短い夏は繰り返す

双葉紫明

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手記

第6話

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 春はそれから「勉強」と称して、毎回僕らのリハーサルに顔を出した。
 僕らは自分たちの練習の合間に春の曲を2曲練習し、録音した。
 僕がリズムギターを受け持つと、春は拙いリードギターを披露したが、それもセンスの塊の様だった。

 その音源はメンバー集めに一役買い、ドラマー以外はすぐに集まった。
 彼女はメンバーの技量に寛容だった為、彼女の曲を気に入ってくれさえすれば、それで良かった。

 ドラマーは僕が務める事にし、2バンドでの共同企画ライブに向け練習を開始する段階になり、僕と彼女は彼女の住む板橋区と横浜を土日をまたいで行き来し、自ずとふたりで過ごす時間が増えた。

 僕は彼女の才能に心酔していたし、彼女も次第に女性ベーシストより僕に懐いていた。

 土曜の夜に横浜で練習し、日曜には池袋。
 春は横須賀の女性ベーシストの家で寝泊まりしていた。
 僕は横浜に住んでいたから、日曜は横浜駅で待ち合わせ、彼女を拾って車で池袋へ。
 恋心が芽生えるのに時間は掛からなかったが、僕は彼女がバンドを始めた動機が気になっていた。

 ある練習明けの深夜、僕の車と彼女の自転車が停めてある上板橋駅から、彼女の家まで彼女の自転車を押して歩いた別れ際、僕は彼女にキスした。

「ごめん!」

 と、ゆっくり上って来た坂を走って下った。

 明くる週は、土曜に池袋。
 気まずかった。
 練習を終え、近付く初企画ライブに向けファミレスで喧々諤々、その間も目を合せられなかった。
 深夜から横浜に向かう車中、気まずい無言がしばらく続いたあと、春が口を開いた。

「海が見たいな」

 夜明け前の晴海埠頭。
 なんだか通り道じゃいけない気がした。
 車を降りると、春はアスファルトに構わず横たわった。

「眠たいね、はるくんも横になったら?気持ち良いよ。」

 僕は彼女の横に寝そべった。

「治と春、ずっと気になってたの。わたしだけ、オサムって呼んで良いかな?他の人と、同じは嫌」

 察すると同時に、怖かった。
 嬉しいよりも。
 彼女は春。
 本当のハルだった。
 彼女の前で、「仲島治」は、ごく平凡な「ナカジマオサム」だった。
 抗う術は見つからなかった。

 良く晴れた夜明けを映す事もなく、二人は見つめ合い、そして終わらない様な長いキスをした。
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