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第23章 はじめての贈り物
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春の陽がふんわりと降りそそぐ中、私たちは、村の春祭りに顔を出すことになりました。
「こういう場こそ、貴族が民と触れ合う良い機会だ」とレオニードさまは仰いましたが、彼の表情はあきらかに「帰りたい」の文字で埋め尽くされておりました。
それでも、わたしは春の祭りが大好きです。
木の枝にリボンを結び、屋台が立ち並び、子どもたちは鼻を赤くして駆け回る。
ああ、春って、本当に自由で、いい香りがして、うきうきする季節です。
「フィオナお姉ちゃん! これ、どう?」
小さな手が差し出してきたのは、わたしが教えて一緒に作った花冠でした。
「まあ、上手にできたわね。……でも、ミントがちょっと多すぎて、つけてるだけでスースーしない?」
「うん、風邪ひかないようにって!」
なんて健気なのでしょう。
子どもたちの発想力には毎度舌を巻きます。
わたしは彼らに花冠を配りながら、気づけば自分の分だけ、うっかり作り忘れてしまっていました。
まあ、いいのです。
主役は子どもたちですし、それに——
「……ほら」
不意に、背後から差し出された手。
そこには、不格好な、けれどどこかあたたかみのある花冠が乗っていました。
見上げると、レオニードさまがすこし視線を逸らしながら立っておられました。
「余った花で……ついでに、だ」
「まあ。ついでに、ですか」
「……文句があるなら、捨ててもいい」
「ありませんとも!」
わたしは思わず声を弾ませました。
だって、だって、あのレオニードさまが。
あの、手袋を外すだけで村人が息を呑むような完璧な伯爵閣下が、花冠を。
不器用な手で編んでくださったのです。
「これが……人生でいちばん、うれしい贈り物かもしれません」
「くだらないな」
そう言いながらも、彼の手はそっとわたしの髪に触れ、花冠をのせてくれました。
その動作は、まるで壊れ物に触れるかのように繊細で、やさしくて。
わたしはうれしさと照れくささで、顔がふわりと熱くなるのを感じました。
「……似合ってる」
「え?」
「……別に、なんでもない」
そう言って、彼はくるりと踵を返し、早足で屋台のほうへ向かってしまいました。
「レオニードさま、いま……っ」
聞き間違いではないと思います。
たしかに、あのかたは言いました。
似合っている、と。
ああ、もう。
こんなにも胸が騒がしいのに、どうしてあなたは、いつもそんなふうにサラリと、重大なことを言うのでしょう。
けれど、あの花冠は、たしかにわたしの髪の上にありました。
この先、どんな高価な宝石を贈られたとしても、たぶん、今日のこの冠には敵わない。
そう思ったら、なんだか少し泣きたくなるくらい、うれしかったのです。
それにしても、レオニードさま……あの編み方、次はもっと綺麗に編めるように、こっそり練習されてはいかがでしょう。
──きっと、またもらってしまいそうですから。
「こういう場こそ、貴族が民と触れ合う良い機会だ」とレオニードさまは仰いましたが、彼の表情はあきらかに「帰りたい」の文字で埋め尽くされておりました。
それでも、わたしは春の祭りが大好きです。
木の枝にリボンを結び、屋台が立ち並び、子どもたちは鼻を赤くして駆け回る。
ああ、春って、本当に自由で、いい香りがして、うきうきする季節です。
「フィオナお姉ちゃん! これ、どう?」
小さな手が差し出してきたのは、わたしが教えて一緒に作った花冠でした。
「まあ、上手にできたわね。……でも、ミントがちょっと多すぎて、つけてるだけでスースーしない?」
「うん、風邪ひかないようにって!」
なんて健気なのでしょう。
子どもたちの発想力には毎度舌を巻きます。
わたしは彼らに花冠を配りながら、気づけば自分の分だけ、うっかり作り忘れてしまっていました。
まあ、いいのです。
主役は子どもたちですし、それに——
「……ほら」
不意に、背後から差し出された手。
そこには、不格好な、けれどどこかあたたかみのある花冠が乗っていました。
見上げると、レオニードさまがすこし視線を逸らしながら立っておられました。
「余った花で……ついでに、だ」
「まあ。ついでに、ですか」
「……文句があるなら、捨ててもいい」
「ありませんとも!」
わたしは思わず声を弾ませました。
だって、だって、あのレオニードさまが。
あの、手袋を外すだけで村人が息を呑むような完璧な伯爵閣下が、花冠を。
不器用な手で編んでくださったのです。
「これが……人生でいちばん、うれしい贈り物かもしれません」
「くだらないな」
そう言いながらも、彼の手はそっとわたしの髪に触れ、花冠をのせてくれました。
その動作は、まるで壊れ物に触れるかのように繊細で、やさしくて。
わたしはうれしさと照れくささで、顔がふわりと熱くなるのを感じました。
「……似合ってる」
「え?」
「……別に、なんでもない」
そう言って、彼はくるりと踵を返し、早足で屋台のほうへ向かってしまいました。
「レオニードさま、いま……っ」
聞き間違いではないと思います。
たしかに、あのかたは言いました。
似合っている、と。
ああ、もう。
こんなにも胸が騒がしいのに、どうしてあなたは、いつもそんなふうにサラリと、重大なことを言うのでしょう。
けれど、あの花冠は、たしかにわたしの髪の上にありました。
この先、どんな高価な宝石を贈られたとしても、たぶん、今日のこの冠には敵わない。
そう思ったら、なんだか少し泣きたくなるくらい、うれしかったのです。
それにしても、レオニードさま……あの編み方、次はもっと綺麗に編めるように、こっそり練習されてはいかがでしょう。
──きっと、またもらってしまいそうですから。
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