【完結】偽聖女だと追放されたけど、無骨な村人(実は元騎士団長)に溺愛されています

朝日みらい

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最終章:春の続きを、あなたと

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 あれから、いくつもの季節が巡りました。

 エルミナの森は、相変わらず静かで、優しくて、私の心を包み込んでくれます。

 今では、村の祭りではパン係として名前を挙げられ、教会では子どもたちの遊び相手として人気者になり、おばあさま方からは「今年もマフラー頼むねぇ」と毛糸を渡され──気づけば、すっかり“レーネさん”として馴染んでいました。

 カイは相変わらず無口ですが、それでもたまにぽつりと、こんな言葉をくれるのです。

「……お前が笑ってると、村もあったかくなる」

 もうっ。そういうことを真顔で言わないでくださいってば。

 それでも──わたしはきっと、一生、あなたにときめいてしまうのでしょう。

 王都では今も、時折手紙が届きます。

「また、遊びに来てくださいね」

「新しい聖女制度が始まりました」

「子どもたちが“レーネ式癒しの術”を真似しています」

 わたしはそれらを読んでは、ふふっと笑って、カイにも読み聞かせるのです。

「……ちゃんと、見てくれている人がいたのね」

 カイはうなずいて、薪を積みながら一言だけ。

「お前のこと、見てないやつなんて、いない」

 ──そんな言葉が、わたしの世界を満たしていく。

 “偽聖女”と呼ばれた過去も、涙を流したあの日も、今ではすべて、春の景色の中へ溶けていきました。

 そして私は今日も、パンを焼きながら──ふと思うのです。

「わたしの人生は、誰かのために捧げるものじゃない。けれど、誰かとともに歩くものになった」

 この森の春は、まだまだ終わりません。

 だって──わたしたちは、これから何度でも、春を迎えられるから。



【完】
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