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裏切編
23譜-Confessione-
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真衣が目覚めるのに時間が掛かった。
熱は下がったものの目を覚まさない日々にやきもきしたのは傀だけではないはずだ。
けが人が一人また一人と回復し船の修復の計画を立てていた際のことだった。
待ちに待っていたその報告に近くにいた鼓に内容を任せて席を立ったのは許されてもいいだろうと傀は走った、幸いにもイーデスの配慮で数名であれば小屋への滞在は許可されており、その最中であった為真衣の元へはすぐに辿りつけた。
部屋をノックして扉を開ければベッドに眠っている真衣が目に入る。
傀が入って来た音に目を開けた真衣は泣きそうになりながら笑う。
「兄様」
小さく呟かれた声に傀は駆け寄りその手を握り締めた。
本当はその身体を抱き締めたかったのだが、今の真衣にはツラいだろうとしなかった。
傀は真衣の顔に掛かっていた髪の毛を避けその額にキスを落とす。
「ふふ、昔みたい」
「幽霊が怖いって云った真衣を寝かしつけた時だね」
「もう、怖くないよ」
まだ力が入らないのだろう、弱弱しく握り返された手は暖かく確かにそこに真衣がいるのだと感じさせる。話したいことはたくさんあるが今は目を覚ましたことだけで充分だ。
ゆっくり休むように云うと微笑み頷いた。
部屋からそっと出た傀は部屋の前にいた暗乃に「そう云うわけだから」と微笑む。
「せっかく譲ったのにまあ、真衣には休んで欲しいし仕方ないか」
「修復計画に参加させるから」
「いじわるだなあ」
飛空艇の修復計画に携わるともなればここから少し離れた場所で時間を費やすことになる。
早々に真衣に会えないのはわかっていての采配だったはず、なのだが。
いるのだ、きちんと修復作業を行っているのは五月の報告で確実なのだがそれにしても頻繁に小屋の中で暗乃を見かける。
もちろん真衣に会いに来ているだけではなくイーデスに森の状況の報告をしていることもあるがそれにしても不自然な動きに鼓に確認をすれば「お前が云うか?」と首を傾げられる。
傀も確かに現場と小屋を何往復としており夜遅くまで報告書の確認などをしているがそれは今までがそうであったからであり、普通はそうではないことは紫鬼に口が酸っぱくなるほど云われていた。
つまり、暗乃も傀と同族と云うことになる。
事実、旅の詳細を聞けば明らかに寝ていない日や食事を抜いているのではないかと云う日が多々見受けられている。
それもまた気に食わない。
真衣がベッドから立ち上がれるようになった頃、真衣は早速傀の手伝いを始めた。
報告書のまとめや必要な部下の采配など真衣は粗削りではあるがこなせている、それに驚きつつも真衣に任せていればどこともなく暗乃が真衣にくっ付いている。
「あからさま過ぎない?あれ放置してたの?」
「いや、あからさまになったと云うべきか……」
更に困るのが暗乃がまた優秀だと云うところだ。
真衣の粗削りな部分をそれとなく補っている為、傀の負担が明らかに減っている。
それ自体はとてもいいことなのだが傀にも手放しには喜べない理由がある。
「真衣が皇女だってわかってやってるのかな」
「一応釘は刺した」
「真衣には?」
「……お前が云った方がいいだろう」
この大陸では純血が最も尊ばれる存在だ、如何に優秀な人物であろうとも混ざりものと云う時点でその将来には限りが出る。
その為王族の中にはその血をより濃く保つことを正とする人々もいる。
今、リーウェンの純血は真衣と傀しかいない、そもそも真衣は少なくなって来た純血を守る為に兄である傀に嫁ぐことが決まっていた。それは今も変わらないことであり、真衣も自覚をしてはいるのはずだ。だからこそ今の内に自由にしたい気持ちは痛いほどにわかる。
溜め息を吐き傀は机に突っ伏した。
その目線は真衣の旅を記した宝石に向いている。
「楽しそうにしてる真衣の邪魔はしたくないな」
そう呟いた傀の言葉は真衣に届くことはないのだろう。
限りある自由を謳歌する鳥の羽根を引きちぎるような真似はしたくないが、必要とあればそれも策かと傀は顔を上げコーヒーを飲みこんだ。
真衣が回復してからは真衣は小屋での仕事をメインに担当している。
傀が気を遣っているのもあるだろうが傀の仕事の手伝いと云うのが真衣に課せられた今の仕事と云うのが実のところだ。
その量は予想以上に多く真衣は毎日それをさばくのに必死だ。
だが、真衣にとって喜ばしいこともあった、暗乃がこの組織に所属したと云うのだ。
にこにこと笑う暗乃とげんなりとした傀の様子は真反対で何かあったのは考えるまでもなかったが安心をしてしまったこともまた事実だ。
あれから暗乃は何かと真衣の仕事を手伝ってくれている。
紫鬼がいない代わりに鼓が今は傀の下で働いている、その代わりに五月を付けたかったようだが小屋に近寄るのを五月が良しとしなかった。
一人でもなんとかなると云って見せたもののその仕事量に困っていた真衣を助けてくれたのが暗乃だった、日中は現場の方にいるが夜になるとこちらに顔を出す。重要な書類などは見ないように配慮もしてくれている。
無理をしていないか心配にもなるが暗乃がいることでほっとしている自分がいるのもまた事実だ。
あれから目を覚ました時に云いたいことをまだ伝えられていない。
自分の立場はわかっているつもりだがこの気持ちに嘘を吐くことは出来ない。
「ねえ、暗乃」
「うん?」
「星、見たくない?」
狡い聞き方だと真衣は思う。
だが暗乃もその言葉の意味が分かったのか手に持っていた書類を置く。
二人であの時のように木の上に登れば満天の星空が二人を祝福しているようだった。
枝に腰掛け空を眺めるがそれが本当の目的ではないことなど二人ともわかっている。
「暗乃、ありがとう。兄様意外と気難しいでしょう?」
「そうだね、なかなか良い性格してるとは思ってる」
「昔から私以外にはああなの」
困ったと云うように肩を竦めるが多分そうではない。
真衣に何か下心がありそうな相手をけん制していると云うのが正しいのではないかと暗乃は思っている、口にはしないが。
「それでね、私、昔から兄様に嫁ぐことが決まっていてね」
「……王族じゃ珍しくもないね」
「そう、珍しいことじゃないの、でも兄様は兄様でしかなくて。それでもそう決まっていたからそれしか道がないと思ってた」
真衣の声色が少し震えている、寒いわけではないことくらい暗乃にもわかっている。
だから、真衣の言葉を待った。
「暗乃、笑わないで聞いて」
「笑ったりなんかしないよ」
「私ね、暗乃が好き、なんだと思う。でも、まだわからないのでも、この気持ちは苦しくて切ないのにあなたを見てると嬉しくなってしまう」
わからない感情が恋だと気付くのには時間が掛かったのに思ったよりもあっさりと口から出てしまった。
暗乃の顔が見られない、暗乃は誰にでも優しいように思う、勘違いだなんて恥ずかしいことこの上ない、だから覚悟を決めるのに時間が掛かった。
長くを生きてきた暗乃はこの美貌だ、女に困ることはなかったに違いない。真衣のこの言葉も小娘の戯言と思われるのではないかと怖かった。
「真衣」
一際優しい声だった。
その声に真衣は縮こまった身体を少し緩める。
「それが恋か試してみる?」
「?」
暗乃が真衣の手を取りその甲に口付けを落とした、その様は絵になる。
胸の音が高鳴るのを感じる、傀に寝かしつけられる時のそれではない。
一人の女として意識されていることを確信する口付けに真衣は顔を真っ赤にする。
そのまま手のひらにも口付けをされ優しい微笑みのまま腰を抱かれる。
「どう?どきどきした?」
「……」
「おっといきなりやりすぎたか」
真っ赤になって固まっている真衣にそう笑う暗乃は真衣の腰に回していた手を離す。
びっくりしたと俯く真衣は手慣れたそれにすら少しちくりとした痛みを感じた、きっと手慣れていると云うことはたくさんの相手にもしてきたということだ。
「恋人らしいことは真衣が慣れてからだね」
「らしいこと?」
「真衣、自分の今の言葉ゆっくり振り返って。立派な告白だよ、ちなみに返事はもちろんよろこんで」
「こくはく……」
その言葉を反芻してから真衣はばっと顔を上げた。
そこには綺麗に笑う姿があり、真衣はその笑顔に改めて「この人が好きなのだ」と実感した。
いつから惹かれたのだろうか、それとも初めて会った時から惹かれていたのだろうか、わからないけれど真衣はこれが恋なのだと改めて実感した。
傀に知られれば大目玉だ、しばらくは二人の秘密だと話し合うと真衣は照れくさそうに笑う。
その姿に暗乃が静かに微笑んだ、幸せな空間だと真衣は思った。
あんなにも苦しかった思いが晴れるのはきっとこの気持ちが実ったからなのだろう。
暗乃に連れられて降りれば暗乃は明日は朝から飛空艇のほうに用事があると云う暗乃とは木の下で別れた、その際に頬に口付けをされたのはきっとこれが夢ではないことの証拠だ。
にやけそうになる頬を抓り真衣は必死に平静を保とうとして、また小さく微笑むのだった。
それを誰かが見ているなど真衣は知る由もなかった。
翌日になれば一瞬考えた後今更昨夜のことを思い出し真衣は真っ赤になる、内緒にするとは云ったが大丈夫だろうかと今から不安になる真衣だった。
朝食の席には傀がいるが相も変わらずまともな食事をしていないのはわかる、何度も毒殺をされた結果偏食家となったことは真衣も知っているがきちんとした食事はこの小屋であれば出来るのではないかと思うのだが、真衣の我儘だ。
大量のコーヒーにかき氷と云う何とも云えない組み合わせの横で真衣はイーデスが用意してくれた食事を口にする。
真衣の場合は食事前に鼓が食事を摂っている為、問題はない。
旅の中ではなかなか食べられなかった食事の数々に舌鼓を打ちながら真衣は今日の仕事に関して考えている。
「真衣、少しお願いがあるんだけど」
「どうしたの兄様?」
傀からのお願いと云うのは珍しいものだ、真衣は手を止め話に集中する。
「対したことじゃないんだけどね、ほら報告書にあった真衣の謡。あれ試して欲しくて」
真衣の体力が回復するのを待っていたのだろう、そんなお願いであれば真衣からすれば嬉しいものだ。人に謡を聞かせるのは何よりも楽しい。
何度も頷き目を輝かせる様を見て傀は少し考え込むと「せっかくなら飛空艇で歌う?」と提案される。
それは更に嬉しい話だ。
「ありがとう兄様」
「真衣の“力”の確認だよ」
素っ気なく聞こえる言葉だったがそこに優しさがあるのを真衣は知っている。
予定の調整をすると云う言葉に真衣は今日にでもと思うが難しいのだろうかと思いながらも食事を飲みこんだ。
だが、そんな真衣の気持ちを汲んでいるのかわかっているのか昼過ぎには夕方にでも時間が出来たと傀は真衣へと連絡をして来た。
真衣は思わずにやけながら部屋の中で飛び跳ねたい気持ちを抑える。
思わず口ずさむ謡もいつもよりも明るい曲調で真衣の気持ちを強く反映しているようだった。
熱は下がったものの目を覚まさない日々にやきもきしたのは傀だけではないはずだ。
けが人が一人また一人と回復し船の修復の計画を立てていた際のことだった。
待ちに待っていたその報告に近くにいた鼓に内容を任せて席を立ったのは許されてもいいだろうと傀は走った、幸いにもイーデスの配慮で数名であれば小屋への滞在は許可されており、その最中であった為真衣の元へはすぐに辿りつけた。
部屋をノックして扉を開ければベッドに眠っている真衣が目に入る。
傀が入って来た音に目を開けた真衣は泣きそうになりながら笑う。
「兄様」
小さく呟かれた声に傀は駆け寄りその手を握り締めた。
本当はその身体を抱き締めたかったのだが、今の真衣にはツラいだろうとしなかった。
傀は真衣の顔に掛かっていた髪の毛を避けその額にキスを落とす。
「ふふ、昔みたい」
「幽霊が怖いって云った真衣を寝かしつけた時だね」
「もう、怖くないよ」
まだ力が入らないのだろう、弱弱しく握り返された手は暖かく確かにそこに真衣がいるのだと感じさせる。話したいことはたくさんあるが今は目を覚ましたことだけで充分だ。
ゆっくり休むように云うと微笑み頷いた。
部屋からそっと出た傀は部屋の前にいた暗乃に「そう云うわけだから」と微笑む。
「せっかく譲ったのにまあ、真衣には休んで欲しいし仕方ないか」
「修復計画に参加させるから」
「いじわるだなあ」
飛空艇の修復計画に携わるともなればここから少し離れた場所で時間を費やすことになる。
早々に真衣に会えないのはわかっていての采配だったはず、なのだが。
いるのだ、きちんと修復作業を行っているのは五月の報告で確実なのだがそれにしても頻繁に小屋の中で暗乃を見かける。
もちろん真衣に会いに来ているだけではなくイーデスに森の状況の報告をしていることもあるがそれにしても不自然な動きに鼓に確認をすれば「お前が云うか?」と首を傾げられる。
傀も確かに現場と小屋を何往復としており夜遅くまで報告書の確認などをしているがそれは今までがそうであったからであり、普通はそうではないことは紫鬼に口が酸っぱくなるほど云われていた。
つまり、暗乃も傀と同族と云うことになる。
事実、旅の詳細を聞けば明らかに寝ていない日や食事を抜いているのではないかと云う日が多々見受けられている。
それもまた気に食わない。
真衣がベッドから立ち上がれるようになった頃、真衣は早速傀の手伝いを始めた。
報告書のまとめや必要な部下の采配など真衣は粗削りではあるがこなせている、それに驚きつつも真衣に任せていればどこともなく暗乃が真衣にくっ付いている。
「あからさま過ぎない?あれ放置してたの?」
「いや、あからさまになったと云うべきか……」
更に困るのが暗乃がまた優秀だと云うところだ。
真衣の粗削りな部分をそれとなく補っている為、傀の負担が明らかに減っている。
それ自体はとてもいいことなのだが傀にも手放しには喜べない理由がある。
「真衣が皇女だってわかってやってるのかな」
「一応釘は刺した」
「真衣には?」
「……お前が云った方がいいだろう」
この大陸では純血が最も尊ばれる存在だ、如何に優秀な人物であろうとも混ざりものと云う時点でその将来には限りが出る。
その為王族の中にはその血をより濃く保つことを正とする人々もいる。
今、リーウェンの純血は真衣と傀しかいない、そもそも真衣は少なくなって来た純血を守る為に兄である傀に嫁ぐことが決まっていた。それは今も変わらないことであり、真衣も自覚をしてはいるのはずだ。だからこそ今の内に自由にしたい気持ちは痛いほどにわかる。
溜め息を吐き傀は机に突っ伏した。
その目線は真衣の旅を記した宝石に向いている。
「楽しそうにしてる真衣の邪魔はしたくないな」
そう呟いた傀の言葉は真衣に届くことはないのだろう。
限りある自由を謳歌する鳥の羽根を引きちぎるような真似はしたくないが、必要とあればそれも策かと傀は顔を上げコーヒーを飲みこんだ。
真衣が回復してからは真衣は小屋での仕事をメインに担当している。
傀が気を遣っているのもあるだろうが傀の仕事の手伝いと云うのが真衣に課せられた今の仕事と云うのが実のところだ。
その量は予想以上に多く真衣は毎日それをさばくのに必死だ。
だが、真衣にとって喜ばしいこともあった、暗乃がこの組織に所属したと云うのだ。
にこにこと笑う暗乃とげんなりとした傀の様子は真反対で何かあったのは考えるまでもなかったが安心をしてしまったこともまた事実だ。
あれから暗乃は何かと真衣の仕事を手伝ってくれている。
紫鬼がいない代わりに鼓が今は傀の下で働いている、その代わりに五月を付けたかったようだが小屋に近寄るのを五月が良しとしなかった。
一人でもなんとかなると云って見せたもののその仕事量に困っていた真衣を助けてくれたのが暗乃だった、日中は現場の方にいるが夜になるとこちらに顔を出す。重要な書類などは見ないように配慮もしてくれている。
無理をしていないか心配にもなるが暗乃がいることでほっとしている自分がいるのもまた事実だ。
あれから目を覚ました時に云いたいことをまだ伝えられていない。
自分の立場はわかっているつもりだがこの気持ちに嘘を吐くことは出来ない。
「ねえ、暗乃」
「うん?」
「星、見たくない?」
狡い聞き方だと真衣は思う。
だが暗乃もその言葉の意味が分かったのか手に持っていた書類を置く。
二人であの時のように木の上に登れば満天の星空が二人を祝福しているようだった。
枝に腰掛け空を眺めるがそれが本当の目的ではないことなど二人ともわかっている。
「暗乃、ありがとう。兄様意外と気難しいでしょう?」
「そうだね、なかなか良い性格してるとは思ってる」
「昔から私以外にはああなの」
困ったと云うように肩を竦めるが多分そうではない。
真衣に何か下心がありそうな相手をけん制していると云うのが正しいのではないかと暗乃は思っている、口にはしないが。
「それでね、私、昔から兄様に嫁ぐことが決まっていてね」
「……王族じゃ珍しくもないね」
「そう、珍しいことじゃないの、でも兄様は兄様でしかなくて。それでもそう決まっていたからそれしか道がないと思ってた」
真衣の声色が少し震えている、寒いわけではないことくらい暗乃にもわかっている。
だから、真衣の言葉を待った。
「暗乃、笑わないで聞いて」
「笑ったりなんかしないよ」
「私ね、暗乃が好き、なんだと思う。でも、まだわからないのでも、この気持ちは苦しくて切ないのにあなたを見てると嬉しくなってしまう」
わからない感情が恋だと気付くのには時間が掛かったのに思ったよりもあっさりと口から出てしまった。
暗乃の顔が見られない、暗乃は誰にでも優しいように思う、勘違いだなんて恥ずかしいことこの上ない、だから覚悟を決めるのに時間が掛かった。
長くを生きてきた暗乃はこの美貌だ、女に困ることはなかったに違いない。真衣のこの言葉も小娘の戯言と思われるのではないかと怖かった。
「真衣」
一際優しい声だった。
その声に真衣は縮こまった身体を少し緩める。
「それが恋か試してみる?」
「?」
暗乃が真衣の手を取りその甲に口付けを落とした、その様は絵になる。
胸の音が高鳴るのを感じる、傀に寝かしつけられる時のそれではない。
一人の女として意識されていることを確信する口付けに真衣は顔を真っ赤にする。
そのまま手のひらにも口付けをされ優しい微笑みのまま腰を抱かれる。
「どう?どきどきした?」
「……」
「おっといきなりやりすぎたか」
真っ赤になって固まっている真衣にそう笑う暗乃は真衣の腰に回していた手を離す。
びっくりしたと俯く真衣は手慣れたそれにすら少しちくりとした痛みを感じた、きっと手慣れていると云うことはたくさんの相手にもしてきたということだ。
「恋人らしいことは真衣が慣れてからだね」
「らしいこと?」
「真衣、自分の今の言葉ゆっくり振り返って。立派な告白だよ、ちなみに返事はもちろんよろこんで」
「こくはく……」
その言葉を反芻してから真衣はばっと顔を上げた。
そこには綺麗に笑う姿があり、真衣はその笑顔に改めて「この人が好きなのだ」と実感した。
いつから惹かれたのだろうか、それとも初めて会った時から惹かれていたのだろうか、わからないけれど真衣はこれが恋なのだと改めて実感した。
傀に知られれば大目玉だ、しばらくは二人の秘密だと話し合うと真衣は照れくさそうに笑う。
その姿に暗乃が静かに微笑んだ、幸せな空間だと真衣は思った。
あんなにも苦しかった思いが晴れるのはきっとこの気持ちが実ったからなのだろう。
暗乃に連れられて降りれば暗乃は明日は朝から飛空艇のほうに用事があると云う暗乃とは木の下で別れた、その際に頬に口付けをされたのはきっとこれが夢ではないことの証拠だ。
にやけそうになる頬を抓り真衣は必死に平静を保とうとして、また小さく微笑むのだった。
それを誰かが見ているなど真衣は知る由もなかった。
翌日になれば一瞬考えた後今更昨夜のことを思い出し真衣は真っ赤になる、内緒にするとは云ったが大丈夫だろうかと今から不安になる真衣だった。
朝食の席には傀がいるが相も変わらずまともな食事をしていないのはわかる、何度も毒殺をされた結果偏食家となったことは真衣も知っているがきちんとした食事はこの小屋であれば出来るのではないかと思うのだが、真衣の我儘だ。
大量のコーヒーにかき氷と云う何とも云えない組み合わせの横で真衣はイーデスが用意してくれた食事を口にする。
真衣の場合は食事前に鼓が食事を摂っている為、問題はない。
旅の中ではなかなか食べられなかった食事の数々に舌鼓を打ちながら真衣は今日の仕事に関して考えている。
「真衣、少しお願いがあるんだけど」
「どうしたの兄様?」
傀からのお願いと云うのは珍しいものだ、真衣は手を止め話に集中する。
「対したことじゃないんだけどね、ほら報告書にあった真衣の謡。あれ試して欲しくて」
真衣の体力が回復するのを待っていたのだろう、そんなお願いであれば真衣からすれば嬉しいものだ。人に謡を聞かせるのは何よりも楽しい。
何度も頷き目を輝かせる様を見て傀は少し考え込むと「せっかくなら飛空艇で歌う?」と提案される。
それは更に嬉しい話だ。
「ありがとう兄様」
「真衣の“力”の確認だよ」
素っ気なく聞こえる言葉だったがそこに優しさがあるのを真衣は知っている。
予定の調整をすると云う言葉に真衣は今日にでもと思うが難しいのだろうかと思いながらも食事を飲みこんだ。
だが、そんな真衣の気持ちを汲んでいるのかわかっているのか昼過ぎには夕方にでも時間が出来たと傀は真衣へと連絡をして来た。
真衣は思わずにやけながら部屋の中で飛び跳ねたい気持ちを抑える。
思わず口ずさむ謡もいつもよりも明るい曲調で真衣の気持ちを強く反映しているようだった。
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