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14.婚約者の駆け落ち(side.A)
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部屋には両親の他、祖父が集まっていた。
アウルの今後を話し合うためだ。
狩りの場ではマデリンとルイードの話でもちきりだった。
しかし、婚約者だったエミリアが駆け落ちしたことに気づいたオーティア伯爵が、アウルたちのもとへとやってきたのだ。
『騒ぎに乗じ、騎士と二人逃げたようでして……』
そう語るオーティア伯爵の顔色は悪かった。
事情を知っているアウルは、冷静なものだ。うまく逃げられたことに安堵すらしていた。
『彼を愛していたのでしょう。しかたありません』
淡々と返したアウルに、オーティア伯爵夫妻は何度も頭を下げた。
頭を下げる必要はない。だって、アウルも共犯なのだ。
彼女たちが逃げられるように取り計らったのはアウルだ。
こうしてアウルとエミリアの婚約は、白紙となった。
現在、ルート家では絶賛家族会議中だ。
「今さら婚約がなくなるなんて……」
母は大きなため息をついた。
彼女は心配症だ。ルート家の未来を憂いているのだろう。
母はアウルしか子どもが産めなかったことを、いつも愁いていた。
もし、アウルに何かあったら?
ルート家が途絶えてしまったら?
そんなふうに、アウルは少しばかり過保護に育てられた。
今も母の頭の中はいっぱいだろう。「このままアウルと結婚する人がいなかったら?」と。
寡黙な父はまだ頭の中を整理しているようだ。眉根を寄せ目を閉じたまま、腕を組んでいた。彼は何かを決めるまでのあいだ、沈黙を貫く癖がある。そのあいだ、母を止められる人はいない。
アウルは母を安心させるために、落ち着いた声で言った。
「いるではありませんか。一人」
本当は心臓が張り裂けそうなほど痛い。
もし、家族に反対されたら?
母の心配症がうつったようだ。
「そんな都合よく……」
言いかけて、母は目を見開いた。
祖父が楽しそうに笑い声を上げ、咳き込む。
アウルは脈打つ心臓に手を置き、ゆっくりと息を吐く。
「私はマデリン・トルバ嬢に求婚状を送るつもりです」
「で、でもあんなことがあったあとよ?」
「うちも、こんなことがあったばかりではありませんか」
マデリンの父が新たな婚約者を見つける前に手を打たなければならない。
狩り場でマデリンはアウルに契約結婚を提案した。しかし、まだ決定ではない。結局、正式に結婚を決めるには当主の許可がいる。
「いいじゃないか。明日の朝、早速求婚状を送ってやりなさい」
「お義父様! こういうのはそう簡単に決めていい問題ではありません!」
「しかし、トルバ家以上にアウルと釣り合いの取れる令嬢は残っておらんぞ?」
「それは……。そうですけれど……」
母はもごもごと言い続けた。
アウルには母の気持ちが手に取るようにわかる。
慌てて求婚状を送り、変な噂になったら?
驚いたとはいえ猟銃を婚約者に向けて撃ってしまうような子で大丈夫なの?
焦りと不安。彼女はそんな中でいつも生きている。
「父上、だめですか?」
アウルは父の目を見て言った。
祖父はこの一年で父に爵位を譲った。決めるのは父だ。
父の瞼がゆっくりと上がる。
「どうせ、おまえはもう決めていたんだろう?」
「そうしたいと思っています」
「トルバ家の令嬢とは仲がよかったな」
「まあ、それなりに」
父は小さくため息をつく。
そして、頷いた。
「いいだろう。この求婚は互いに悪い話でもない。向こうも無下にはしないだろう」
アウルは飛び上がりそうになるほど嬉しかった。しかし、ぐっと堪える。
その代わり、唇を噛み締め深く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
祖父の笑い声が部屋に響く。
彼だけがアウルの心のうちを知っていた。
アウルの今後を話し合うためだ。
狩りの場ではマデリンとルイードの話でもちきりだった。
しかし、婚約者だったエミリアが駆け落ちしたことに気づいたオーティア伯爵が、アウルたちのもとへとやってきたのだ。
『騒ぎに乗じ、騎士と二人逃げたようでして……』
そう語るオーティア伯爵の顔色は悪かった。
事情を知っているアウルは、冷静なものだ。うまく逃げられたことに安堵すらしていた。
『彼を愛していたのでしょう。しかたありません』
淡々と返したアウルに、オーティア伯爵夫妻は何度も頭を下げた。
頭を下げる必要はない。だって、アウルも共犯なのだ。
彼女たちが逃げられるように取り計らったのはアウルだ。
こうしてアウルとエミリアの婚約は、白紙となった。
現在、ルート家では絶賛家族会議中だ。
「今さら婚約がなくなるなんて……」
母は大きなため息をついた。
彼女は心配症だ。ルート家の未来を憂いているのだろう。
母はアウルしか子どもが産めなかったことを、いつも愁いていた。
もし、アウルに何かあったら?
ルート家が途絶えてしまったら?
そんなふうに、アウルは少しばかり過保護に育てられた。
今も母の頭の中はいっぱいだろう。「このままアウルと結婚する人がいなかったら?」と。
寡黙な父はまだ頭の中を整理しているようだ。眉根を寄せ目を閉じたまま、腕を組んでいた。彼は何かを決めるまでのあいだ、沈黙を貫く癖がある。そのあいだ、母を止められる人はいない。
アウルは母を安心させるために、落ち着いた声で言った。
「いるではありませんか。一人」
本当は心臓が張り裂けそうなほど痛い。
もし、家族に反対されたら?
母の心配症がうつったようだ。
「そんな都合よく……」
言いかけて、母は目を見開いた。
祖父が楽しそうに笑い声を上げ、咳き込む。
アウルは脈打つ心臓に手を置き、ゆっくりと息を吐く。
「私はマデリン・トルバ嬢に求婚状を送るつもりです」
「で、でもあんなことがあったあとよ?」
「うちも、こんなことがあったばかりではありませんか」
マデリンの父が新たな婚約者を見つける前に手を打たなければならない。
狩り場でマデリンはアウルに契約結婚を提案した。しかし、まだ決定ではない。結局、正式に結婚を決めるには当主の許可がいる。
「いいじゃないか。明日の朝、早速求婚状を送ってやりなさい」
「お義父様! こういうのはそう簡単に決めていい問題ではありません!」
「しかし、トルバ家以上にアウルと釣り合いの取れる令嬢は残っておらんぞ?」
「それは……。そうですけれど……」
母はもごもごと言い続けた。
アウルには母の気持ちが手に取るようにわかる。
慌てて求婚状を送り、変な噂になったら?
驚いたとはいえ猟銃を婚約者に向けて撃ってしまうような子で大丈夫なの?
焦りと不安。彼女はそんな中でいつも生きている。
「父上、だめですか?」
アウルは父の目を見て言った。
祖父はこの一年で父に爵位を譲った。決めるのは父だ。
父の瞼がゆっくりと上がる。
「どうせ、おまえはもう決めていたんだろう?」
「そうしたいと思っています」
「トルバ家の令嬢とは仲がよかったな」
「まあ、それなりに」
父は小さくため息をつく。
そして、頷いた。
「いいだろう。この求婚は互いに悪い話でもない。向こうも無下にはしないだろう」
アウルは飛び上がりそうになるほど嬉しかった。しかし、ぐっと堪える。
その代わり、唇を噛み締め深く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
祖父の笑い声が部屋に響く。
彼だけがアウルの心のうちを知っていた。
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