Crack Clap Crispy

老神龍

文字の大きさ
上 下
4 / 4

第3話 降り頻る粉にとかれた雪

しおりを挟む

翌日、遠征の途中


海賊船 本艦  船上




何かにふけるように船上に出た

潮の囁くような風を無視する

海と夕陽がよく見えそうな場所で沈むように座り込む

時刻は黄昏に差し掛かる

嗚呼

自分の行いで能力を縮めてしまった。

そう考えてしまったことによりクラッカーは激しく萎えていた

別に悪いことではないだろう

自分の誕生日を祝いたかっただけなのに何でこうなってしまったのか

思考が巡回しているところににカタクリが現れた

側面に向かって体育座りで海を眺めていたクラッカー。

寄り添うように隣に座るカタクリ

少しの間、潮騒が2人の肌を撫でた。

暫くしてカタクリの口が動く

「悪魔の実とうまくやってけそうか?」

「ああ、いい能力さ 俺が一番欲しかった力だからな」

「そうか…」

「でも俺は自分で自分の可能性を狭めてしまったんだ

それがどうしようもなく悔しい」

「…詳しく聞いていいか?」

「ああ」

全てを話した 夕陽がちょうど2人に触れる


~~~


「そうだったか、そいつは確かに堪えるな…

実を言うとな、俺も最初は体が少しモチモチするぐらいだったんだ。」

⁉︎  耳を疑った だって兄さんは兄弟の中で誰よりも強かったから

「冗談だと思ったさ、なんせ予想していたものとあまりにもかけ離れていたからな

モチが沢山出て相手を捕縛できるのか
はたまた餅のように柔軟に攻撃を受け流すのか

それがただ体がモチモチするだけだったなんてな フッ

大いに困惑した、だがそれと同時に心に誓ったんだ。

能力が使い物にならないならその分身体能力でカバーすればいい、

研鑽の中で能力が進化するかも知れないし

それでもダメならそれから考えればいい、
今は自分のできることを頑張ろう
ってな。」

言葉が出なかった
あの完璧なカタクリ兄さんが人知れず泥臭く努力をしていたなんて衝撃だった。
それに、すぐに思考を切り替えて
研鑽に費やす気力や即座に希望的観測で自分を鼓舞するその心の強さに深く深く感化された

そして、そこからここまで強くなった兄さんの存在が何よりの証明になっていた。
俺はその姿を見て心から救われた気がした。

暖かい夕陽が2人を包み込んでいた

「それにな、自分で能力を狭めた だなんて思うかも知れないが、

自分で縛りを設けた分効果が強力になったかも知れない。

最初から何かしら物体を出せてる時点で俺は正直羨ましいと思ってるしな。

あと、超人系の悪魔の実は、自然系や動物系と違って一番未知数な系統だから、伸ばせば強くなれる可能性が高いんだ。

「でも兄貴は自然系だろ?」

「俺は特殊な超人系らしい」

そんなのどっちでも捉えられるだろ!

カタクリに励まされて沁みている心の中で野暮なツッコミを繰り出した。

「動物系の悪魔の実には意志が宿っていると言われてるのを知ってるか?」

空気が変わった気がした

そう感じたと同時に冬島の海域に突入した

粉のような雪が少しずつ増えながら周りを囲む

…俺は首を横に振った

「これは仮説なんだが俺は超人系にも宿ると思っている

全ての悪魔の実は食えば泳げなくなるほど海から嫌われるっていう特徴があるが、
ただの果物にそんな統一性があるのがとても不自然に感じてな。」

雪が少しだけ強くなった

「さらにそこから派生させると、
昔本当にいた超能力者たちが
海の禁忌を侵し、嫌われ、
果物に変身させられてしまったんじゃないかと考えてならない」


勢いを増した雪は風に唆されるように
斜めに降り始めた

2人とも身体が少し冷えてきて それに応えるように顔が少し赤くなった
人間の基本的な保温機能だ。

…急にどうしたんだ?

兄さんは聡明で不思議と物事の本質を見据えているところがあったが
今回は少し怖ろしいと感じた。

先程から雪をばら撒いていた雲は灰色になり、厚みが増した。
雪がさらに強くなる。

「つまり何が言いたいかと言うと

俺は餅のような身体になる能力

お前は手を叩くとビスケットが出る能力

俺もお前も そのものには成れていない

あくまで「摸している」と言う点では一致しているわけだ。

2人は流石に屋根の下に移動した

覗くように横から雪も降る

「特異な発動条件を持つその様子を見るに

お前の力の正体は、昔人間だった悪魔が







【何かしらの概念をなぞって生み出した能力】







…であった可能性が高い」

!?

一瞬音が消えた  …ように思えた


視界が奪われるほどの酷く白々しい雪に2人は匿された

雪は窓を覆い、稀に降る雹は不安を煽るように船の戸を叩く

俺は勇気づけられるよりも飛躍し過ぎた話に驚きを隠せずにいた。

その様子に気を配ることなく話を続ける

「だから、お前のせいで能力が縮んだのではなく

元々そういうものだったかも知れないから

あまり気に病むな。」

兄さんは優しく、静かに、それでいて力強く、励ますような様子で此方を向き、

                                   
まっすぐに熱い視線を通わせた。




    『クラッカー、お前は必ず強くなれる』





雪雲から光が差した。



雪の勢いがだんだんと無くなっていった



降雪が止んで、積雪が少しずつ溶け始めた。



兄さんの目が僅かながら細くなり、少し笑顔になった気がした。



性格も強さも完璧。自分が今一番尊敬している身近な目標であり、



理想の化身である兄さんにここまで勇気づけてもらえた。



めちゃくちゃ嬉しかった 胸から言葉にできない程の幸せな感情が氾濫した


でも…兄さん、


俺は貴方が怖い。



いつか人知れず世界の真実を解き明かしてしまって



俺たちの前から消えちまうんじゃねえかって心配なんだ。



全く、兄さんはいったいどこまで見えているんだろう。


この世の真実を。






そして、過去も 未来も。











カタクリから受け取った


3割の勇気


6割の驚き 


そして、


1割ほどの興味と興奮がクラッカーの心臓をかすかに滾らせた


2人は震える身体を擦りながら船内に戻った。



~~~
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...