8 / 40
(8)
王宮での新生活が始まって数日。
これほど華やかな場所が、これほど冷たいものだとは思ってもみなかった。
「ねえ、新しい王太子妃さまってさ、本命の王女様の身代わりで来たんでしょ?」
廊下を歩いていると、聞こえてくるのはそんなささやき声ばかり。
近くを通りかかるたびに、わざとらしく口を覆って笑う侍女たちの姿が目に入る。
「まあまあ、王女だってきどってるけど、きっと庶民に毛が生えてるくらいって話よ。きっとティーカップの持ち方も知らないんじゃない?」
そんな言葉が背後から飛んでくるたび、胸がズキズキ痛む。
でも、ここで立ち止まるわけにはいかない。
私は振り返らずに歩き続けた。
いや、実際には「歩き続けた風」を装っていただけで、内心は「ああ、やっぱり戻りたい……」と叫んでいた。
***
レオニードとの距離も、これまた寒々しいものだった。
朝の食事も、昼の謁見も、彼と目が合うことなんてほとんどない。
そもそも、彼が視線を合わせる気がない。
食事の席で、彼はいつも私に一言だけ話しかけてくる。
「食べているか?」
その冷ややかな声に、私は思わず笑顔を貼り付ける。
「ええ、とても美味しいですわ。」
でも、内心ではツッコんでいる。
(どうせ私が何を答えたって興味ないくせに!)
彼はそれ以上言葉を続けることなく、あっさりと視線を逸らす。
せっかくの食事も、味がわからなくなるほど気まずい雰囲気に包まれるばかりだ。
***
しかし、そんな孤独な日々の中でも、少しずつ私の心を癒してくれる存在が現れた。
それは、王宮の下働きの人たちだった。
「王太子妃さま、お掃除道具を運ぶのを手伝ってもらえませんか?」
ある日、そんなお茶目なお願いをされたとき、私はすぐに快く引き受けた。
すると、彼らは目を丸くして驚いた表情を浮かべた。
「まさか、こんなことまでしてくださるなんて……!」
「何言ってるの、頼まれたら断れない性分なのよ。」
私は笑って答えたけど、本当は自分でもびっくりしていた。
誰かに頼られるのが、こんなに嬉しいなんて。
***
その日から、私は少しずつ下働きの人たちと打ち解けていった。
彼らの仕事を手伝うたびに、彼らの優しさや温かさに触れることができたからだ。
「王太子妃さま、ここの拭き方はこうです。ほら、こうやって。」
「へえ、なるほど。さすがプロね。」
そんな会話が増えるたび、少しずつ心が軽くなっていくのを感じた。
でも、そんな私の行動が、ある日レオニードの耳に入ったらしい。
***
夜、いつものように冷え切った空気の中、彼がぽつりと言った。
「君が侍女たちと掃除をしていると聞いたが、本当か?」
その声には、ほんの少しの苛立ちが混ざっているように聞こえた。
私は、彼の視線を真っ直ぐに見返した。
「ええ、本当ですわ。」
「なぜそんなことをする?」
「なぜって……彼らが頼んできたからです。それに、私も楽しいですから。」
その言葉に、彼はほんの少し眉をひそめた。
でも、何も言い返してこない。
その代わりに、何かを言いたげな表情で私を見つめていた。
***
その夜、私はベッドに入ってからも彼の言葉を思い返していた。
彼は何を考えているんだろう?
冷たい態度の裏に、少しだけ優しさが隠れているように見えたのは、私の気のせいだったのかな?
「まあ、いいわ。形だけの夫婦でも、私たちが少しでも近づけるなら、それでいい。」
そう自分に言い聞かせながら、眠りについた。
これほど華やかな場所が、これほど冷たいものだとは思ってもみなかった。
「ねえ、新しい王太子妃さまってさ、本命の王女様の身代わりで来たんでしょ?」
廊下を歩いていると、聞こえてくるのはそんなささやき声ばかり。
近くを通りかかるたびに、わざとらしく口を覆って笑う侍女たちの姿が目に入る。
「まあまあ、王女だってきどってるけど、きっと庶民に毛が生えてるくらいって話よ。きっとティーカップの持ち方も知らないんじゃない?」
そんな言葉が背後から飛んでくるたび、胸がズキズキ痛む。
でも、ここで立ち止まるわけにはいかない。
私は振り返らずに歩き続けた。
いや、実際には「歩き続けた風」を装っていただけで、内心は「ああ、やっぱり戻りたい……」と叫んでいた。
***
レオニードとの距離も、これまた寒々しいものだった。
朝の食事も、昼の謁見も、彼と目が合うことなんてほとんどない。
そもそも、彼が視線を合わせる気がない。
食事の席で、彼はいつも私に一言だけ話しかけてくる。
「食べているか?」
その冷ややかな声に、私は思わず笑顔を貼り付ける。
「ええ、とても美味しいですわ。」
でも、内心ではツッコんでいる。
(どうせ私が何を答えたって興味ないくせに!)
彼はそれ以上言葉を続けることなく、あっさりと視線を逸らす。
せっかくの食事も、味がわからなくなるほど気まずい雰囲気に包まれるばかりだ。
***
しかし、そんな孤独な日々の中でも、少しずつ私の心を癒してくれる存在が現れた。
それは、王宮の下働きの人たちだった。
「王太子妃さま、お掃除道具を運ぶのを手伝ってもらえませんか?」
ある日、そんなお茶目なお願いをされたとき、私はすぐに快く引き受けた。
すると、彼らは目を丸くして驚いた表情を浮かべた。
「まさか、こんなことまでしてくださるなんて……!」
「何言ってるの、頼まれたら断れない性分なのよ。」
私は笑って答えたけど、本当は自分でもびっくりしていた。
誰かに頼られるのが、こんなに嬉しいなんて。
***
その日から、私は少しずつ下働きの人たちと打ち解けていった。
彼らの仕事を手伝うたびに、彼らの優しさや温かさに触れることができたからだ。
「王太子妃さま、ここの拭き方はこうです。ほら、こうやって。」
「へえ、なるほど。さすがプロね。」
そんな会話が増えるたび、少しずつ心が軽くなっていくのを感じた。
でも、そんな私の行動が、ある日レオニードの耳に入ったらしい。
***
夜、いつものように冷え切った空気の中、彼がぽつりと言った。
「君が侍女たちと掃除をしていると聞いたが、本当か?」
その声には、ほんの少しの苛立ちが混ざっているように聞こえた。
私は、彼の視線を真っ直ぐに見返した。
「ええ、本当ですわ。」
「なぜそんなことをする?」
「なぜって……彼らが頼んできたからです。それに、私も楽しいですから。」
その言葉に、彼はほんの少し眉をひそめた。
でも、何も言い返してこない。
その代わりに、何かを言いたげな表情で私を見つめていた。
***
その夜、私はベッドに入ってからも彼の言葉を思い返していた。
彼は何を考えているんだろう?
冷たい態度の裏に、少しだけ優しさが隠れているように見えたのは、私の気のせいだったのかな?
「まあ、いいわ。形だけの夫婦でも、私たちが少しでも近づけるなら、それでいい。」
そう自分に言い聞かせながら、眠りについた。
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
地味令嬢の私が婚約破棄された結果、なぜか最強王子に溺愛されてます
白米
恋愛
侯爵家の三女・ミレイアは、控えめで目立たない“地味令嬢”。
特に取り柄もなく、華やかな社交界ではいつも壁の花。だが幼いころに交わされた約束で、彼女は王弟・レオンハルト殿下との婚約者となっていた。
だがある日、突然の婚約破棄通告――。
「やはり君とは釣り合わない」
そう言い放ったのは、表向きには完璧な王弟殿下。そしてその横には、社交界の華と呼ばれる公爵令嬢の姿が。
悲しみも怒りも感じる間もなく、あっさりと手放されたミレイア。
しかしその瞬間を見ていたのが、王家随一の武闘派にして“最強”と噂される第一王子・ユリウスだった。
「……くだらん。お前を手放すなんて、あいつは見る目がないな」
「よければ、俺が貰ってやろうか?」
冗談かと思いきや、なぜか本気のご様子!?
次の日には「俺の婚約者として紹介する」と言われ、さらには
「笑った顔が見たい」「他の男の前で泣くな」
――溺愛モードが止まらない!
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?
志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。
父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。
多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。
オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。
それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。
この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています
ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!
誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』
富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
幸せなお飾りの妻になります!
風見ゆうみ
恋愛
私、アイリス・ノマド男爵令嬢は、幼い頃から家族のイタズラ癖に悩まされ、少しでも早く自立しようと考えていた。
婚約者のロバート・デヴァイスと、家族と共に出席した夜会で、ロバートから突然、婚約破棄を宣言された上に、私の妹と一緒になりたいと言われてしまう。
ショックで会場を出ようとすると引き止められ、さっきの発言はいつものイタズラだと言われる。
イタズラにも程があると会場を飛び出した私の前に現れたのは、パーティーの主催者であるリアム・マオニール公爵だった。
一部始終を見ていた彼は、お飾りの妻を探しているといい、家族から逃げ出したかった私は彼の元へと嫁ぐ事になった。
屋敷の人もとても優しくて、こんなに幸せでいいの?
幸せを感じていたのも束の間、両親や妹、そして元婚約者が私に戻ってこいと言い出しはじめて――。
今更、後悔されても知らないわ!
※作者独自の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。