【完結】前世聖女のかけだし悪女

たちばな立花

文字の大きさ
31 / 66

計画的迷子

しおりを挟む
 リリアナはルーカスと共に来た道を戻る。夕刻が近づいてくるにつれて、人の数が増えていた。リリアナたちの集団を避ける余裕がなくなってきたのか、目の前も横も後ろも人が多い。

(今なら迷子のフリをして学院に行けるかも)

 あの少年たちについて行けば、学院の寮があるはずだ。

 悪意のない人の波が押し寄せる。足元の子どもの存在など誰も気にとめる余裕はない。学院が初等部の生徒に繁華街の出入りを禁じるのも頷ける。

 リリアナがただの五才の子どもであったならば、今ごろ不安で泣いていただろう。

 ルーカスがリリアナを抱き上げようとして一瞬手を離した。その隙にリリアナは人混みに流された風を装いルーカスの側から逃げ出したのだ。

「リリアナッ!?」

 ルーカスの大きな声が聞こえる。

(お父様、ごねんね……!)

 リリアナは心の中で誠心誠意謝罪をした。

 人々の足のあいだをせっせと走る。少しでもルーカスから離れなければならない。エリオットに会えるかもしれないのだ。

 ルーカスの声は聞こえない。だいぶ離れられることができた。人混みを抜けたリリアナは学院に続く道を真っ直ぐ走る。

(さっきの少年たちは……)

 彼らはまだ買い物を終えていないようだった。ならば走れば追いつくだろう。

 二人の少年を探すためにキョロキョロと当たりを見回していると、商人に声をかけられそうになった。それを走って回避し、少年を探す。すると、繁華街の出口の近くで彼らの姿を見つけた。

 リリアナは勢いよく走り、少年に飛びつく。

「うわっ!?」
「え!?」

 二人の少年が声を上げた。

(なんて言うか考えてなかった。突然「お兄様のところに連れてって」じゃおかしいよね)

 リリアナは少年の体に抱きついたまま、思案した。

「お嬢ちゃん……? どうしたんだい?」
「もしかして迷子かな? 服装からしてこの辺の子じゃないだろう? 親御さんは?」

(そうだ。迷子ってことにしよう)

 リリアナはぎゅっと目に力を込める。乾いた目に涙はたまらない。結局、二人に見えないように欠伸をして、目を湿らせた。

 潤んだ瞳で二人の少年を見上げる。

「お兄様じゃないの……?」
「お兄様? おい、おまえ、こんな可愛い妹いたのか?」
「いるわけないだろ? お嬢ちゃんはお兄様と来たんだ?」

 人のいい少年たちはしゃがんでリリアナに視線を合わせる。リリアナは頭を振った。

「お父様とデートしてた」
「お父様とはぐれたの?」
「うん。お兄様の制服と同じだったから……」

 リリアナは二人の少年の袖を引っ張る。実際、エリオットの制服姿は見たことがない。しかし、嘘も方便だ。

「お兄様も学院の生徒なのかな?」

 少年の言葉にリリアナは頷いた。そのとき、商業地区の中心部にある時計台の鐘が鳴った。ゴーンともボーンとも言えない、鈍い音が響く。

 少年たちはその音を聞くやいなや、顔を見合わせた。

「おい、どうする? そろそろ門限だ」
「でも、こんな小さな子放っておけないよな」
「だけどさ、ペナルティは受けたくないし」

 リリアナは二人の袖をしっかりと掴んだ。ここで逃げられたら、迷子になり損だ。それを、少年たちは不安にさせたと勘違いしたのだろう。

「ああ、ごめんごめん。大丈夫だよ。こんなところに置いていったってばれたら、寮母さんに叱られるし」
「そうだ。とりあえず、寮に連れてって、寮母さんにお願いしたら?」
「そうだな」
「お嬢ちゃん、俺たちの寮に一緒に行こう。そこの寮母さんがお父様のところに連れて行ってくれるよ」
「本当?」
「ああ」

 少年たちはにこりと笑った。二人の少年に両手を引かれ、学院の寮へと向かう。二人は気さくで優しい。リリアナを不安にさせないように、何度も声をかけてくれた。

「お嬢ちゃん、名前は?」
「リリアナ」
「リリアナちゃんかー。何歳?」

 リリアナは一度立ち止まり、少年から手を離すと、大きく手を開いて「五」の数字を示した。

「五才か~。てことはリリアナちゃんのお兄様はまだ初等部かもね」
「年の離れた兄妹なら中等部かもしれない」
「その可能性もあるか」
「リリアナちゃんのお兄さんは名前、なんて言うの?」
「エリオット」

 リリアナが兄の名を告げると、二人の少年はピタリと足を止めた。彼らは顔を見合わせる。

「もしかして、グランツ先輩のことだったりして」
「いや、エリオットなんて名前、他にもいるって」
「まあ、珍しい名前でもないしな」

 乾いた笑いが飛び交った。

(グランツ先輩。ってことは、二人はお兄様のことを知っているのね)

 それなら好都合。寮母さんとやらよりも、直接エリオットのところに連れて行ってもらったほうがいい。

 リリアナは寮の門を見上げた。前世では馬車で通っていたため、寮とは無縁だ。厳かな雰囲気が漂っている。高い塀で囲まれた寮。煉瓦造りの建物は古くからあるらしい。

 リリアナは少年二人を見上げて、笑顔で言った。

「そう! 私のお兄様の名前は、エリオット・グランツよ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

義妹に苛められているらしいのですが・・・

天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。 その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。 彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。 それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。 儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。 そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...