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4-1 叔父夫婦
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叔父は昼間というのに、働きもせず、のんびりとベランダで酒を飲んでいた。
妻は昨日、市場からアンティネットに買ってこさせたソーセージで、豪勢な昼食を作っていた。もちろん、アンティネットには食べさせるつもりはない。
叔父と姉のアテーネは、父親が伯爵で、王都に屋敷を構えていた。だが、父親がギャンブルで散財して没落したため、この片田舎に引っ越してきたのだった。
貴族出身の者は、そもそも魔法の血が強いため、努力すれば、魔法の力をいかんなく発揮できる。
アテーネは、努力して王立魔法学校の主席で卒業して、わずか20才で魔法省の上級騎士になった。だが、弟の叔父は生来の怠け癖が抜けず、亡くなった親の農場を引き継いだ。だが、楽チン主義の人任せの人間が、生き物の世話など、うまくいくはずはなく、大半の家畜を死なせて、経営は行き詰まった。
しかし、15年前にデスモント卿卿との戦闘で姉のアテーネが亡くなり、娘のアンティネットを預かることになったことで、金欠生活から抜け出す機会を得た。
アンティネットに支給された金は還元せず、夫妻と実の娘が消費して、本人には食べ残しの食事をあてがっている。
家では、部屋の掃除から調理と皿洗いと、小間使いのようにこき使った。
しかも、市場で稼いだ金はむしり取り、寝所は昔使っていた豚小屋をあてがい、自分たちは、養育費で改築した、レンガ造りの立派な屋敷に住んでいた。
さらに養育費で、これまでの畑作業や家畜の放牧の仕事場はやめていたので、夫妻も娘もふくよかな貫禄のある体型となり、お腹は脂肪で、ぷっくりと膨らんでいた。
叔父がほろ酔い気分で、ぶどう酒のジョッキを傾けていると、1台の馬車がやってきた。
車内から、魔法省の役人が令嬢を伴って降りてきて、叔父に挨拶をしてきた。
「こんにちは。今朝は、お嬢さんのアンティネット嬢のことで、さっきは世話になった。無事、彼女と合流できた。礼を言う」
「そうですか。お役人様、それはよかった。あの娘は、姉の子供でしてね。森で何か見つけては売りさばいているようで。何か、ありましたかね?」
「実は、アンティネット嬢の養育の件で、相談があるのだ。ちょっと、中で話したいのだが、いいか?」
スハルトが言うと、アンティネットの前では横柄な叔父でも、魔法省の上級役人の前では低姿勢で、愛想笑いを浮かべる。
「もちろん。ちょうど、昼ごはんができたころみたいです。よかったら、ご一緒いかがですか。ところで、隣のお嬢さんですが」
スハルトの横で、とぼけて立って微笑しているロングドレスの令嬢をじろりと眺めまわす。
「あの、どなたでしょうか? どこかで見覚えがあるみたいなのですが……」
「ふふふっ」
アンティネットは、小声で笑うと、あごを上げて、わざとすまし顔になり、叔父を見返してやった。
(わたし、見違えるように変わったのだもの。どうせ、叔父様も叔母様も、気づかないでしょうね)
「お連れ様はずいぶんとお綺麗な方ですな。さあ、どうぞ、どうぞ」
叔父は首をひねりながら、スハルトとお供のなぞの令嬢を屋敷の中に案内した。
三人がリビングのテーブルに着席すると、同じく太鼓腹の叔母がエプロン姿で、台所から大皿をもってやってきた。
皿にはこんがり焼いたソーセージに赤いトマトソースがかけてあり、脇にはゆでたジャガイモと人参が添えてある。鼻をくすぐるいい匂いがただよっていて、アンティネットは思わず、悔しくなって膝に置いた手をぎゅっと握る。
(……わたしの養育費で、毎日お酒を飲んで、おいしいごはんをたらふく食べていたんでしょうね。まるで、ブタみたいだけど)
妻は昨日、市場からアンティネットに買ってこさせたソーセージで、豪勢な昼食を作っていた。もちろん、アンティネットには食べさせるつもりはない。
叔父と姉のアテーネは、父親が伯爵で、王都に屋敷を構えていた。だが、父親がギャンブルで散財して没落したため、この片田舎に引っ越してきたのだった。
貴族出身の者は、そもそも魔法の血が強いため、努力すれば、魔法の力をいかんなく発揮できる。
アテーネは、努力して王立魔法学校の主席で卒業して、わずか20才で魔法省の上級騎士になった。だが、弟の叔父は生来の怠け癖が抜けず、亡くなった親の農場を引き継いだ。だが、楽チン主義の人任せの人間が、生き物の世話など、うまくいくはずはなく、大半の家畜を死なせて、経営は行き詰まった。
しかし、15年前にデスモント卿卿との戦闘で姉のアテーネが亡くなり、娘のアンティネットを預かることになったことで、金欠生活から抜け出す機会を得た。
アンティネットに支給された金は還元せず、夫妻と実の娘が消費して、本人には食べ残しの食事をあてがっている。
家では、部屋の掃除から調理と皿洗いと、小間使いのようにこき使った。
しかも、市場で稼いだ金はむしり取り、寝所は昔使っていた豚小屋をあてがい、自分たちは、養育費で改築した、レンガ造りの立派な屋敷に住んでいた。
さらに養育費で、これまでの畑作業や家畜の放牧の仕事場はやめていたので、夫妻も娘もふくよかな貫禄のある体型となり、お腹は脂肪で、ぷっくりと膨らんでいた。
叔父がほろ酔い気分で、ぶどう酒のジョッキを傾けていると、1台の馬車がやってきた。
車内から、魔法省の役人が令嬢を伴って降りてきて、叔父に挨拶をしてきた。
「こんにちは。今朝は、お嬢さんのアンティネット嬢のことで、さっきは世話になった。無事、彼女と合流できた。礼を言う」
「そうですか。お役人様、それはよかった。あの娘は、姉の子供でしてね。森で何か見つけては売りさばいているようで。何か、ありましたかね?」
「実は、アンティネット嬢の養育の件で、相談があるのだ。ちょっと、中で話したいのだが、いいか?」
スハルトが言うと、アンティネットの前では横柄な叔父でも、魔法省の上級役人の前では低姿勢で、愛想笑いを浮かべる。
「もちろん。ちょうど、昼ごはんができたころみたいです。よかったら、ご一緒いかがですか。ところで、隣のお嬢さんですが」
スハルトの横で、とぼけて立って微笑しているロングドレスの令嬢をじろりと眺めまわす。
「あの、どなたでしょうか? どこかで見覚えがあるみたいなのですが……」
「ふふふっ」
アンティネットは、小声で笑うと、あごを上げて、わざとすまし顔になり、叔父を見返してやった。
(わたし、見違えるように変わったのだもの。どうせ、叔父様も叔母様も、気づかないでしょうね)
「お連れ様はずいぶんとお綺麗な方ですな。さあ、どうぞ、どうぞ」
叔父は首をひねりながら、スハルトとお供のなぞの令嬢を屋敷の中に案内した。
三人がリビングのテーブルに着席すると、同じく太鼓腹の叔母がエプロン姿で、台所から大皿をもってやってきた。
皿にはこんがり焼いたソーセージに赤いトマトソースがかけてあり、脇にはゆでたジャガイモと人参が添えてある。鼻をくすぐるいい匂いがただよっていて、アンティネットは思わず、悔しくなって膝に置いた手をぎゅっと握る。
(……わたしの養育費で、毎日お酒を飲んで、おいしいごはんをたらふく食べていたんでしょうね。まるで、ブタみたいだけど)
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