ピロティー

いまさら小次郎

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20:00, Friday アルバートホテル 7階にて

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部屋の中央に置かれたダブルベッドに浅く腰掛け、握りしめた両拳を膝の上に乗せた。
手汗が止まらない。

目の前に、男が背を向けて立っている。
180以上はありそうな背丈と、スーツの上からでも分かる、逞しい体つき。
髪だけは女性のように薄茶色く細かった。
男は着ているジャケットに手を掛けながら、囁くように話し始めた。

「ここのホテルを選ぶ人は珍しいよ。
ほとんどの人は、この隣のワーグナーホテルのスイートを選ぶから。あそこって、雰囲気が、何か、ロマンチックでしょ。」
「そうですか。…あんまり、そういう華やかな場所は好きじゃなくて。」

ワーグナーホテルは、都内で有数の外資系高級ホテルだ。
落ち着いた佇まいと重厚感のある内装に魅了され、訪れる客も多い。

本当は、ワーグナーを利用する金銭的な余裕がないだけだったが、そんなことは言えない。
今いるアルバートホテルだって、国内のホテルながら歴史ある宿泊地の一つだ。
ギラついた場所は嫌いだ。
嘘は吐いてない。

男はそっか、と呟くと、脱いだスーツのジャケットをベッド脇の小さなソファの背もたれに掛けた。
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