【完結】私は借金返済で売られた令嬢だけれど、侯爵家に拾われて溺愛されるなんて聞いてません！

最終章 分家創設

　舞踏会でのプロポーズから数日後。

わたしは、侯爵様の執務室に、アラン様と二人で呼び出されていました。

 　侯爵様は、いつものように温かい笑顔で、わたしたちを迎えてくださいました。

　「……リリアーナ。そして、アラン。舞踏会での、二人の姿は本当に輝いていた」

　侯爵様が、そう言ってくださると、わたしの頬は熱くなりました。 

　アラン様も少しだけ照れたように、はにかんでいました。

　「……ありがとうございます、侯爵様」

　アラン様がそう言うと、侯爵様は、わたしたちの様子を、優しそうに見つめながら言いました。

　「……アラン。お前が、もう一度、夢を追いかけ、こんなにも立派になってくれた。そして、リリアーナ。お前が、この家に来てくれて、本当にこの家は明るくなった」

　侯爵様の言葉に、わたしの胸は温かい光に満たされていきました。

 　わたしは、この家に来て本当に、良かった。

 　そう、心から思いました。

　「……そして、今日、二人に、話しておきたいことがある」

　侯爵様はそう言うと、一枚の書類をわたしたちに差し出しました。

 　わたしは、その書類に目を落としました。

 　そこには、「ヴァンデル家分家創設」という、文字が、書かれていました。

 　 わたしは驚きで、息を呑みました。 

　分家を創設する、ということは、新しい家を興し、爵位を持つ、ということです。

 　「……侯爵様、これは……」

　アラン様が驚いたように、そう尋ねました。 

　侯爵様は、静かに頷かれました。

　「……ああ。アラン、お前をこの侯爵家の次期当主として迎える。だが、その前に、リリアーナには分家を創設させようと思う」

　侯爵様の言葉に、わたしは、ますます頭の中が混乱しました。

 　ですが、アラン様はすべてを理解したように、侯爵様を見つめました。 

 　「……侯爵様。リリアーナが分家の当主になる、ということですね？」

　アラン様が、そう尋ねると、侯爵様は、優しく頷かれました。

　「……そうだ。可愛いリリアーナ。お前を、その分家の正式な当主にして、アランと結婚したら、私たちの本家に迎え入れる。そうすれば、お前の準男爵家の不名誉など、なくなるだろう？」

　侯爵様の言葉に、わたしの目から涙があふれてきました。 

　わたしは、かつて、不要な娘として、売られました。

 　ですが、今、わたしは、こんなにも、温かい家族に迎え入れられようとしていました。

　「こ……侯爵様……」

　わたしは、声にならない声でそう言うと、侯爵様はわたしの頭を優しく撫でてくださいました。

　「……リリアーナ。お前は、この家の光だ。この家に来てくれて、本当に良かった良かった……」

　その言葉に、わたしは涙が止まりませんでした。

 　アラン様は、わたしの手を取り、優しく抱きしめてくださいました。

 　「……リリアーナ。これで、君は、もう僕の隣にいることを、誰にも何も言われなくなるよね」

 　侯爵様は、わたしが正式にアラン様の隣に立つことができるように、この分家を創設してくださいました。

 　それは、わたしたちへの温かい愛でした。 

　 わたしは、アラン様の胸に顔を埋め、彼の温かい鼓動を感じました。 

　「……アラン様、ありがとうございます……」

　わたしがそう言うと、アラン様は、わたしの頬に、そっとキスをしてくださいました。


 　 　***


　そして、数ヶ月後。

 　わたしとアラン様は、無事に婚約を正式に発表しました。

 　かつて、わたしを罵った令嬢たちも、そして、わたしを売り払った父と継母も、もう、わたしたちに何も言うことはできません。

　 もう過去を振り返ることはない。

 　わたしには、アラン様が、そして温かい家族がいます。


 　 ある日の午後。

 　わたしは、侯爵家の庭園でアラン様と一緒にお茶を飲んでいました。

 　「……リリアーナ。僕は、君に出会えて本当に幸せなんだ」

　アラン様がそう言って、わたしの手を取り、優しくキスをしてくださいました。

 　わたしは、彼の言葉に心臓が高鳴りました。

 　「……わたくも、アラン様に出会えて幸せよ」

　幸せを噛み締めるようにそう言うと、アラン様は、わたしの髪を優しく撫でてくださいました。

　「これからは、僕が、君をずっと守るからね」

　アラン様のその言葉に、わたしは、心から安心しました。

 　もう一人ではない。

 　わたしにはアラン様という、大切な人がいます。



【完】