ラーヴン ゴーム ビオニフテ──蜘蛛の島風声──

鹿紙路

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マルーンたち

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 風に押しひしがれたかたちのままの針葉の低木が、地を這うように広がる。小雨まじりのつよい風の日。つまり、この島のいつも通りの夏の一日、一行はロバに荷物を載せ、川沿いのなだらかな道を登っていた。先頭を歩くのは裸足のロスウェンで、イネスとナルギスが続き、スフィヤンとノエが後ろを歩く。商人の妹の少女は、発熱がすっかり治り、三つ編みを揺らして跳ねるように歩く。ファイアーズはハシンタと馬が合い、つわりに苦しむ彼女のそばにいることを申し出て、徒歩で長い距離を歩くことがむずかしい、ちいさなむすめたちと王城に残った。
 ロスウェンはきょうだいで何番目なの?
 ナルギスはクラベル語が流暢で、簡単なダムハン語もすぐに覚えた。
 五番めです。姉がふたり、兄がふたり。弟がひとり。みんなもう子どもがいるけど。
 ロスウェンは子どもはいるの?
 ロスウェンはほほえんだ。
 いいえ、いません。
 結婚は?
 していません。
 そうなの! まあ、あれだけレースがうまければ、結婚なんかする必要ないわ。
 彼女はロスウェンの織ったものを王城で見ていた。晩餐室にもあるし、ホール棟にも飾られている。
 ナルギス! あまりずけずけと物を訊くものではないよ。失礼だ。
 スフィヤンが後ろから聞きとがめて言う。
 はあい。
 少女は前を向いてすこし舌を出す。
 フィウンラグさまの襟のレースはすばらしかったわ。
 重ねてうっとりと言い、イネスは、彼女が王に対面したことはほとんどないはずなのに、めざといと思う。しかも、かれが日ごろ身につけるものはロスウェンが織ったレースであると見抜いている。
 金いろの巻き毛が映えて。
 夢みるような口調でささやく。おや、とイネスは思う。ロスウェンと目が合う。イネスもロスウェンも、王を彼女のような目で見たことがなく、新鮮だった。
 やがて川の源である湖に着く。ロッハンとはちいさな湖のことで、灰色の雲の垂れ込める谷間に、水面が鈍いろにさざめいている。湖の奥に、つやつや光る灰色の点がいくつかある。アザラシが夏の間やってきていて、岩の上に出て寝そべっているという。牧草地の向こうに、スレート石を積み上げた家々が見える。
 ロスウェン!
 糸紡ぎを持った羊番の子どもたちが、見つけて駆け寄ってくる。
 お客さんだ!
 そうよ、たいせつなお客さまなの。ウシーン村長に知らせて。
 ナルギスはヴェールをかぶり直し、一行は村長の家に挨拶に行き、交渉の結果、男性は大工アリステアとその妻マリーズの家に、女性はロスウェンの実家に寄宿することになった。
 集会所に料理を持ち寄り、その晩、歓迎会が開かれた。
 めったにない機会に、村人たちは晴れ着を着ている。女性たちはふわふわした細かな編み目のストールにレースの飾りのついたドレス、男性たちはぴしりと襞の整えられたキルト。
 ノエはマリーズの隣の席になった。
 おや、シェイマスの服だね。
 黒褐色のつやつやした肌に円かな目、髪は細かく編み込んであり、レースの幅広のヘアバンドを巻いている。眉がうすく、目のあたりがくぼんでいて表情の読み取りにくい彼女にじっと見つめられ、ノエは頬をうす赤くした。
 これを着ていけばよいと言われたので。
 無意識にセーターの裾を握りしめる。氏族の証であるキルトを着るのははばかられたので、立ち襟に編まれた刺繍入りのセーターを着ている。明らかにシェイマスの家の女たちの手になるものだとわかるのだろう。
 お城に上がってからもおおきくなったものだから、当てずっぽうで編んだんだよ。送ったあとに里帰りして測ったら、ちいさくなってて、お城のだれかにあげたのかと思ってたよ。
 自分の着ているものを編んだ張本人に言われ、ノエはどぎまぎした。
 お城でも、たまにだれでも参加できる舞踏会があるって聞いて、きれいなやつを編まなきゃと思ってね……。
 マリーズはさらにまじまじと見つめる。
 フィウさまは元気かね。
 え、ええ。
 まさか会えば怒鳴り合っているとは言えない。
 お妃さまとはうまくやっている?
 はあ。とても。
 途端、彼女はしろい歯を見せて笑った。顔がくしゃくしゃになり、瞳が潤む。
 それはよかった! あの子は頑固者だもんでね。心配しとったよ。
 ノエの緊張がほどけた。
 ええ、頑固者なのは変わりませんが。
 そうかね。ところでおまえさんはわたしらをまた奴隷船に積み込みに来たのかい?
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