呪いの一族と一般人

守明香織

文字の大きさ
17 / 374
第二章 呪いを探す話

第3話 新たな仕事


「呪いの調査?」
 日和ひよりは首を傾げる。

「術者は特定出来ているのですが、何の術を使っているのかが分からないのです。お二人には、術の特定をして頂き、可能ならば解呪をお願いします」

 総一郎そういちろうの説明に、碧真あおしが眉を寄せる。

「どういう事です? 術者が特定出来ているのなら、本人に聞けば良い話じゃないですか」
 総一郎は困った顔で首を横に振った。

「聞く事は出来ません。術者自身が、自分に術をかけて眠っているのですよ」

「自分に術を?」
 日和は戸惑う。碧真も訝しげに眉を寄せた。

「術者は鬼降魔きごうま愛美あいみさん。十八歳の女性です。先程、彼女の母親から連絡があり、愛美さんが術を使用している事がわかりました。愛美さんは、三日前から眠り続けているそうです」


 母親の話では、三日前の朝に愛美がいつまで経っても起きて来なかったと言う。
 部屋へ向かい、愛美の姿を見た母親は、何かしらの術が使われているのだとわかった。母親がいくら起こそうとしても、愛美は目を覚さない。何の術を使ったのか、部屋の中を調べても術に関する物は見つからなかった。 
 母親は目を覚さない愛美を病院に連れて行ったが、『異常は無く、ただ眠っているだけの状態』と診断された。
 

「眠り続ける呪いがあるんですか?」
 日和の問いに、総一郎は首を横に振る。

「いえ、鬼降魔家の術にはありません。愛美さんが新たに術を作ったと言うのなら話は別ですが、彼女の家はそこまで呪術に詳しく無い。愛美さんも鬼降魔の力を持っていますが、あまり術を使った事が無く、力は弱い方だと彼女の母親が言っていました」

「……他の家の術を使っている可能性は?」
 碧真が眉を寄せて尋ねる。総一郎は首を横に振った。

「”無い”とは言い切れませんが、末端の家である彼女は他家との縁は無い筈。可能性は低いでしょう」

「丈さんはどうしたんです? 調査なら、丈さんの専門でしょ? 何か掴んでないんですか?」

「丈は上総之介かずさのすけ様に連れられて、一週間ほど前からアフリカ旅行に出掛けています。電波が届かない場所にいるのか、連絡がつきません。まあ、流石に海外からでは遠すぎて力は使えませんね」

「……何やってんですか。あの人達」
 碧真は呆れ顔で溜め息を吐く。総一郎も困ったように笑った。

「で? 何も手がかりが無い状態で、戦力外の赤間こいつと俺だけで調査をしろと?」
 碧真が苛立ったような声で問う。悔しいが、戦力外である事は事実だ。

「いえ、流石に二人だけではありません。助っ人を呼んでいます」
 総一郎が女中じょちゅうの一人に「二人を呼んで来きてください」と声を掛ける。総一郎から指示を受けた女中がお辞儀をして、部屋を出て行った。

 暫くして、襖の向こう側で小さな足音が聞こえて、部屋の前に人の気配がした。

「総一郎様。美梅みうめです」
咲良子さくらこ。参りました」

「お入りなさい」
 総一郎が入室の許可を出すと、襖が開かれた。
 美梅と一緒に、咲良子と名乗った見知らぬ美少女が入室する。女中に用意された座布団の上に、二人は美しい所作で座った。

「日和さん。こちらは鬼降魔きごうま咲良子さくらこさん。美梅さんと同い年です。咲良子さん。こちらが赤間日和さんです」
 咲良子は日和に向かって優雅にお辞儀をした。日和も慌ててお辞儀を返す。

 咲良子は、美梅とはまた違うタイプの美少女だった。
 腰くらいの長さのサラサラと指通りの良さそうな真っ直ぐな髪。柔らかな茶色の瞳。珊瑚色に色づく唇と頬。儚げで大人しそうな雰囲気は、庇護欲を抱かせる。身につけている白のワンピースがよく似合う、桜の妖精のような女の子だ。

 あまりの可愛さに日和が見惚れていると、咲良子は小さく笑みを浮かべた。

(か、可愛さの暴力ぅ!)
 同性から見ても、魅力的な女の子だ。男性ならイチコロだろう。
 横目で見ると、碧真は美少女に一ミリも興味が無さそうにお茶を飲んでいた。

(せっかく、美少女二人が近くにいるのにノーリアクションとは……残念な人なんだな)

「……なんだよ?」
「イエ゛、なんでも無いデスヨ」
 碧真にジロリと睨まれ、日和はカタコトになりながら慌てて視線を逸らした。
 
 総一郎は懐から取り出した紙を、近くに控えていた女中に渡した。女中を経由して、碧真に紙が手渡される。

「今回は、美梅さんと咲良子さんにも協力していただきます。四人で呪いの調査と解呪をしてください」

 碧真が受け取った紙には、二つの住所が書かれていた。

「愛美さんの自宅と、入院している病院の住所です。まずは病院へ向かい、愛美さんの状態を確認してください。呪いが特定出来ない場合は、愛美さんの自宅の調査もお願いします」

 碧真は『嫌だ』『面倒くさい』と言いたげに顔をしかめながら、盛大な溜め息を吐いた。

「……わかりましたよ。やりゃいいんでしょ」
 碧真は”仕事だから”と割り切ったようである。

「日和さん」
 総一郎に手招きをされ、日和は首を傾げながらも近づいた。

「少しだけ、眼鏡を貸してください」
 不思議に思いながらも掛けていた眼鏡を外して、総一郎が差し出したてのひらの上に載せる。
 総一郎は懐から、折り畳んである懐紙かいしを取り出した。開かれた懐紙の上には、透き通った薄緑色の丸い石があった。

(マスカットみたいで美味しそうだな)
 日和が石を見つめていると、総一郎が何か呟く。日和が見ている前で、石が粉々に砕け散った。

「!?」
 一瞬の出来事に、日和は驚いて固まる。総一郎は平然とした顔で、砕け散った石の粉を日和の眼鏡に振りかけた。

 近視で見えにくい為、日和は眼鏡に顔を近づけて見る。キラキラと光る石の粉は、日和の眼鏡に吸い込まれて消えていった。

「はい。もう大丈夫ですよ」
 総一郎がニッコリ笑って、日和に眼鏡を返した。

「一体、何をしたんですか?」
 日和は、手にした眼鏡を角度を変えながら眺める。特に変化はないように見えた。

「眼鏡をかけてみてください」
 総一郎に言われた通りに、眼鏡をかけた日和はギョッとした。

「な!? 何で馬が!?」
 総一郎の傍らに、淡い金色の光を纏った栗毛色の大きな馬がいた。

「貴女が今見ているものは、私の加護の『うま』です。貴女の眼鏡に術をかけました。これで、呪術に関連するものが見える筈ですよ」

 眼鏡を外してみると、午の姿は無い。眼鏡をかけ直すと、再び午の姿が見えた。

 総一郎の術により、日和の眼鏡が『リーズナブルな良品質眼鏡』から『不思議眼鏡』へと進化した。
 
「では、皆さん。いってらっしゃい」
 総一郎は四人を笑顔で送り出した。
 
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました

丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、 隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。 だが私は知っている。 原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、 私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。 優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。 私は転生者としての知識を武器に、 聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、 王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。 「婚約は……こちらから願い下げです」 土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。 私は新しい未来を選ぶ。

ゴミスキルと呼ばれた少女は無限を手にする

森のカフェしっぽっぽ
ファンタジー
十三歳の少女アイリス・アルベールは、人生を決める「祝福の儀」で“ゴミスキル”と蔑まれる《アイテムボックス》を授かってしまう。戦えず、稼げず、価値もない――そう断じた家族は、彼女を役立たずとして家から追放する。さらに、優秀なスキルであれば貴族に売り渡すつもりだったという冷酷な真実まで明かされ、アイリスはすべてを失う。 だが絶望の中、彼女は気付く。この世界が、自分がかつてやり込んだVRMMORPG『メデア』そのものであることに。 そして思い出す―― 《アイテムボックス》には、ある“致命的なバグ”が存在することを。 市場で偶然を装いながらアイテムを出し入れし、タイミングをずらすことで発生する“複製バグ”。それは、あらゆる物資を無限に増やす禁断の裏技だった。 食料も、装備も、資金も――すべてが無限。 最底辺から一転、誰にも真似できないチートを手にしたアイリスは、冒険者として歩み始める。だがその力はやがて、経済を歪め、権力者の目に留まり、そして世界の“仕様そのもの”に干渉していくことになる。 これは―― ゴミと呼ばれた少女が、“世界の裏側”を掌握する物語。

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

【完結】呪われ令嬢、猫になる

やまぐちこはる
ファンタジー
エザリア・サリバーは大商団の令嬢だ。一人娘だったが、母が病で儚くなると、父の再婚相手とその連れ子に忌み嫌われ、呪いをかけられてしまう。 目が覚めたとき、エザリアは自分がひどく小さくなっていることに気がついた。呪われて猫になってしまっていたのだ。メイドが来たとき、猫がいたために、箒で外に追い出されてしまう。 しかたなくとぼとぼと屋敷のまわりをうろついて隠れるところを探すと、義母娘が自分に呪いをかけたことを知った。 ■□■ HOT女性向け44位(2023.3.29)ありがとうございますw(ΦωΦ)w  子猫六匹!急遽保護することになり、猫たんたちの医療費の助けになってくれればっという邪な思いで書きあげました。 平日は三話、6時・12時・18時。 土日は四話、6時・12時・18時・21時に更新。 4月30日に完結(予約投稿済)しますので、サクサク読み進めて頂けると思います。 【お気に入り】にポチッと入れて頂けましたらうれしいですっ(ΦωΦ) ★かんたん表紙メーカー様で、表紙を作ってみたのですが、いかがでしょうか。 元画像はうちの18歳の三毛猫サマ、白猫に化けて頂きました。

辺境伯の屋敷に住み着いた猫は神獣でした

Kinokonoyama
ファンタジー
ある日、森で猫を拾い、辺境伯の屋敷に住み着く。 猫が来てから 領地の災害が消えていく。 夜になると猫は人間の姿で魔物を倒していた。 辺境伯は知らない。 自分の猫が 領地の守護神だということを。

【完結】五度の人生を不幸な出来事で幕を閉じた転生少女は、六度目の転生で幸せを掴みたい!

アノマロカリス
ファンタジー
「ノワール・エルティナス! 貴様とは婚約破棄だ!」 ノワール・エルティナス伯爵令嬢は、アクード・ベリヤル第三王子に婚約破棄を言い渡される。 理由を聞いたら、真実の相手は私では無く妹のメルティだという。 すると、アクードの背後からメルティが現れて、アクードに肩を抱かれてメルティが不敵な笑みを浮かべた。 「お姉様ったら可哀想! まぁ、お姉様より私の方が王子に相応しいという事よ!」 ノワールは、アクードの婚約者に相応しくする為に、様々な事を犠牲にして尽くしたというのに、こんな形で裏切られるとは思っていなくて、ショックで立ち崩れていた。 その時、頭の中にビジョンが浮かんできた。 最初の人生では、日本という国で淵東 黒樹(えんどう くろき)という女子高生で、ゲームやアニメ、ファンタジー小説好きなオタクだったが、学校の帰り道にトラックに刎ねられて死んだ人生。 2度目の人生は、異世界に転生して日本の知識を駆使して…魔女となって魔法や薬学を発展させたが、最後は魔女狩りによって命を落とした。 3度目の人生は、王国に使える女騎士だった。 幾度も国を救い、活躍をして行ったが…最後は王族によって魔物侵攻の盾に使われて死亡した。 4度目の人生は、聖女として国を守る為に活動したが… 魔王の供物として生贄にされて命を落とした。 5度目の人生は、城で王族に使えるメイドだった。 炊事・洗濯などを完璧にこなして様々な能力を駆使して、更には貴族の妻に抜擢されそうになったのだが…同期のメイドの嫉妬により捏造の罪をなすりつけられて処刑された。 そして6度目の現在、全ての前世での記憶が甦り… 「そうですか、では婚約破棄を快く受け入れます!」 そう言って、ノワールは城から出て行った。 5度による浮いた話もなく死んでしまった人生… 6度目には絶対に幸せになってみせる! そう誓って、家に帰ったのだが…? 一応恋愛として話を完結する予定ですが… 作品の内容が、思いっ切りファンタジー路線に行ってしまったので、ジャンルを恋愛からファンタジーに変更します。 今回はHOTランキングは最高9位でした。 皆様、有り難う御座います!

まあ、いいか

ファンタジー
ポンコツ令嬢ジューリアがそう思えるのは尊き人外である彼のお陰。 彼がいれば毎日は楽しく過ごせる。 ※「殿下が好きなのは私だった」「強い祝福が原因だった」と同じ世界観です。 ※なろうさんにも公開しています。 ※2023/5/27連載版開始します。短編とはかなり内容が異なります。 ※2026/01/08ジャンル変更しました。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?