61 / 104
十二月・浮かれきった年の瀬に
12/6(土) 年賀状を書こう
しおりを挟む
携帯電話の液晶はおやつどきを指している。吸血鬼は目が覚めてしまったので、それから携帯電話が腹をすかしているので、押し入れの戸を開けることにした。
狩人はおろしたての筆ペンやら赤いペンやら家にある限りの文房具を広げ、年賀状を書いていた。プリンターなどと洒落たものは無いのですべて手描きである。さっき年賀状について思い出し、思い出したついでに年賀状を送る人の宛名をリストに書き出したのが昼頃。それから買い物に行くついでに年賀状を買い、今ようやく書き始める所だった。
「おはよう」
「何書いてんの?」
「年賀状だよ。これがお正月に届くんだよ。まだ投函は出来ないけど」
一袋二十枚入りの葉書を見せる。左上に可愛らしい馬の図案と来年の西暦、年賀と赤く印刷されている。一般的な年賀用はがきである。吸血鬼はビニールの包装をびりびり汚く破く。
「君も書く?」
「人類の業だな。そのせいで正月休みをなくす奴が絶えない。書く相手なら居たかもしれないが、夏に死んだ」
吸血鬼が知った名前半分知らない名前半分の短い宛先リストの下に、今回の年賀状の図案らしい写実的な馬を描いている。うまいもんだ、洒落じゃなく。案外絵が上手いらしい。こいつに自分の自画像を描かせようか、と吸血鬼はふと考えて、前に断られたことを思い出す。
来年は丙午だという。何か縁起が悪いとか言う話を聞いたことがあるが、具体的に何に対して縁起が悪いのかまではわからない。ただ子供を産むなら来年がいいだろう、と吸血鬼は考えていた。自分の子どもであるなら、縁起が悪い年に生まれるべきだ。相手はいないけれど。
「ここの左下のところ、君の名前も並べて書きたいんだけど、どう?」
「嫌だ」
考える間もなく吸血鬼は言う。とりあえず怪しげな誘いは断っておくのが常道だ。質問の意味を考えるのはそれからでいい。少し考えてから譲歩案を出す。
「いいや……俺が知ってるやつなら並べて書いてもいい」
「じゃあ名前書いてもいいところにチェック付けといて」
こいつが俺の名前をどう名前を書くのか見ものだ。最初に名乗ったダスクという名前か、自分で付けたシャンジュという名前か。カタカナで書くのか、ひらがなで書くのか。それとも適当な当て字をするか。どれでも文句を言う筋合いはない。
狩人の頭の中で今年の年賀状の図案は決まったらしい。リストを横に置き、宛名書きはいきなりボールペンで書きはじめる。豪気なことだ。
「おい。なんで字を下げる?」
「君苗字名乗らないだろ」
狩人は自分の名前の隣に『シャンジュ』とカタカナで書いた。それはいい。
「俺の苗字が暁みてえじゃねえか」
「君が苗字を名乗らないから。普段ダスクって名乗ることあった?」
「ないな」
文句を言ったはいいものの、代替案は無かった。吸血鬼は何かにつけて文句を言いたいだけだった。だからケッとだけ唾を吐くように不満を漏らした。
「好きにしろよ。一つ屋根の下暮らしてるんだ、家族みたいなもんだろ」
「そう言ってくれて助かる」
葉書の宛名書きを終えて、裏に馬の絵と共に一言「あけましておめでとうございます今年もよろしくお願いします」の他に何か書くかと吸血鬼に聞く。面倒くさいのでいいと言う。冷えた寝床でもう一度寝ようかと考える。
おやつ食べてから寝よう。冬の、しかも昼間なので吸血鬼はあまりまともに生きている気が無い。夜に起きたらまた違ったのだろうか。ゴキブリのように戸棚を漁る今となってはわからない。
冬はチョコレートを室温で置いておいても溶けない良い時期ではある。キャンディ包みの箱入りチョコレートを口に放り込んで、押し入れに戻る。
「寝る前に歯磨きなよ」
「もうちょいごろごろするから寝ない。おやすみ」
おやすみって言ってるじゃないか。狩人の批判を受け取り拒否して、吸血鬼は押し入れの戸を開けたままごろごろしていた。
狩人はおろしたての筆ペンやら赤いペンやら家にある限りの文房具を広げ、年賀状を書いていた。プリンターなどと洒落たものは無いのですべて手描きである。さっき年賀状について思い出し、思い出したついでに年賀状を送る人の宛名をリストに書き出したのが昼頃。それから買い物に行くついでに年賀状を買い、今ようやく書き始める所だった。
「おはよう」
「何書いてんの?」
「年賀状だよ。これがお正月に届くんだよ。まだ投函は出来ないけど」
一袋二十枚入りの葉書を見せる。左上に可愛らしい馬の図案と来年の西暦、年賀と赤く印刷されている。一般的な年賀用はがきである。吸血鬼はビニールの包装をびりびり汚く破く。
「君も書く?」
「人類の業だな。そのせいで正月休みをなくす奴が絶えない。書く相手なら居たかもしれないが、夏に死んだ」
吸血鬼が知った名前半分知らない名前半分の短い宛先リストの下に、今回の年賀状の図案らしい写実的な馬を描いている。うまいもんだ、洒落じゃなく。案外絵が上手いらしい。こいつに自分の自画像を描かせようか、と吸血鬼はふと考えて、前に断られたことを思い出す。
来年は丙午だという。何か縁起が悪いとか言う話を聞いたことがあるが、具体的に何に対して縁起が悪いのかまではわからない。ただ子供を産むなら来年がいいだろう、と吸血鬼は考えていた。自分の子どもであるなら、縁起が悪い年に生まれるべきだ。相手はいないけれど。
「ここの左下のところ、君の名前も並べて書きたいんだけど、どう?」
「嫌だ」
考える間もなく吸血鬼は言う。とりあえず怪しげな誘いは断っておくのが常道だ。質問の意味を考えるのはそれからでいい。少し考えてから譲歩案を出す。
「いいや……俺が知ってるやつなら並べて書いてもいい」
「じゃあ名前書いてもいいところにチェック付けといて」
こいつが俺の名前をどう名前を書くのか見ものだ。最初に名乗ったダスクという名前か、自分で付けたシャンジュという名前か。カタカナで書くのか、ひらがなで書くのか。それとも適当な当て字をするか。どれでも文句を言う筋合いはない。
狩人の頭の中で今年の年賀状の図案は決まったらしい。リストを横に置き、宛名書きはいきなりボールペンで書きはじめる。豪気なことだ。
「おい。なんで字を下げる?」
「君苗字名乗らないだろ」
狩人は自分の名前の隣に『シャンジュ』とカタカナで書いた。それはいい。
「俺の苗字が暁みてえじゃねえか」
「君が苗字を名乗らないから。普段ダスクって名乗ることあった?」
「ないな」
文句を言ったはいいものの、代替案は無かった。吸血鬼は何かにつけて文句を言いたいだけだった。だからケッとだけ唾を吐くように不満を漏らした。
「好きにしろよ。一つ屋根の下暮らしてるんだ、家族みたいなもんだろ」
「そう言ってくれて助かる」
葉書の宛名書きを終えて、裏に馬の絵と共に一言「あけましておめでとうございます今年もよろしくお願いします」の他に何か書くかと吸血鬼に聞く。面倒くさいのでいいと言う。冷えた寝床でもう一度寝ようかと考える。
おやつ食べてから寝よう。冬の、しかも昼間なので吸血鬼はあまりまともに生きている気が無い。夜に起きたらまた違ったのだろうか。ゴキブリのように戸棚を漁る今となってはわからない。
冬はチョコレートを室温で置いておいても溶けない良い時期ではある。キャンディ包みの箱入りチョコレートを口に放り込んで、押し入れに戻る。
「寝る前に歯磨きなよ」
「もうちょいごろごろするから寝ない。おやすみ」
おやすみって言ってるじゃないか。狩人の批判を受け取り拒否して、吸血鬼は押し入れの戸を開けたままごろごろしていた。
0
あなたにおすすめの小説
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる