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第二章 夢か幻か
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「…全然止まないじゃねぇか」
雨の日の残業ほど、気分が落ち込むものはない。
日付が変わるぎりぎりの時間までかかった仕事を片付け、
ホームの階段に一番近い、最終電車の最後列の車両に飛び乗った。
週の半ばの終電は思ったよりも乗客が少なく、悪酔いした者もいない。
孝之は車両の一番端の扉の前に立ち、窓の外を眺めた。
目の前を通り過ぎるビル群を、横殴りの雨が滲ませている。
いつになったら、止むんだろう。
背中に感じる汗と湿気が身体にまとわりついて、気分が悪い。
一刻も早く、家に帰りたかった。
そんなことを考えていると、急に辺りがしんと静まり返ったような気がした。
見ている景色は同じなのに、音だけが距離をもって、遠くの方に聞こえる。
何だ。耳鳴りか。
ゆっくりと顔を上げると、座席を挟んでもう一つ先の扉の前に、
男が立っているのが見えた。
白いワイシャツを着た、細身のサラリーマン風の男。
湿気から逃れるためか、脱いだジャケットを片手に持ち、
シャツの袖口を乱暴にまくり上げている。
焦げ茶色の髪は弱々しくうねり、
前髪の毛先から滴がぽたりぽたりと垂れ落ちている。
傘を持っていないのか。
あんな恰好じゃ、風邪を引くだろうに。
雨の日の残業ほど、気分が落ち込むものはない。
日付が変わるぎりぎりの時間までかかった仕事を片付け、
ホームの階段に一番近い、最終電車の最後列の車両に飛び乗った。
週の半ばの終電は思ったよりも乗客が少なく、悪酔いした者もいない。
孝之は車両の一番端の扉の前に立ち、窓の外を眺めた。
目の前を通り過ぎるビル群を、横殴りの雨が滲ませている。
いつになったら、止むんだろう。
背中に感じる汗と湿気が身体にまとわりついて、気分が悪い。
一刻も早く、家に帰りたかった。
そんなことを考えていると、急に辺りがしんと静まり返ったような気がした。
見ている景色は同じなのに、音だけが距離をもって、遠くの方に聞こえる。
何だ。耳鳴りか。
ゆっくりと顔を上げると、座席を挟んでもう一つ先の扉の前に、
男が立っているのが見えた。
白いワイシャツを着た、細身のサラリーマン風の男。
湿気から逃れるためか、脱いだジャケットを片手に持ち、
シャツの袖口を乱暴にまくり上げている。
焦げ茶色の髪は弱々しくうねり、
前髪の毛先から滴がぽたりぽたりと垂れ落ちている。
傘を持っていないのか。
あんな恰好じゃ、風邪を引くだろうに。
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