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第5章 入学試験への日々
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コレット家から届いた手紙の件が解決してから、わたしたちの日常は、さらに穏やかなものになりました。
侯爵様は、わたしが心の底から安心してこの屋敷で暮らせるようにと、何かと気を配ってくださいました。
そして、アラン様との勉強の時間を何よりも大切にしてくださったのです。
侯爵様がわたしを買い取られた、一番の理由。
それは、心を閉ざしてしまったお孫様を、もう一度、前を向かせるためでした。
その使命を果たすため、わたしはアラン様と一緒に、来るべき王立学園の入学試験に向けて、勉強漬けの日々を送るようになったのです。
アラン様の書斎は、今ではわたしたち二人の、大切な勉強部屋となりました。
「リリアーナ。この問題は、こうやって解くんだ」
アラン様は、数学の問題を、わたしのノートに丁寧に書きながら説明してくださいます。
彼の指が、わたしの指のすぐ隣に触れるたび、わたしの胸はドキリと音を立てました。
彼はそれに気づいているのかいないのか、何も言わずに、真剣なまなざしで問題を見つめています。
わたしは、彼が教えてくださるたびに「わぁ、すごいです! アラン様は本当に頭が良いのですね」と素直に感動を伝えます。
最初は「別に」とそっけなく答えていたアラン様ですが、最近では、わたしが感心するたびに、少しだけ口角を上げて、照れたように顔を伏せて笑うようになりました。
その時、彼のプラチナブロンドの髪が、窓から差し込む光にきらきらと反射して、まるで物語の中の王子様のようでした。
わたしは、その笑顔に心臓を鷲掴みにされたかのような衝撃を受けました。
それは、わたしがこの屋敷に来てから、ずっと見守りたかった、温かい光でした。
「リリアーナは、理解が早いね」
ある時、彼が不意にそう言いました。
「いえ、アラン様の説明が、とても分かりやすいからですよ」
わたしがそう答えると、彼は少しだけ、恥ずかしそうに頬を染めました。
アラン様は、幼い頃から、身体が弱いことで同年代の貴族の子どもたちと遊ぶことがほとんどなかったそうです。
そのせいか、誰かに教えるという経験も、あまりなかったのかもしれません。
わたしは、そんな彼の新しい一面を知ることが、とても嬉しかったです。
勉強の合間には、庭園を散歩することもありました。
アラン様は、最初は義足の足を引きずるように歩き、わたしと距離を置いていらっしゃいました。
ですが、わたしが「アラン様、見てください! あのバラ、とても綺麗ですね!」と声をかけると、彼は少しだけ、わたしの方を向いてくださるようになりました。
「ああ、あれは珍しい品種で……」
彼は、花や植物の知識も豊富で、わたしに色々なことを教えてくださいました。
わたしは、彼の知識に触れるたび、彼がどれほど素晴らしい才能を持っているかを改めて知りました。
「アラン様は、本当にすごいです。わたし、こんなにすごい方と、お勉強をご一緒できるなんて、夢みたいだわ」
そう言うと、アラン様は、わたしの手を取ると、優しく、しかししっかりとした力で握りしめてくださいました。
「リリアーナ。貴女は、僕が……僕がどれほどに、希望を失って絶望していたか、知らないでしょう」
彼の声は、少しだけ震えていました。
わたしは、彼の言葉を静かに待ちました。
「でも、君が来てから……僕は、また、夢を見ることができたんです。もう一度、王立学園に入って、僕の学術で、この国に貢献したい、と」
アラン様の瞳に、力が戻っていくのがわかりました。
それは、わたしがこの屋敷に来た時、彼が持っていなかった輝きでした。
「ありがとう、リリアーナ。君がいてくれなければ、僕はきっと……」
そこまで言って、アラン様は言葉を詰まらせました。
わたしは、何も言わずに、ただ彼の手に、そっと自分の手を重ねました。
王立学園の入学試験は、近隣の貴族の子息令嬢たちが集まる、大規模なものです。
筆記試験だけでなく、面接や実技試験も行われ、アラン様は義足のため、実技試験には参加できないというハンデがありました。
そのため、筆記試験で誰よりも良い成績を収める必要があったのです。
わたしも、彼の隣に並ぶに相応しい人間になるため、そして、侯爵家に貢献するため、必死で勉強しました。
朝から晩まで、わたしたちは二人で、書斎にこもって勉強をしました。
「リリアーナ。少し休もうか」
アラン様が、時折、わたしが無理をしていないかと心配して声をかけてくださいました。
そのたびに、わたしは「大丈夫よ」と答え、また参考書に目を戻しました。
ある日の夜、わたしは疲れからか、勉強机でうとうとしてしまいました。
ふと、温かいものが、わたしの肩にかけられるのを感じて目を覚ますと、アラン様が、わたしの肩にご自身のブランケットをかけてくださっていました。
「……アラン様」
「無理はしなくていい。君が倒れてしまっては、意味がないよ」
そう言って、アラン様はわたしの髪を、そっと撫でてくださいました。
わたしは、その優しい仕草に胸が熱くなりました。
「ありがとう……」
アラン様は何も言わずに、わたしの隣に座ると、わたしの頭をご自身の肩にそっと乗せてくださいました。
「……あと、少しだから」
彼の肩に頭を乗せていると、彼の鼓動が、わたしの心臓に、トクントクンと伝わってくるのを感じました。
その温かさに、わたしは、いつしか眠りについていました。
そして、ついに、王立学園の入学試験の日がやってきました。
試験会場は王都にあり、侯爵様とアラン様、そしてわたしは、前日から侯爵様の別邸に宿泊していました。
会場には、たくさんの貴族の子息令嬢が集まっていました。
「アラン様、緊張しますね……」
わたしがそう言うと、アラン様はわたしの手を取り、優しく握りしめてくださいました。
「大丈夫だ。僕たちなら、きっとできる」
その言葉に、わたしは力が湧いてきました。
アラン様は、もう、未来を閉ざした、あの日の少年ではありませんでした。
彼の瞳は、強い意志と、明日への希望に満ちていました。
わたしたちは、二人で試験会場の扉をくぐりました。
後日、侯爵邸に届いた一通の手紙。
それは、王立学園からの、合否通知でした。
侯爵様は、その手紙を、わたしたち二人に、そっと差し出しました。
アラン様は、震える手で封を切り、中を読みました。
そして、アラン様は信じられない、という表情で、わたしと侯爵様を見つめました。
「……アラン、どうでした?」
侯爵様が尋ねると、アラン様は涙を浮かべながら、でも、最高の笑顔で言いました。
「合格です……! それも、首席で……!」
わたしは、思わず「凄いわ! おめでとうございます!」と叫んで、彼に抱きつきました。
そして、わたし自身の通知にも、目をやりました。
そこには、わたしの名前と、『合格』の文字、そして、『次席』の文字がはっきりと書かれていました。
わたしとアラン様は、王立学園の入学試験に、見事合格したのです。
しかも、わたしは、まさかの次席でした。
「……リリアーナ、君も、合格だ……!」
アラン様は、わたしの頭を優しく撫でながら、そう言って、わたしたちは二人で、喜びを分かち合いました。
その日の夜、侯爵様はわたしたちの合格を祝って、ささやかなパーティーを開いてくださいました。
侯爵様は、わたしを誇らしげな表情で見てくださいました。
そして、アラン様はわたしに最高の笑顔を向けてくださいました。
わたしは、この場所に、もう居場所があるのだと、心から感じることができました。
そして、アラン様は、そんなわたしにそっと囁きました。
「……学園の入学式を前に、一度、王都の舞踏会に一緒に行かない?」
侯爵様は、わたしが心の底から安心してこの屋敷で暮らせるようにと、何かと気を配ってくださいました。
そして、アラン様との勉強の時間を何よりも大切にしてくださったのです。
侯爵様がわたしを買い取られた、一番の理由。
それは、心を閉ざしてしまったお孫様を、もう一度、前を向かせるためでした。
その使命を果たすため、わたしはアラン様と一緒に、来るべき王立学園の入学試験に向けて、勉強漬けの日々を送るようになったのです。
アラン様の書斎は、今ではわたしたち二人の、大切な勉強部屋となりました。
「リリアーナ。この問題は、こうやって解くんだ」
アラン様は、数学の問題を、わたしのノートに丁寧に書きながら説明してくださいます。
彼の指が、わたしの指のすぐ隣に触れるたび、わたしの胸はドキリと音を立てました。
彼はそれに気づいているのかいないのか、何も言わずに、真剣なまなざしで問題を見つめています。
わたしは、彼が教えてくださるたびに「わぁ、すごいです! アラン様は本当に頭が良いのですね」と素直に感動を伝えます。
最初は「別に」とそっけなく答えていたアラン様ですが、最近では、わたしが感心するたびに、少しだけ口角を上げて、照れたように顔を伏せて笑うようになりました。
その時、彼のプラチナブロンドの髪が、窓から差し込む光にきらきらと反射して、まるで物語の中の王子様のようでした。
わたしは、その笑顔に心臓を鷲掴みにされたかのような衝撃を受けました。
それは、わたしがこの屋敷に来てから、ずっと見守りたかった、温かい光でした。
「リリアーナは、理解が早いね」
ある時、彼が不意にそう言いました。
「いえ、アラン様の説明が、とても分かりやすいからですよ」
わたしがそう答えると、彼は少しだけ、恥ずかしそうに頬を染めました。
アラン様は、幼い頃から、身体が弱いことで同年代の貴族の子どもたちと遊ぶことがほとんどなかったそうです。
そのせいか、誰かに教えるという経験も、あまりなかったのかもしれません。
わたしは、そんな彼の新しい一面を知ることが、とても嬉しかったです。
勉強の合間には、庭園を散歩することもありました。
アラン様は、最初は義足の足を引きずるように歩き、わたしと距離を置いていらっしゃいました。
ですが、わたしが「アラン様、見てください! あのバラ、とても綺麗ですね!」と声をかけると、彼は少しだけ、わたしの方を向いてくださるようになりました。
「ああ、あれは珍しい品種で……」
彼は、花や植物の知識も豊富で、わたしに色々なことを教えてくださいました。
わたしは、彼の知識に触れるたび、彼がどれほど素晴らしい才能を持っているかを改めて知りました。
「アラン様は、本当にすごいです。わたし、こんなにすごい方と、お勉強をご一緒できるなんて、夢みたいだわ」
そう言うと、アラン様は、わたしの手を取ると、優しく、しかししっかりとした力で握りしめてくださいました。
「リリアーナ。貴女は、僕が……僕がどれほどに、希望を失って絶望していたか、知らないでしょう」
彼の声は、少しだけ震えていました。
わたしは、彼の言葉を静かに待ちました。
「でも、君が来てから……僕は、また、夢を見ることができたんです。もう一度、王立学園に入って、僕の学術で、この国に貢献したい、と」
アラン様の瞳に、力が戻っていくのがわかりました。
それは、わたしがこの屋敷に来た時、彼が持っていなかった輝きでした。
「ありがとう、リリアーナ。君がいてくれなければ、僕はきっと……」
そこまで言って、アラン様は言葉を詰まらせました。
わたしは、何も言わずに、ただ彼の手に、そっと自分の手を重ねました。
王立学園の入学試験は、近隣の貴族の子息令嬢たちが集まる、大規模なものです。
筆記試験だけでなく、面接や実技試験も行われ、アラン様は義足のため、実技試験には参加できないというハンデがありました。
そのため、筆記試験で誰よりも良い成績を収める必要があったのです。
わたしも、彼の隣に並ぶに相応しい人間になるため、そして、侯爵家に貢献するため、必死で勉強しました。
朝から晩まで、わたしたちは二人で、書斎にこもって勉強をしました。
「リリアーナ。少し休もうか」
アラン様が、時折、わたしが無理をしていないかと心配して声をかけてくださいました。
そのたびに、わたしは「大丈夫よ」と答え、また参考書に目を戻しました。
ある日の夜、わたしは疲れからか、勉強机でうとうとしてしまいました。
ふと、温かいものが、わたしの肩にかけられるのを感じて目を覚ますと、アラン様が、わたしの肩にご自身のブランケットをかけてくださっていました。
「……アラン様」
「無理はしなくていい。君が倒れてしまっては、意味がないよ」
そう言って、アラン様はわたしの髪を、そっと撫でてくださいました。
わたしは、その優しい仕草に胸が熱くなりました。
「ありがとう……」
アラン様は何も言わずに、わたしの隣に座ると、わたしの頭をご自身の肩にそっと乗せてくださいました。
「……あと、少しだから」
彼の肩に頭を乗せていると、彼の鼓動が、わたしの心臓に、トクントクンと伝わってくるのを感じました。
その温かさに、わたしは、いつしか眠りについていました。
そして、ついに、王立学園の入学試験の日がやってきました。
試験会場は王都にあり、侯爵様とアラン様、そしてわたしは、前日から侯爵様の別邸に宿泊していました。
会場には、たくさんの貴族の子息令嬢が集まっていました。
「アラン様、緊張しますね……」
わたしがそう言うと、アラン様はわたしの手を取り、優しく握りしめてくださいました。
「大丈夫だ。僕たちなら、きっとできる」
その言葉に、わたしは力が湧いてきました。
アラン様は、もう、未来を閉ざした、あの日の少年ではありませんでした。
彼の瞳は、強い意志と、明日への希望に満ちていました。
わたしたちは、二人で試験会場の扉をくぐりました。
後日、侯爵邸に届いた一通の手紙。
それは、王立学園からの、合否通知でした。
侯爵様は、その手紙を、わたしたち二人に、そっと差し出しました。
アラン様は、震える手で封を切り、中を読みました。
そして、アラン様は信じられない、という表情で、わたしと侯爵様を見つめました。
「……アラン、どうでした?」
侯爵様が尋ねると、アラン様は涙を浮かべながら、でも、最高の笑顔で言いました。
「合格です……! それも、首席で……!」
わたしは、思わず「凄いわ! おめでとうございます!」と叫んで、彼に抱きつきました。
そして、わたし自身の通知にも、目をやりました。
そこには、わたしの名前と、『合格』の文字、そして、『次席』の文字がはっきりと書かれていました。
わたしとアラン様は、王立学園の入学試験に、見事合格したのです。
しかも、わたしは、まさかの次席でした。
「……リリアーナ、君も、合格だ……!」
アラン様は、わたしの頭を優しく撫でながら、そう言って、わたしたちは二人で、喜びを分かち合いました。
その日の夜、侯爵様はわたしたちの合格を祝って、ささやかなパーティーを開いてくださいました。
侯爵様は、わたしを誇らしげな表情で見てくださいました。
そして、アラン様はわたしに最高の笑顔を向けてくださいました。
わたしは、この場所に、もう居場所があるのだと、心から感じることができました。
そして、アラン様は、そんなわたしにそっと囁きました。
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