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59.結婚は結婚。恋愛は恋愛
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ルイードは舐めるようにマデリンを見たあと、口を開いた。
「どうやら、僕は君をずっと待っていたようだ」
ねっとりとした口調にマデリンは苦笑を浮かべる。
ルイードの婚約者として過ごした五年。彼からここまで下品な視線を受けたことはない。
彼にとってのマデリンは、おそらく恋愛の対象ではなく支配の対象だったのだろう。
「奇遇ね。私もあなたを探していたの」
「へえ……。嬉しいな」
ルイードは手にしていたワインを飲み干した。そして、マデリンのグラスを奪い取ると、一気に飲み干す。
「出会いの記念に踊ろう」
「いいわ」
ルイードはマデリンの腰を抱く。
彼の手をはね除けたい気持ちをグッと堪える。
(最悪だわ)
気分がいいものではない。
狩猟大会で引き金を引いたあの日、もう二度とこの手を触れることはないと思っていたのだ。
マデリンはグッとこらえてルイードに笑みを浮かべる。
幸い顔の三分の二は仮面で隠れているから、口角さえ上げればよかった。
こんなに近づいても、ルイードはマデリンに気づかない。
いつもとは違う化粧だからか。
髪色が違うからか。
いいや、そもそも彼はマデリンに興味などないのだ。
執着しているのは、マデリンが結婚相手に一番都合がいいのだろう。
しかし、今はそれに助けられた。
ルイードがめざとい男であったならば、ここまで近づくことはできなかっただろう。
ルイードはマデリンの腰を引き寄せながら、言った。
「見かけない顔だ。仮面舞踏会は初めて?」
かかる息にマデリンは眉根を寄せる。
仮面が隠してくれなかったら、不機嫌な表情が丸見えだっただろう。
「あなたは慣れていそうね」
「どうだろうか?」
ルイードは薄く笑った。
会話を楽しむつもりはない。しかし、この様子だと彼はゆっくりマデリンを口説くつもりなのだろう。
そういう雰囲気を感じ、辟易した。
どうして世の女性たちはこんな男に靡くのか。
やはり、公爵夫人という席はそれほどまでに魅力的ということだろうか。
うんざりとした気持ちを飲み込み、マデリンは口角を上げる。
「あら? こういう場所がお好きなのに、誤魔化すのね」
「へえ……。僕のことを知っているような口ぶりだ」
「もちろんよ。いつも違う女性をこうやって口説いているじゃない」
マデリンはルイードの胸に手を置きながら、笑みを浮かべた。
彼は目を見開いたあと、目を細める。
五年間、マデリンがこの様子を何回見ていると思っているのだろうか。
どうやら、嫌いなものというのはすぐに目につく性質を持つらしい。
彼はどこにいても自然と目に入った。
女性の腰を抱き、まるで恋人同士のような距離で会話を楽しむ姿を。
ダンスを踊り、そのまま個室に誘う後ろ姿を。
それを見届けて、マデリンはいつも帰路についていた。
「知らなかったな。そんなに僕を見ている女性がまだいたなんて。しかも、こんなに美人に」
「あなたはいつも女性が周りにいて、声がかけられなかったの」
「君みたいな美人なら、いつでも大歓迎なのに」
「あら? 婚約者さんがいる人の言葉とは思えないわ」
「結婚は結婚。恋愛は恋愛だ」
ターンをしながらマデリンは笑う。
こんな男と五年間も婚約を続けていたことが恥ずかしい。
マデリンは両腕をルイードに絡ませながら、口角を上げた。
「でも、今の婚約者さんは嫉妬深そうだわ」
マデリンの言葉にルイードの頬がわずかに引きつった。
「お茶会でもいつも女王様気分。目をつけられたら、何をされるかわかったものではないって、みんな言っているわ」
先日、ハンナから聞いた話だ。みんな辟易していると。
「それなら安心するといい。あともう少しでもとに戻る」
「もとに? どうやって?」
心臓が早歩きになった。
「いずれ婚約破棄になるだろう」
「そんな簡単に婚約を破棄できるの? でまかせを言って私を口説くつもり?」
マデリンは慎重に言葉を選ぶ。
あまり食いついても怪しまれるだろう。
「簡単さ。あの女頭が弱いからな」
ルイードは嬉しそうに笑った。
首が赤い。酔っているようだ。ダンスの前に一気に飲んだワインが効いているのだろう。
マデリンの分も飲んだ上にダンスをしている。
(もっと口が軽くなってくれると助かるんだけど……)
どうやって婚約破棄に持ち込むつもりなのか。そこが重要だ。
そして、彼は「もとに戻る」と言っていた。
つまり、それはマデリンのことを示しているのだろう。
「でも、もとには戻らないわ。だって、あなたの元婚約者さんはもう別の男がいるじゃない」
マデリンの言葉にルイードはにやりと笑った。
「そんなの簡単だ。全部、もとに戻る」
ルイードがマデリンの腰を強く抱き寄せた。
アルコールを含んだ熱い息がかかる。
マデリンは思わず眉根を寄せた。
(これ以上は無理ね)
マデリンは小さくため息をつく。
そして、ルイードを見上げた。
「適当なこと言って、私を弄ぶ気でしょう? 目をつけられるのはごめんだわ」
マデリンはルイードの腕から逃れると、ダンスホールを抜け出す。
「君っ!」
ルイードが後ろから追って来た。
酔っているせいか、足はおぼつかない。しかし、彼は執拗だった。
(もうっ! さっさと諦めなさいよ!)
この会場の半分は女性だ。マデリンでなくてもいいだろう。
マデリンは人のあいだを縫って逃げた。
それでも追いかけてくるルイードに、マデリンはうんざりとした気持ちになる。
あまり騒ぎにはなりたくない。
しかし、庭園に逃げ出した途端、腕を引かれた。
「キャッ!」
マデリンは突然のことに声を上げた。
「どうやら、僕は君をずっと待っていたようだ」
ねっとりとした口調にマデリンは苦笑を浮かべる。
ルイードの婚約者として過ごした五年。彼からここまで下品な視線を受けたことはない。
彼にとってのマデリンは、おそらく恋愛の対象ではなく支配の対象だったのだろう。
「奇遇ね。私もあなたを探していたの」
「へえ……。嬉しいな」
ルイードは手にしていたワインを飲み干した。そして、マデリンのグラスを奪い取ると、一気に飲み干す。
「出会いの記念に踊ろう」
「いいわ」
ルイードはマデリンの腰を抱く。
彼の手をはね除けたい気持ちをグッと堪える。
(最悪だわ)
気分がいいものではない。
狩猟大会で引き金を引いたあの日、もう二度とこの手を触れることはないと思っていたのだ。
マデリンはグッとこらえてルイードに笑みを浮かべる。
幸い顔の三分の二は仮面で隠れているから、口角さえ上げればよかった。
こんなに近づいても、ルイードはマデリンに気づかない。
いつもとは違う化粧だからか。
髪色が違うからか。
いいや、そもそも彼はマデリンに興味などないのだ。
執着しているのは、マデリンが結婚相手に一番都合がいいのだろう。
しかし、今はそれに助けられた。
ルイードがめざとい男であったならば、ここまで近づくことはできなかっただろう。
ルイードはマデリンの腰を引き寄せながら、言った。
「見かけない顔だ。仮面舞踏会は初めて?」
かかる息にマデリンは眉根を寄せる。
仮面が隠してくれなかったら、不機嫌な表情が丸見えだっただろう。
「あなたは慣れていそうね」
「どうだろうか?」
ルイードは薄く笑った。
会話を楽しむつもりはない。しかし、この様子だと彼はゆっくりマデリンを口説くつもりなのだろう。
そういう雰囲気を感じ、辟易した。
どうして世の女性たちはこんな男に靡くのか。
やはり、公爵夫人という席はそれほどまでに魅力的ということだろうか。
うんざりとした気持ちを飲み込み、マデリンは口角を上げる。
「あら? こういう場所がお好きなのに、誤魔化すのね」
「へえ……。僕のことを知っているような口ぶりだ」
「もちろんよ。いつも違う女性をこうやって口説いているじゃない」
マデリンはルイードの胸に手を置きながら、笑みを浮かべた。
彼は目を見開いたあと、目を細める。
五年間、マデリンがこの様子を何回見ていると思っているのだろうか。
どうやら、嫌いなものというのはすぐに目につく性質を持つらしい。
彼はどこにいても自然と目に入った。
女性の腰を抱き、まるで恋人同士のような距離で会話を楽しむ姿を。
ダンスを踊り、そのまま個室に誘う後ろ姿を。
それを見届けて、マデリンはいつも帰路についていた。
「知らなかったな。そんなに僕を見ている女性がまだいたなんて。しかも、こんなに美人に」
「あなたはいつも女性が周りにいて、声がかけられなかったの」
「君みたいな美人なら、いつでも大歓迎なのに」
「あら? 婚約者さんがいる人の言葉とは思えないわ」
「結婚は結婚。恋愛は恋愛だ」
ターンをしながらマデリンは笑う。
こんな男と五年間も婚約を続けていたことが恥ずかしい。
マデリンは両腕をルイードに絡ませながら、口角を上げた。
「でも、今の婚約者さんは嫉妬深そうだわ」
マデリンの言葉にルイードの頬がわずかに引きつった。
「お茶会でもいつも女王様気分。目をつけられたら、何をされるかわかったものではないって、みんな言っているわ」
先日、ハンナから聞いた話だ。みんな辟易していると。
「それなら安心するといい。あともう少しでもとに戻る」
「もとに? どうやって?」
心臓が早歩きになった。
「いずれ婚約破棄になるだろう」
「そんな簡単に婚約を破棄できるの? でまかせを言って私を口説くつもり?」
マデリンは慎重に言葉を選ぶ。
あまり食いついても怪しまれるだろう。
「簡単さ。あの女頭が弱いからな」
ルイードは嬉しそうに笑った。
首が赤い。酔っているようだ。ダンスの前に一気に飲んだワインが効いているのだろう。
マデリンの分も飲んだ上にダンスをしている。
(もっと口が軽くなってくれると助かるんだけど……)
どうやって婚約破棄に持ち込むつもりなのか。そこが重要だ。
そして、彼は「もとに戻る」と言っていた。
つまり、それはマデリンのことを示しているのだろう。
「でも、もとには戻らないわ。だって、あなたの元婚約者さんはもう別の男がいるじゃない」
マデリンの言葉にルイードはにやりと笑った。
「そんなの簡単だ。全部、もとに戻る」
ルイードがマデリンの腰を強く抱き寄せた。
アルコールを含んだ熱い息がかかる。
マデリンは思わず眉根を寄せた。
(これ以上は無理ね)
マデリンは小さくため息をつく。
そして、ルイードを見上げた。
「適当なこと言って、私を弄ぶ気でしょう? 目をつけられるのはごめんだわ」
マデリンはルイードの腕から逃れると、ダンスホールを抜け出す。
「君っ!」
ルイードが後ろから追って来た。
酔っているせいか、足はおぼつかない。しかし、彼は執拗だった。
(もうっ! さっさと諦めなさいよ!)
この会場の半分は女性だ。マデリンでなくてもいいだろう。
マデリンは人のあいだを縫って逃げた。
それでも追いかけてくるルイードに、マデリンはうんざりとした気持ちになる。
あまり騒ぎにはなりたくない。
しかし、庭園に逃げ出した途端、腕を引かれた。
「キャッ!」
マデリンは突然のことに声を上げた。
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