横断歩道の先は異世界でした

金柑乃実

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10.高尾明日香編④

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「紗奈様」

長谷川リンが駆け寄って声をかける。

「早かったのね、リン。ちょうどよかったわ。明日香、一緒に来て」

東郷紗奈はリンをチラリと見て、明日香に目を向ける。

「えっ、わたし?」

「えぇ」

何が起きたのか、明日香にはわからない。

しかし、東郷紗奈が歩き出したため、

「行こ」

リンに背中を押されて、明日香も歩き出した。



連れてこられたのは、暗い森の中。

森の中には似つかわしくない、大きな門があった。

ゲームの世界の端はこうなっているのかと思う。

「明日香」

そこまで来てようやく、東郷紗奈と目が合った。

「残念だけど、ゲームは終了よ」

「……え?」

明日香は耳を疑った。

「クリアしたってこと?」

「いいえ」

当然違うことはわかっている。

自分がまだ何もしていないことは、しっかりと自覚しているから。

「じゃあ、どうして?」

「あなたは賢いから、全て教えるわ。でも、今から話すことは、誰にも言わないと約束して」

明日香は無言で頷き、東郷紗奈はそれに対して微笑んだ。



――――――
――――
――



「……わかった」

全てを聞いた明日香は、そう頷いた。

「わたしは、あちらの世界に戻ればいいのね」

「そういうこと。理解してくれて助かるわ」

明日香の答えに、東郷紗奈は頷く。

「あとは、この男が全部やってくれるわ」

東郷紗奈の言葉を合図に出てきたのは、先ほどゲームマスターと紹介された男だった。

「今聞いたこと、……理解できるかって言われたら、そう簡単には理解できないけど、軽々しく口にできることでもないと思った。だから、誰にも言わない。そこは安心して」

「えぇ。あなたを信じるわ」

東郷紗奈からのこの言葉が、明日香の心を支える。

「行きましょうか」

ゲームマスターがそう言って、明日香を促した。

ゆっくりと振り返り、彼と数歩歩く。

そして、再び振り返った。

「ねぇ」

「なにか?」

東郷紗奈たちは、まだそこにいた。

「東郷紗奈、わたしがもう一度ここに来ることはできる?」

「普通にしていれば無理ね」

予想外にもあっさりと答えてくれた。

「じゃあ、どうすればいいの?このゲームを続けていれば、またここに戻ってくることはでる?」

「……言ったでしょう。その男も、もとはあなたたちと同じ立場の人間だったの」

つまり、このゲームマスターという男に聞け、ということなのだろう。

「そっか」

明日香はそう理解した。

「じゃあ、それまでここに来ることはできないんだね」

「そうね」

寂しい。

しかし、仕方がない。

事情を聞いたせいで、まだここにいたいとわがままを言うこともできなかった。

「リン」

「……!」

まるで東郷紗奈の側近のように静かにそばに控えていた長谷川リンが、ハッと顔を上げる。

「またね」

「……うん。またね、明日香ちゃん」

その顔は寂しそうだった。

きっとどんな手を使ってでも、また会うことは不可能なのだろう。

「東郷紗奈」

続いて、東郷紗奈に声をかける。

「わたしは、また必ずここに来る。それまでにいなくなっていたら、許さないから」

「いなくなる?あなたは賢いと思っていたけど、違ったのかしら」

東郷紗奈は笑顔を浮かべた。

「わたしたち”一族”は、あなたたちよりも少しだけ長生きなのよ?」

「……そっか」

明日香は心配だった。

彼女の今の心境は計り知れない。

笑顔の裏に、どんな感情が隠れているのか。

「じゃあ、また」

明日香はようやく彼らに背中を向けた。



目を開けたら、あの横断歩道の前に立っていた。

慌ててスマートフォンで時間を確認する。

やはりというべきか、明日香の予想通り。

あの時から全く時間が進んでいない。

夢だったのか。

一瞬そう疑った。

しかし、バッグの中で、ピコンという小さな音が鳴る。

あのゲーム機だった。

『鈴野さんからフレンド申請が届きました』

まさか、長谷川リンの……。

夢じゃない。

そう確信することができた。

背後を振り返った。

たった今、と言ってもいいのだろうか。

出てきたばかりの路地。

今ならまだ間に合うかもしれない。

そう思い、路地に飛び込む。

もう銃声は聞こえない。

手遅れだったのか。

そんな時、ドンッと誰かにぶつかった。

「……あっ」

思わず後ろに一歩下がる。

「あれ?さっきの人?」

「え?」

見ると、先ほど横断歩道でぶつかった高校生だった。

「この先に用事?何もないけど」

「あ、いや……知り合い?が……」

「誰もいないよ。ここ危ないから、行こう」

しかしその高校生は、明日香の手を取って引く。

「待って……。お願い、通して!」

それでも路地の先を目指して手を伸ばすと、

「もしかして……、君、”あの人”を知ってる?」

男子高校生から聞かれた。

「え?」

思わず耳を疑う。

「……そんなわけないか、ごめん」

“あの人”が指す言葉。

それは、澤山和馬のことなのだろうか。

「パラレルワールド体験型プログラム」

明日香がそう口にすると、彼がハッと反応した。

「君も、被験者……?」

「えっ、“も”ってことは、あなたも?」

「まぁ、うん。この先にいる人のことも、知ってるんだ?」

「うん……知り合いの……婚約者?っていうのかな……」

「東郷紗奈の」

パズルのピースがはまるように、2人の記憶が重なっていく。

「死んでるよ」

「……っ」

ガンっと頭の殴られたような痛みが走った。

やはり遅かったのだ。

「仕方ないよ。行こう」

ここで自分たちが関わってはいけない。

それは、2人に共通する認識だった。

「ところでさ」

男子高校生が一瞬しゃがみ、何かを拾う。

「これ、君の?」

「あ、うん」

「俺もやってるよ」

「ほんと?!……あ」

思わず声を上げてしまった明日香が、ハッと口に手を当てる。

「ん?」

彼は優しい声音で続きを促す。

「えっと……被験者なら、わかるかな?」

そう言って、ゲームの画面を見せる。

「これ、長谷川リンのアカウントかもしれなくて」

『鈴野』という名前のアカウント。

確かだという証拠はない。

「へぇ……」

彼は興味深そうに唸った後、

「ねぇ、この後時間ある?よかったら、どっかのカフェで話さない?」

「ぜひ!」

明日香は前のめりに返事した。


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