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第六章

第48話

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 牢獄のヒドラ獣たちの屍を前にして、クララとセリスは、お互いの顔を見つめ合っていた。
 
「あなたが、セリストさまだったなんて……」

 クララはにわかに信じがたかった。

 しかし、セリスがこれまでのいきさつと、首にかけていたペンダントのロケットの中身を見てから、それは疑念から確信に変わった。

 クララは、小さく丸められた自身の髪を見た途端、セリスの胸元に抱きついて、嗚咽した。

「クララ、落ち着いて話をきいてくれ。ぼくらはこれから、もっと強大な親ヒドラと戦うことになる。
そうしたら、さっきのような戦いはできなくなるだろう。君を守り抜けるか、正直、分からないんだ」

「どうするつもりなの?」
 クララは涙目で訊いた。

「さっき、テレス神官が教えくれた転移魔法はできるかい?」

「できるわ。でも、あれは黒魔術で、禁止されているものだし。何より、相手が死んだら、自身の命まで危なく……」

 クララは言いかけて、セリストの本意を察して、激しく首を振った。

「セリスト、あなた、私の犠牲になるつもりね。そんなことは絶対させない」

 セリストは、クララの肩をつかんだ。

「よく聞いてくれ。ぼくは今は剣士ではなく、ただの付き人に過ぎない。
敵は油断している。だから、攻撃される標的は君だ。それをわかっていて、テレス神官はあの魔術をあえて教えたんだと思うんだ」

「だからって……危険すぎるわよ」 

「しかし、さっきみたいに君が防御していても、敵は倒せない。攻撃のダメージも覚悟しないと」

 クララは、袖先で涙を拭うと、大きく息をついてから、頷いた。

「わかった。わたしは、セリストの命を守りたい」

 クララはそう言うと、短刀で自身の手のひら傷を付け、セリストに渡した。

 セリストも同じく傷を入れた。二人は傷ついた手のひらを合わせた。

 クララが黒魔術を唱え始めると、黒い霧が部屋の中に充満した。
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