あの日、あの場所で

いまさら小次郎

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第五章 近いようで遠いような

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ー社員食堂ー

「くっさ。くっさ。まじくっさ」
「…うるせえ」

翌日の休日出勤は悪夢だった。
抜け切らない酒の毒に身体を侵されながら、
這うようにして職場までたどり着いた。
食堂のカレーの匂いに吐きそうになるのをこらえ、机に突っ伏して、少し休む。
向かい側に座る殿上は、孝之から漂ってくる酒の匂いを掌で嫌そうに払った。

「なんでそんなに飲んだの。いつもは意識失うまで飲むなんてことないじゃない」
「…俺もよく分からない」
「誰と?」
「…飯島」

飯島は2つ下の後輩で、
関西の支社で勤めている。
昨日はたまたま仕事で東京に来ることになっていたので、飲みに出かけることになった。
久々の再会だからとはいえ、
まさか潰れるまで飲むことになるとは思わなかった。

目を覚ましたら龍司の家のベッドに寝かされていた。
どうやってそこまで辿り着いたのか、
まるで記憶になかった。
ベッドの横に座っていた龍司は呆れた様子で、昨夜の出来事を話してきた。
その声は心なしかいつもより小さく、掠れていた。
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