わかりました、オカリナ様」
と女中は言った。
「急いでまいります」
オカリナは女中に感謝した。
「ありがとう、あなたは私の命の恩人よ」
「光栄です、オカリナ様」
と女中は言った。
オカリナは、ブルームに手紙が届くのを祈った。
もちろんオカリナは、そんなエドワーズの勝手な方針に耐えられなかった。
すぐに外出の許可を願い出た。
彼女は街に買い物に行きたいと頼んだものの、エドワーズは拒否した。
「外出する必要がないだろう。わたしが必要なものは全て用意しているんだから」
と彼は言った。
「私はただ少しの自由が欲しいだけよ。たしかにあなたのおかげで何も不自由してはいない。でもね、私は自分の足で歩きたいの」
「私の婚約者なら、私の言うことを聞くべきだね」
オカリナは、エドワーズの態度に沸々と腹が立ってきた。
「私はあなたのものじゃないし、従う義務もないわ!」
と彼女は叫んでいた。
「そんな口をきくな。私は愛し、幸せにする義務があるから、そうしているだけなんだ」
「支配されたくないって言っているの!」
「なんだ、その口の利き方はなんだ!」
エドワーズはオカリナに手を上げた。
「無礼な女だ。きみを養っている私に感謝するべきなんだ。私に従え!」
と彼女の頬を思い切り引っ叩いた。
オカリナはエドワーズにショックを受けて、床に膝をつき、晴れ上がった頬に手を当てがった。
「ちょっと……どうしてそんなことをするの? 私を傷つけるおつもり?」
あてがった指の隙間から、ぽろぽろと涙がしみ出てきた。
「すなかった。感情的になりすぎた。でもね、君が私を怒らせるせいなんだよ。いずれ、私の想いが通じるだろう」
エドワーズはオカリナにそう言って、彼女を屋敷の一室に閉じ込めてしまった。
「エドワーズ、開けて! 誰か、開けてください!」
オカリナはドアを叩いて、助けを求めたが、誰も来なかった。
それ以降、毎日、エドワーズの暴力に怯えることになった。
オカリナは、彼に懸命にお願いした。
「なぜ、わたしを自由にしてくださらないの。解放して!」
「だめだね。君は気まぐれだ。他の男と浮気するかもしれない。あの孤児院での騎士と逃げようと考えているんだろう?」
「そんなことするわけない。それに私はそもそも自由なの」
「いいか、君はぼくの小鳥なんだ。ぼくの籠から一歩も外に出るんじゃない」
「ひどいわ。あんまりよ。わたしはこの屋敷から出ます! あなたとは婚約を解消します!」
「聞き分けの悪い小鳥が!」
彼はオカリナの頬に張り手をして、彼女を壁に押し付けた。
「二度とこんな口を利くんじゃない。もし、次にそんなことをしてみろ。もっと怖い目にあわせてやるからな」
そうやって彼に少しでも口答えをすると、手や足を引っ張ったり、平手打ちしたり、髪の毛を引っ張ったりした。
オカリナはエドワーズの乱暴に耐えながらも抗議し、涙を流し続けた。
「いくらひどいことをしても、わたし、屈しないわ。早く、わたしを自由にしてください!」
「しつこいな。きみは私のものなんだ。私以外の誰にも話してもいけないし、触れてもいけない。お前は俺の言うことを聞くだけでいい。そうしないと、後悔するはめになる」
そんなオカリナに手を差し伸べたのは、監視役の女中の一人だった。
彼女はオカリナに同情して、食事や水や傷薬をこっそりと届けていた。
オカリナに優しく話しかけて、彼女の心を少しでも軽くしようとしてくれた。
彼女はオカリナに、
「あなたは美しくて優しい方。あなたはこんな目に遭うべきではないです。自由になるべきですわ」
と言って、彼女を励ました。
「私はオカリナ様を助けます。ここから連れ出すご協力をします」
とまで約束してくれた。
「ではお願い。紙とペンを持ってきて……」
手紙を出したりしたら、罰せられるに違いない。それを覚悟して女中は急いで紙とペンを持参してくれた。
「本当にありがとう!」
オカリナはブルームへの手紙をしたためた。彼女は次のように書いた。
『ブルーム様へ
私は今、エドワーズ様の屋敷に閉じ込められています。あなたに会いたくてたまりません。自分の地位と名誉ばかりを考えている両親は、きっと助けにはなりません。私はあなたしか頼る方はいません。
エドワーズ様は私を自分のものだと思っています。彼は暴力を振るったり、罵ったりします。私に自分だけを愛するように強要しているのです。
私を助けてください。一緒に逃げたい。あなたと一緒に生きたいのです。
どうか、私を暗闇からお救いください。
あなたを愛するオカリナより』
オカリナは手紙に封印をして、女中に渡した。
「これをブルーム様に届けて。彼は騎士団本部にいますから」
と彼女は言った。
「わかりました、オカリナ様」
と女中は言った。
「急いでまいります」
オカリナは女中に感謝した。
「ありがとう、あなたは私の命の恩人よ」
「光栄です、オカリナ様」
と女中は言った。
オカリナは、ブルームに手紙が届くのを祈った。
0
あなたにおすすめの小説
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
私が家出をしたことを知って、旦那様は分かりやすく後悔し始めたようです
睡蓮
恋愛
リヒト侯爵様、婚約者である私がいなくなった後で、どうぞお好きなようになさってください。あなたがどれだけ焦ろうとも、もう私には関係のない話ですので。
伯爵令嬢の婚約解消理由
七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。
婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。
そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。
しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。
一体何があったのかというと、それは……
これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。
*本編は8話+番外編を載せる予定です。
*小説家になろうに同時掲載しております。
*なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。
婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました
ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!
フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!
※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』
……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。
彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。
しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!?
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる