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魔王討伐編

闇市のち奴隷市へ

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今の声から察するに俺の体は設定したアバター通りになっているはずだな。銀髪に赤と金の隻眼をした美少女の姿であろう。このまま一人称を俺で通しても良いのだがやはり不自然かな?

 俺もとい私は5年という月日で培ってきた女性的な喋り方で行くと決めたところでトールへ向かうことにした。

「ちょっと待ったお嬢ちゃん、身分証か何かは持っているのかな?」

 いつもの癖で門番を無視してトールに入ろうとした結果捕まりました。

 バックを漁る振りをしてアイテムボックスから冒険者カードを取り出した。

「………な!?Sランク冒険者様ですか!、大変失礼いたしました!」

 門番はそう言うと国宝でも扱っているのかと思うほど丁寧に私の手の平へカードを置いた。

 ステータスを引き継いだ時点でランクもそのままだとは予想はしていたけど、Sランクなんて簡単に見せてはいけないかな?

 トールの門番はもっと若い新兵って感じだった筈だったのだが、今の門番は有に30は超えていそうな男性だった。

 違和感はあるが今考えてもどうにもならない

 大変恐縮モードの門番を一別して、冒険者ギルドへと向かった。

 街並みはあまり変化していないように見えたが冒険者ギルドがとんでもない進化を成し遂げていた。

 壁がギンギラギンにボディチェンジしており、街並みの中で1番主張の強い建物と化していた。

「私がプレイしていたゲーム内時間の数年後と言う所でしょうかね…」

 流石にここまでギラギラだと入るのにも多少の抵抗があっても仕方ないと思う。

「どうしたんだい?お嬢ちゃん、おじさん達が怖いのかい?」
「「「「「「ガハハハハ!!」」」」」」
「お前らの顔が怖えんだよ!」

 テンプレって感じは良いんだけど……目立つのはあまり好きじゃないんだよね…

 私は真っ直ぐとカウンターに進み受付の女性にある言葉を言った。

「質屋に行きたい」

 私はそう言い冒険者カードを女性に見せる。
 すると女性の顔が一瞬強ばり、いつもの営業スマイルへ戻る。

「質屋への地図が欲しいのですか?」
「えぇ、ギルドと特に繋がりがある所が良いです」

「…………分かりました。この手紙をギルドの右隣にあるお店の亭主さんに渡して下さい。色々教えてくれる筈です」

 ギルド裏側にある闇市場は現在であるらしいな、ストーリーではよく利用していたし残ってるとこっちとしては大助かりだ。

 ディファレントワールドではこのような仕掛けが多く存在しており、会話や手紙に隠れている暗号を読み解く事により発動することが出来たりする。

 私がこの仕掛けを見つけたのは一週目のラスボス一歩手前で占い師にトールへ行けば足りない何かが分かると教えてもらった時だったな。

 ギルドを出て質屋の扉を開くとそこには10代であろう少年が座っていた。

「こんにちはお嬢ちゃん、買い物かな?」
「ギルドのお姉さんに手紙を預かっているんだ」

 私はそう言い、少年に手紙を渡した。

「ふむふむ……マジで言ってる?これをお姉さんに渡されたのかい?」
「通してくれ通してくれると助かるんですが?」

 少年はしばらく考え込んだ素振りを見せ、カウンターを開いた。

「一つ質問良いかな?」
「何ですか?」

「闇市に行ってどうするんだい?」
「ディアマンテ様に会いに行くのですよ」

「そう言う事か……君Sランク冒険者なんだ…」
「見た目で判断していたら痛い目に遭うよ」

 私がそう言うと、苦笑いし違いないと少年は答えた。

 後は簡単なお仕事だ。ディアマンテの婆さんにステータスを2倍にしてもらってから世界を見て回る。やることが無いんだよな。

 闇市に足を踏み入れてスタスタと奥へと歩いて行く。最深部へ到達したところに一人のお婆さん、否…着物姿の和風な美幼女が座っていた。

「ディアマンテ様からの加護を受け取りに来たのですがどちらにいらっしゃるのですか?」
「えっと~…お婆ちゃんならもうとっくに死んじゃったよ?」

 あら~予想外の結果が出ちゃったよ~どうしよう……

 諦めて帰ろうとしたときそれは起こった。

 ドンッ!!ドンッ!!と
 どこからかそんな聞こえたかと思うと闇市が盛大に崩れだした。

「……………え?」

 闇市はお婆さんに加護を貰った時に崩れるシステムだったのだが流石に加護を貰ってないのに崩れ出すのは卑怯じゃない?

 そう思いつつ引き継いだステータスで天井部分に
 正拳突きをして穴を開けた。

 穴を通り脱出しようとしたところで幼女に捕まった。

「置いてかないでよ!」

 強気に出ているが膝がガクガク震えていたりしていた。微笑ましいな。

 名前聞いてないしディアマンテ(仮)とでも呼んでおくかな。

 私はディアマンテ(仮)をお姫様抱っこして、穴から飛び出した。

 一目でどこかを理解し、とてもテンションが下がってしまった。

 そこは奴隷市だった。しかもかなりやばい系統の……

「いらっしゃいませ、下から入店なさった方はお客様が初めてでごさいます」

 そこには20代程の銀髪青年カウンターのような所で笑顔のまま立っていた。
「え~と……ハハハ…奴隷を探しに来ました…」

 いくらステータスが高かろうとあの笑顔は誰だってビビると思う。

「ならば、奴隷をお買いになった時にプラスしておきましょう」
「…………はい」

 まぁ…ギル自体は無限にあるような物だし良いのだけど……流石に奴隷を買うって言うのは日本人として抵抗があるんだよな…

「お客様の場合ですと、戦闘奴隷かエルフのような美男な男性奴隷でしょうか?」
「いや…男性はちょっと…女性の奴隷さんはいらっしゃるのですか?」

 何が悲しくて男の奴隷なんて買わないといけないんだよ…

「どのような女奴隷がご所望ですか?」
「多種族の方が良いですかね、色々な文化をお聞き出来たら良いかなと」

「でしたら獣人族等はどうでしょうか?」
「獣人族ですか、どのような子がいらっしゃるのですか?」

「最近では兎人族や猫族と言った所しょうか」
「見せて頂いても宜しいでしょうか?」

「えぇ、ではこちらへどうぞ」

 そう言うと男性はカウンター奥の扉を開けた。

「……私はここで待っていますね」

 ディアマンテ(仮)ちゃんの存在をすっかり忘れていたよ…

「じゃあ少し、見て回って来ますね」

 扉の向こうには左右に檻が並んでおり何とも言えない匂いが漂っていた。

 流石だな…種族、年齢、性別問わず色々な奴隷が檻の中に入っている

 一つ一つ見て回るが、気分が悪くなって来た。奥へと近づくにつれて匂いが薄まって来ているのは待遇が良い奴隷達と言うことだろうか?

 突き当たりにも部屋があるようだが何故か途中で止められてしまった。

「ここから先はお目汚しになってしまうのですが、進みますか?」

 お目汚しねぇ~…ここに来るまでに匂いで色々と不快な気分になってるしグロ死体ぐらいなら耐えられると思う…行くだけ行ってみるかな

「興味はありますよ」

 私はニコリと笑い男性にそう伝えた。

「では参りましょうか」

 う~む……血や汚物の匂いが入り交じっていて、とても吐きそうです。

 突き当たりの部屋まで来たところで左右にも空間があることに気づいた。右隣へと進みそれを見つけてしまった。

「これは………」

 それは最早人とは言えない代物だった。まるで小学生が作る粘土細工のように歪な形状をしていた。まるで生きたまま腐り出したかのような…

「そちらの者は3年ほど前に当店に来たエルフの少女でした。1年ほど前から様子がおかしくなり、今では人と言うにはおぞましい何かになってしまいました」

 ………この症状はストーリーで見たことがあった。ある村の住民が原因不明の病により醜い化け物に姿を変えてしまうと言う物で、結局の原因は呪術師による呪いだったようだ。

「この子を買い取りがしたいんだがその前に少し治療を行って良いかな?買う前に色々と聞きたいことがあるんだ」
「本来は買い取りの前に奴隷への接触はご遠慮したいのですが……買い取りをしていただけると言うのなら宜しいですよ」

 あまりリスクを背負いたくないから最初に話を聞いておきたかったんだが……まぁ良いか……

「分かりました、買い取りましょう…」
「ご買い取りありがとうごさいました」

 まさか、この買い物がとんでもない失敗になるなんて、私はまだ想像もしていなかった。
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