東洋大快人伝

三文山而

文字の大きさ
5 / 50
第一章 頭山満の少年時代と幕末維新の日本と福岡

四 長州藩の危機と幕末の福岡藩

しおりを挟む
 土佐の坂本龍馬や中岡慎太郎が活躍する前、薩摩藩と長州藩を結びつける役は土佐藩ではなく福岡藩だった。
 律令国で言うところの筑前国を領地とする福岡藩は馬関海峡を挟んで長州のすぐそばにあり、立地的にも長州藩と九州南部の薩摩藩を結びつけるのに両者の間で非常に便利な位置にいた。その上幕末の頃の福岡藩は薩長両藩と様々な縁があり、勤皇党の優秀な人材も多数働いて周辺の勤皇派から西南諸藩の中心として大いに期待される地位にいた。
 もう数年の間を上手く凌げれば、新政府で薩長と並ぶまでは行かなくても薩長福土肥とか、薩長土肥福というようなポジションに入ることができたかもしれない。それがぶっ潰れたことを語れば、この時福岡藩で起きた政変騒動の大きさがわかるだろうか。

 福岡藩は黒田如水(黒田官兵衛)の嫡男である黒田長政が関ヶ原合戦の功によって筑前一国52万3100石を与えられて成立した藩で、黒田藩、筑前福岡藩、筑前黒田藩などと呼ばれる。この黒田家は「代々不思議に男系に恵まれない家系」だそうで、幕末の藩主は11代の黒田長溥、12代の黒田長知と続けて藩外からの養子であった。
 11代長溥は島津家に生まれて黒田家に婿養子として入った人で、薩摩藩で名君と言われた島津斉彬と血縁的に大叔父にあたるが年齢は2歳差で兄弟のような関係だったという。(長溥は薩摩藩8代藩主島津重豪が69歳の時に生まれた13男。斉彬は重豪の曾孫)

 幕末の薩摩藩で起きた島津久光派と斉彬派のお家騒動で、長溥は脱藩して福岡に逃げ込んだ斉彬派の薩摩藩士たちをかくまい嘉永4年(1851年)には島津斉彬の藩主就任を斡旋・成功させている。
 また、福岡藩と佐賀藩は長崎の出島を警護する任に就いており、長溥はオランダ(蘭)を通じて西洋の科学技術を学ぼうとする“蘭癖大名”であった。シーボルトの講義を受ける、博多の中州に反射炉を建設する、藩士たちに出島で西洋技術を学ばせる、幕府に対しては永久鎖国の終了・積極外交・海軍の建設を唱えるなど非常に開明的で鋭敏な政治感覚を持つ大名として黒田長溥は名を馳せた。

 しかし幕末期は聡明な藩主を持ったところほど勤皇佐幕の軋轢抗争が激化し犠牲者が増えたという。さらに「黒田家は代々不思議に男系に恵まれない家系」であるとすでに述べたが、福岡藩7代藩主黒田治之はなんと御三卿一橋徳川家出身で徳川8代将軍吉宗の孫にあたり、そこへまた島津家から婿養子に入った黒田長溥は勤皇派と佐幕派との間で非常に難しい舵取りを迫られることとなる。

 文久3年(西暦1963年)、攘夷派の長州藩士久坂玄瑞らによってアメリカ、フランス、イギリス、さらには友好国であったオランダに対する異国船打ち払いが強行される。長州藩士の攘夷過激派は京都でも政敵を殺害、遺体の四肢を切断して脅迫状付きで公家の屋敷などに投げつけるなどの行動に出る。これらの先鋭化した攘夷活動によって長州藩は西洋列強も幕府も朝廷も敵に回すことになってしまった。

 朝廷では公武合体派で佐幕派の会津藩と改革派の薩摩藩が協力した八月十八日政変によって長州に親しかった三条実美ら攘夷派の公家たちや長州藩が京の都を追放され「七卿都落ち」となり、翌年の元治元年(1864年)には、京都にいた長州藩の攘夷志士も池田屋事件で新選組の襲撃を受け斬殺される。
 これに反発した久坂玄瑞らは長州藩の兵を率いて上京。そのまま宮中に入ろうとして会津藩・薩摩藩の兵士と激突し禁門の変が発生する。畿内では実に大阪夏の陣以来の大名勢力衝突となり、京都市中の30,000戸が焼失、御所に向けても発砲が行われる大事件となった。長州は完全に逆賊となり、幕府による第一次長州征伐命令が下される。

 下関砲撃事件に対する英仏米蘭4ヶ国連合艦隊襲来と禁門の変に対する第一次長州征討。この長州藩の大ピンチにおいて、まず4ヶ国連合艦隊に対しては26歳の高杉晋作が立ち上がる。高杉は上海に渡航して租借地を視察した経験があり、異国船砲撃にも禁門の変にも反対した人物だが、海外渡航歴があるということもあって連合軍との交渉役に就き、過激派の尻ぬぐいじみた形で長州を守ることとなった。
 高杉は関門海峡の自由な航行という列強の元々の目的は受け入れつつ、長州と連合軍の衝突について長州から列強への賠償金の支払いも、租借地の割譲も断固としてはねのけた。
 戦勝国として要求を通そうとする英国側に対し、高杉晋作は敗戦した側の代表ながら「長州人民30万人相手に戦いを続けるつもりがあるのか」と対抗する。英国側の通訳だったアーネスト・サトウはこの時の高杉を「大魔王ルシファーみたいだった」と書き残したという。(ちなみにアーネストの父はドイツ東部のスラヴ系民族であるソルビア人の生まれで、「サトウ」はスラヴ系の珍しい名字らしい)
 高杉は他の要求については連合側の要求をのんだものの、この時は英国の公使オールコックが本国の不信を買って交代させられるなどの英国側の混乱もあり、
・賠償金は長州藩ではなく幕府の方に払わせる
・日本の今後に悪影響を残す租借地の割譲は断固拒否
という2つはどうにか守り抜き、長州を救った。しかしながら原理主義的な尊王攘夷派に疎まれ、長州藩の実権を握った幕府恭順派からも弾圧を受けて高杉晋作は脱藩を余儀なくされる。

 一方、第一次長州征討に対しては福岡藩の勤皇党が立ち上がった。勤皇派から慕われた藩の中老である加藤司書(「司書」は役職ではなく通称名)は広島城下での征長軍議に派遣されると、一連の騒動で孤立無援となっていた長州を弁護し、幕府との間に積極的に周旋を取り計らった。
 加藤と、筑前勤皇党の急進派である月形洗蔵らは薩摩の西郷隆盛(この頃は西郷吉之助?)と協力して説得を行い、都落ちした七卿のうち長州にいた三条実美ら五卿を筑前太宰府に引き取るという条件で長州征討軍の解兵に成功する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

処理中です...