吸血鬼狩人、宿敵と同居する

せいいち

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十二月・浮かれきった年の瀬に

12/6(土) 年賀状を書こう

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 携帯電話の液晶はおやつどきを指している。吸血鬼は目が覚めてしまったので、それから携帯電話が腹をすかしているので、押し入れの戸を開けることにした。
 狩人はおろしたての筆ペンやら赤いペンやら家にある限りの文房具を広げ、年賀状を書いていた。プリンターなどと洒落たものは無いのですべて手描きである。さっき年賀状について思い出し、思い出したついでに年賀状を送る人の宛名をリストに書き出したのが昼頃。それから買い物に行くついでに年賀状を買い、今ようやく書き始める所だった。
「おはよう」
「何書いてんの?」
「年賀状だよ。これがお正月に届くんだよ。まだ投函は出来ないけど」
 一袋二十枚入りの葉書を見せる。左上に可愛らしい馬の図案と来年の西暦、年賀と赤く印刷されている。一般的な年賀用はがきである。吸血鬼はビニールの包装をびりびり汚く破く。
「君も書く?」
「人類の業だな。そのせいで正月休みをなくす奴が絶えない。書く相手なら居たかもしれないが、夏に死んだ」
 吸血鬼が知った名前半分知らない名前半分の短い宛先リストの下に、今回の年賀状の図案らしい写実的な馬を描いている。うまいもんだ、洒落じゃなく。案外絵が上手いらしい。こいつに自分の自画像を描かせようか、と吸血鬼はふと考えて、前に断られたことを思い出す。
 来年は丙午だという。何か縁起が悪いとか言う話を聞いたことがあるが、具体的に何に対して縁起が悪いのかまではわからない。ただ子供を産むなら来年がいいだろう、と吸血鬼は考えていた。自分の子どもであるなら、縁起が悪い年に生まれるべきだ。相手はいないけれど。
「ここの左下のところ、君の名前も並べて書きたいんだけど、どう?」
「嫌だ」
 考える間もなく吸血鬼は言う。とりあえず怪しげな誘いは断っておくのが常道だ。質問の意味を考えるのはそれからでいい。少し考えてから譲歩案を出す。
「いいや……俺が知ってるやつなら並べて書いてもいい」
「じゃあ名前書いてもいいところにチェック付けといて」
 こいつが俺の名前をどう名前を書くのか見ものだ。最初に名乗ったダスクという名前か、自分で付けたシャンジュという名前か。カタカナで書くのか、ひらがなで書くのか。それとも適当な当て字をするか。どれでも文句を言う筋合いはない。
 狩人の頭の中で今年の年賀状の図案は決まったらしい。リストを横に置き、宛名書きはいきなりボールペンで書きはじめる。豪気なことだ。
「おい。なんで字を下げる?」
「君苗字名乗らないだろ」
 狩人は自分の名前の隣に『シャンジュ』とカタカナで書いた。それはいい。
「俺の苗字が暁みてえじゃねえか」
「君が苗字を名乗らないから。普段ダスクって名乗ることあった?」
「ないな」
 文句を言ったはいいものの、代替案は無かった。吸血鬼は何かにつけて文句を言いたいだけだった。だからケッとだけ唾を吐くように不満を漏らした。
「好きにしろよ。一つ屋根の下暮らしてるんだ、家族みたいなもんだろ」
「そう言ってくれて助かる」
 葉書の宛名書きを終えて、裏に馬の絵と共に一言「あけましておめでとうございます今年もよろしくお願いします」の他に何か書くかと吸血鬼に聞く。面倒くさいのでいいと言う。冷えた寝床でもう一度寝ようかと考える。
 おやつ食べてから寝よう。冬の、しかも昼間なので吸血鬼はあまりまともに生きている気が無い。夜に起きたらまた違ったのだろうか。ゴキブリのように戸棚を漁る今となってはわからない。
 冬はチョコレートを室温で置いておいても溶けない良い時期ではある。キャンディ包みの箱入りチョコレートを口に放り込んで、押し入れに戻る。
「寝る前に歯磨きなよ」
「もうちょいごろごろするから寝ない。おやすみ」
 おやすみって言ってるじゃないか。狩人の批判を受け取り拒否して、吸血鬼は押し入れの戸を開けたままごろごろしていた。
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