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第一章 頭山満の少年時代と幕末維新の日本と福岡
一 子供の頃から破天荒
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明治維新の13年前という幕末の頃。福岡の西新町というところで、後に「頭山満」という名で知られるようになる男児は生まれた。福岡藩の武士である筒井亀策という人の三男で、この男児は乙次郎と名付けられた。つまり頭山満の幼少時代の名前は「筒井乙次郎」である。
“下の名前の2文字目が「つ」ってところしか一致しねえじゃねえか”と思う人も多いだろうが、戦前までの日本史の有名人について調べてみると一生のうちで名前が変わっている人というのは随分と多い。当時は自分の名前を改名するという行為は今よりずっと一般的だった。維新の前は諱(いみな。隠された本名)と字(あざな。通称として用いた名前)という習慣もあったし、“雅号”というオシャレなペンネームみたいなものを平常時の自分の呼び名にしてしまう人もいた。
苗字の方も「家」の存続が今よりさらに重要視されていた時代なので、親戚の家などに養子に行ったりして苗字が変わる男性も多かったし、一方で自分の家族とも親戚などとも違った姓を名乗り出すような例もあった。姓名が変わってしまう人も、名前をいくつも持っているような人も普通にいた時代だった。
頭山満の少年時代に話を戻そう。三つ子の魂百まで、などと言うが少年乙次郎は幼い頃から後の暴れっぷりを思わせる破天荒な子供だった。彼が三男坊だったというのは既に述べたが、兄姉のモノを奪い取るのなんかは日常茶飯事。近所の子供同士で遊んでいる際も五、六歳は年上の相手を押さえつける。商店の前を通りかかると勝手に商品を掴み食いするという悪ガキで、母親は「この子が半日でも普通の子であってくれたなら」と嘆いたという。
生家の筒井家には乙次郎の兄が跡取りとしていたので、文久2年(西暦1862年)頃、乙次郎は6歳か7歳で山本家という家へと養子に出されることになったが、結局この時はむこうの家族とうまくいかずにすぐ戻ってきた。
一方で、この少年が普通でなかったのは悪い方向ばかりにではなかった。
乙次郎が七歳か八歳の頃、父や兄と一緒に講談の桜田烈士伝という演目を聴きに行った時のことだ。
講談とは高座で釈台と呼ばれる小さな机の前に座った演者が、張り扇と呼ばれる扇子で釈台をバシバシと叩いて調子を取り、場を盛り上げながら、軍記物や武勇伝、かたきうちや政談などという主に歴史にちなんだ各ジャンルの読み物を調子よく語り上げるという寄席演芸で、落語などと同一の祖を持つといわれる。ネットもテレビも映画もない時代に広く親しまれた娯楽の一つである。
過去の歴史上に実在したという魅力的なヒーローたち。その大活躍に幼い乙次郎は目を輝かせて聞き入った。現代でも誰かと一緒に映画を観た後はお茶でもしながら感想を語り合うという楽しみがあるが、講談が終わって家に帰った乙次郎も興奮しながら父や兄と感想を語り合おうとした。
ところが、4つ上の兄はおろか父親の亀策でさえも聞いてきたばかりの演目の内容をろくすっぽ覚えられてなかったのである。仕方がないので乙次郎の方から聞いてきた講談の中身を家族に語り聞かせることになった。
そして喋らせてみれば、年長の父兄が講談というものを聞いてるその場限りの娯楽として頭の中に残さなかったのに対し、年少の乙次郎は英雄たちの活躍をおのれの糧として貪欲に吸収していたことがわかったのである。現代で言えば小学2年生ぐらいの彼は、聞きなれない言葉もあったであろう物語のあらすじを一度聞いただけで精確に記憶していたのはもちろんのこと、18人もの烈士たちの姓名ことごとくを復唱してみせ家族を大いに驚かせた。あまりの見事な記憶力に隣近所の人々まで見物客として集まるほどだったという。
“下の名前の2文字目が「つ」ってところしか一致しねえじゃねえか”と思う人も多いだろうが、戦前までの日本史の有名人について調べてみると一生のうちで名前が変わっている人というのは随分と多い。当時は自分の名前を改名するという行為は今よりずっと一般的だった。維新の前は諱(いみな。隠された本名)と字(あざな。通称として用いた名前)という習慣もあったし、“雅号”というオシャレなペンネームみたいなものを平常時の自分の呼び名にしてしまう人もいた。
苗字の方も「家」の存続が今よりさらに重要視されていた時代なので、親戚の家などに養子に行ったりして苗字が変わる男性も多かったし、一方で自分の家族とも親戚などとも違った姓を名乗り出すような例もあった。姓名が変わってしまう人も、名前をいくつも持っているような人も普通にいた時代だった。
頭山満の少年時代に話を戻そう。三つ子の魂百まで、などと言うが少年乙次郎は幼い頃から後の暴れっぷりを思わせる破天荒な子供だった。彼が三男坊だったというのは既に述べたが、兄姉のモノを奪い取るのなんかは日常茶飯事。近所の子供同士で遊んでいる際も五、六歳は年上の相手を押さえつける。商店の前を通りかかると勝手に商品を掴み食いするという悪ガキで、母親は「この子が半日でも普通の子であってくれたなら」と嘆いたという。
生家の筒井家には乙次郎の兄が跡取りとしていたので、文久2年(西暦1862年)頃、乙次郎は6歳か7歳で山本家という家へと養子に出されることになったが、結局この時はむこうの家族とうまくいかずにすぐ戻ってきた。
一方で、この少年が普通でなかったのは悪い方向ばかりにではなかった。
乙次郎が七歳か八歳の頃、父や兄と一緒に講談の桜田烈士伝という演目を聴きに行った時のことだ。
講談とは高座で釈台と呼ばれる小さな机の前に座った演者が、張り扇と呼ばれる扇子で釈台をバシバシと叩いて調子を取り、場を盛り上げながら、軍記物や武勇伝、かたきうちや政談などという主に歴史にちなんだ各ジャンルの読み物を調子よく語り上げるという寄席演芸で、落語などと同一の祖を持つといわれる。ネットもテレビも映画もない時代に広く親しまれた娯楽の一つである。
過去の歴史上に実在したという魅力的なヒーローたち。その大活躍に幼い乙次郎は目を輝かせて聞き入った。現代でも誰かと一緒に映画を観た後はお茶でもしながら感想を語り合うという楽しみがあるが、講談が終わって家に帰った乙次郎も興奮しながら父や兄と感想を語り合おうとした。
ところが、4つ上の兄はおろか父親の亀策でさえも聞いてきたばかりの演目の内容をろくすっぽ覚えられてなかったのである。仕方がないので乙次郎の方から聞いてきた講談の中身を家族に語り聞かせることになった。
そして喋らせてみれば、年長の父兄が講談というものを聞いてるその場限りの娯楽として頭の中に残さなかったのに対し、年少の乙次郎は英雄たちの活躍をおのれの糧として貪欲に吸収していたことがわかったのである。現代で言えば小学2年生ぐらいの彼は、聞きなれない言葉もあったであろう物語のあらすじを一度聞いただけで精確に記憶していたのはもちろんのこと、18人もの烈士たちの姓名ことごとくを復唱してみせ家族を大いに驚かせた。あまりの見事な記憶力に隣近所の人々まで見物客として集まるほどだったという。
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