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21.そういう気分じゃないの
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歩くたびに痛む足では、アウルに迷惑をかける。
彼に格好悪いところは見せたくなかった。
父からの仕打ちも知られたくはない。原因が狩りに行ったことだと知ったら、アウルが悲しむだろうから。
「……悪いけど、私はそういう気分じゃないの」
マデリンは絞り出すように言った。
アウルがポツリと呟く。
「そうか」
マデリンは慌てた。
アウルを傷つけたのではないかと思ったからだ。
「あなただってダンスは嫌いでしょ?」
「まあ、そうだな。あまり好きではないな」
アウルは困ったように笑って頭をかく。
「ダンスが嫌いなのにわざわざ私を誘わなくてもいいのよ」
マデリンはいつになく早口になる。
もっといい言い訳を考えているのに、こういうときはまったく出てこない。
「そんなふうに気を遣わなくて大丈夫だから……」
「ああ、そうだな。ありがとう」
(なんで今日なのよ)
今日でなければ。
今日でなければその手を取ることができたのに。
今まで一度だってマデリンを誘ったこともないのに。
「マデリン。なら、あっちに軽食を食べに行こう」
アウルがマデリンの手を引く。
マデリンは一生分のチャンスを逃したのかもしれない。
もう二度と、アウルはマデリンをダンスにはさそわないかもしれない。
膝の裏がジクジクと痛んだ。
***
マデリンは次の日から、ほとんどをベッドの上で過ごした。
傷が痛いからだ。
けっして、ダンスのことを引きずっているわけではない。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「大丈夫ではないわ。今回はまだ痛むの」
マデリンは枕に顔を埋めた。
「腫れも傷もおさまったのですが……。お医者様をこっそりお呼びしますか?」
「いいわ。寝てれば治るはずよ」
この痛みは医者では治せない。しかし、マデリンも治し方はわからなかった。
「わかりました。招待状がたまってますから、もしも調子がよくなったらご確認ください」
「そう……」
テーブルの上には山のような招待状があった。
ルイードと婚約破棄をしてから、招待状が増えたように感じる。
令嬢たちはスキャンダルが大好きだ。きっとマデリンの口から真相を聞きたいのだろう。
好奇心旺盛な同年代の令嬢の顔を思い浮かべる。
(今はそんな気分じゃないんだけど)
けれど、ベッドの上にいても考えるのは先日のダンスのことばかり。
あのあと、アウルとは何事もなかったかのように過ごした。
ダンスに誘われたのは、マデリンの見た夢だったのではないかというほど普通に。
だからこそ不安になる。
アウルはダンスを断った新しい婚約者に嫌気がさしていないだろうか。
マデリンは膝を抱えた。
(私の馬鹿。なんで断ったのよ)
痛みに耐えて手を取っていれば、毎回誘ってくれたかもしれない。
先日断ったせいで、もうアウルは二度とマデリンをダンスに誘わないだろう。
(馬鹿、馬鹿、馬鹿……)
この五年間、何度夢見ただろうか。
彼の手を取ってダンスを踊る姿を。
運命は意地悪だ。
(うじうじしてても、何にもならないわ)
マデリンはベッドから出ると、招待状を手に取った。
メイドは優秀で、上から期日が近い順番に招待状が並んでいる。
だから、それの一番上を開いた。そして、ほとんど内容も読まずに返事を書いたのだ。
「これに参加するわ」
「お茶会ですか? 珍しいですね」
「そういう気分なの」
お茶会なんて趣味ではない。しかし、何か環境を変えないと、自分の後悔に押しつぶされそうだったのだ。
だからと言って、すぐにアウルに会いに行く気にはなれない。
会えば余計なことを言ってしまいそうだったのだ。
お茶会はちょうどよかった。
***
数日後、予定通りマデリンはお茶会に参加した。
席に座るマデリンを見て、令嬢たちはみんな同じ顔をする。
珍しいものでも見たかのような顔だ。
社交場を嫌い、最低限しか参加しないことで有名なマデリンが来たからだろうか。
「マデリンがお茶会に!?」
最初に声を上げたのは、ハンナだった。
彼女はどのお茶会にもいる。
毎日のようにお茶会に参加してるのに、抜群のプロポーションを維持しているのはどうしてだろうか。
ハンナはすぐさまマデリンに飛びついた。
「聞いていないわ! お茶会に来るなら来るって連絡してちょうだいよ」
「そういう気分になったの」
「マデリンが? あのマデリン・トルバが!?」
ハンナは楽しそうに笑うとマデリンの隣に腰を下ろした。
「噂の婚約者さんと夜会に行ったって聞いたわ」
「情報が早いわね」
「なんで教えてくれなかったのよ! 教えてくれていたら私も潜入していたのに!」
ハンナは頬を膨らませた。
「私にハンナの好奇心を満たす義務はないわよ」
「もう……。私はマデリンがどんな顔で婚約者の隣に立つのか見たかっただけよ」
「それを好奇心というのではなくて?」
ハンナはペロリと舌を出した。
「せっかくクズと縁が切れたんだから、幸せになってほしいじゃない?」
「案外、友人思いなのね」
「それはそうよ! マデリンは親友だもの。あ、噂をすれば、クズ男の新しい婚約者さんが来たわ」
ハンナが目を細めて笑う。
彼女の視線を辿ると、一人の令嬢に行き着いた。
(新しい婚約者?)
マデリンは何度か目を瞬かせた。
「もう忘れちゃったの? 元婚約者の浮気相手のナターシャさんよ」
「ああ、あのときの」
あられもない姿で気絶した、ルイードの浮気相手だ。
ナターシャという名前だったのか。
彼女はマデリンをキッと睨みつけた。
そして、すぐに取り出した扇子で口もとを隠す。
「あら、誰かと思えばルイード様に捨てられた、元婚約者さんじゃない?」
捨てられたというのは少々語弊があるような気がするが、似たようなものだろうか。
マデリンは紅茶を飲みながら、笑みを浮かべた。
彼に格好悪いところは見せたくなかった。
父からの仕打ちも知られたくはない。原因が狩りに行ったことだと知ったら、アウルが悲しむだろうから。
「……悪いけど、私はそういう気分じゃないの」
マデリンは絞り出すように言った。
アウルがポツリと呟く。
「そうか」
マデリンは慌てた。
アウルを傷つけたのではないかと思ったからだ。
「あなただってダンスは嫌いでしょ?」
「まあ、そうだな。あまり好きではないな」
アウルは困ったように笑って頭をかく。
「ダンスが嫌いなのにわざわざ私を誘わなくてもいいのよ」
マデリンはいつになく早口になる。
もっといい言い訳を考えているのに、こういうときはまったく出てこない。
「そんなふうに気を遣わなくて大丈夫だから……」
「ああ、そうだな。ありがとう」
(なんで今日なのよ)
今日でなければ。
今日でなければその手を取ることができたのに。
今まで一度だってマデリンを誘ったこともないのに。
「マデリン。なら、あっちに軽食を食べに行こう」
アウルがマデリンの手を引く。
マデリンは一生分のチャンスを逃したのかもしれない。
もう二度と、アウルはマデリンをダンスにはさそわないかもしれない。
膝の裏がジクジクと痛んだ。
***
マデリンは次の日から、ほとんどをベッドの上で過ごした。
傷が痛いからだ。
けっして、ダンスのことを引きずっているわけではない。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「大丈夫ではないわ。今回はまだ痛むの」
マデリンは枕に顔を埋めた。
「腫れも傷もおさまったのですが……。お医者様をこっそりお呼びしますか?」
「いいわ。寝てれば治るはずよ」
この痛みは医者では治せない。しかし、マデリンも治し方はわからなかった。
「わかりました。招待状がたまってますから、もしも調子がよくなったらご確認ください」
「そう……」
テーブルの上には山のような招待状があった。
ルイードと婚約破棄をしてから、招待状が増えたように感じる。
令嬢たちはスキャンダルが大好きだ。きっとマデリンの口から真相を聞きたいのだろう。
好奇心旺盛な同年代の令嬢の顔を思い浮かべる。
(今はそんな気分じゃないんだけど)
けれど、ベッドの上にいても考えるのは先日のダンスのことばかり。
あのあと、アウルとは何事もなかったかのように過ごした。
ダンスに誘われたのは、マデリンの見た夢だったのではないかというほど普通に。
だからこそ不安になる。
アウルはダンスを断った新しい婚約者に嫌気がさしていないだろうか。
マデリンは膝を抱えた。
(私の馬鹿。なんで断ったのよ)
痛みに耐えて手を取っていれば、毎回誘ってくれたかもしれない。
先日断ったせいで、もうアウルは二度とマデリンをダンスに誘わないだろう。
(馬鹿、馬鹿、馬鹿……)
この五年間、何度夢見ただろうか。
彼の手を取ってダンスを踊る姿を。
運命は意地悪だ。
(うじうじしてても、何にもならないわ)
マデリンはベッドから出ると、招待状を手に取った。
メイドは優秀で、上から期日が近い順番に招待状が並んでいる。
だから、それの一番上を開いた。そして、ほとんど内容も読まずに返事を書いたのだ。
「これに参加するわ」
「お茶会ですか? 珍しいですね」
「そういう気分なの」
お茶会なんて趣味ではない。しかし、何か環境を変えないと、自分の後悔に押しつぶされそうだったのだ。
だからと言って、すぐにアウルに会いに行く気にはなれない。
会えば余計なことを言ってしまいそうだったのだ。
お茶会はちょうどよかった。
***
数日後、予定通りマデリンはお茶会に参加した。
席に座るマデリンを見て、令嬢たちはみんな同じ顔をする。
珍しいものでも見たかのような顔だ。
社交場を嫌い、最低限しか参加しないことで有名なマデリンが来たからだろうか。
「マデリンがお茶会に!?」
最初に声を上げたのは、ハンナだった。
彼女はどのお茶会にもいる。
毎日のようにお茶会に参加してるのに、抜群のプロポーションを維持しているのはどうしてだろうか。
ハンナはすぐさまマデリンに飛びついた。
「聞いていないわ! お茶会に来るなら来るって連絡してちょうだいよ」
「そういう気分になったの」
「マデリンが? あのマデリン・トルバが!?」
ハンナは楽しそうに笑うとマデリンの隣に腰を下ろした。
「噂の婚約者さんと夜会に行ったって聞いたわ」
「情報が早いわね」
「なんで教えてくれなかったのよ! 教えてくれていたら私も潜入していたのに!」
ハンナは頬を膨らませた。
「私にハンナの好奇心を満たす義務はないわよ」
「もう……。私はマデリンがどんな顔で婚約者の隣に立つのか見たかっただけよ」
「それを好奇心というのではなくて?」
ハンナはペロリと舌を出した。
「せっかくクズと縁が切れたんだから、幸せになってほしいじゃない?」
「案外、友人思いなのね」
「それはそうよ! マデリンは親友だもの。あ、噂をすれば、クズ男の新しい婚約者さんが来たわ」
ハンナが目を細めて笑う。
彼女の視線を辿ると、一人の令嬢に行き着いた。
(新しい婚約者?)
マデリンは何度か目を瞬かせた。
「もう忘れちゃったの? 元婚約者の浮気相手のナターシャさんよ」
「ああ、あのときの」
あられもない姿で気絶した、ルイードの浮気相手だ。
ナターシャという名前だったのか。
彼女はマデリンをキッと睨みつけた。
そして、すぐに取り出した扇子で口もとを隠す。
「あら、誰かと思えばルイード様に捨てられた、元婚約者さんじゃない?」
捨てられたというのは少々語弊があるような気がするが、似たようなものだろうか。
マデリンは紅茶を飲みながら、笑みを浮かべた。
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