ナンカヨウカイ~その怪異、ズバッと解決――安月給で雇われの妖怪(俺)たちがな!

スギヨシ ハチ

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第1章『折る』

第3話

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 逃げるように事務所を飛び出した、およそ一時間後。
 俺はワタルと並んで、プールサイドにぼんやりと座っていた。

 今回の仕事は、ここ『花咲プールアイランド』の監視員だ。

 プールといえば「長方形の水たまり」という俺の認識は、いつの間にか古臭いものへと変わっていたらしい。
 ドーナツ形のプールではぐるぐると水がめぐっているし、海みたいに波が立っているプールもある。おまけにジェットコースターよろしく、信じられない高さからうねうねと続く滑り台まである。

 そして何より一番驚いたのは、それらがすべて屋内にあることだった。
『真夏の強い日差しを遮ることができる』のがこのプールのウリなんだとか。

「だったら水遊びなんかしてないで、家で寝てりゃいいのになァ」
 俺がぼやくと、なぜか張り切っているワタルが渋い顔でこちらを睨む。
「ちょっと、まひるっち! ふてくされてないで、真面目に仕事してよね」
「べつにー、ふてくされてませんー」
「嘘じゃん! これでクーラー直るんだから、気を取り直してしっかり見張っててよ」
「分かってますぅ」
 冗談じゃねえ、文句のひとつも言いたくなるってもんだ。かといって、所長にケンカなんてふっかけたところで、百回やっても勝てねえだろうし……。

 どうしたもんかと考えあぐねている俺の横から、ワタルが顔を覗き込んでくる。

「ねえねえ、まひるっち」
「なんだよ、うっとおしい」
「所長ってさー、なんの妖怪だろうね。あんなに強くて怖いなんてさー」
「は? お前知らないの?」
 俺は思わず、素っ頓狂な声を上げて身を起こす。

「えー、なになに? まひるっち、知ってるの?」
「当然だろ! お前、正体も知らない相手に従ってるわけ?」
「えへへ。おれ、素直だからさ」
「そういうのは『馬鹿』って言うんだよ、覚えとけ。所長の正体はな、狐だよ――き、つ、ね!」
「へぇ、そうなんだ! 意外とカワイイじゃーん」

 は?
 可愛いわけねーだろ。
 ワタルの馬鹿さ加減に頭を抱えつつ、俺はため息を吐いた。

 狐の妖怪――妖狐といえば大妖怪だ。有名なのは九尾の狐。古くは王を惑わせ、国を滅ぼしたヤツまでいたらしい。
 所長に尻尾が何本あるかまでは俺も知らないが――少なくとも、猫やカッパが挑んでいい相手ではない。

 まあ、知らない方が幸せ、なんて事は、世の中にいくらでもあるモンだけど。
 それにしても……。

「やっぱ妙だよな。お前もそう思わねえ?」
「えー? なにがー?」
 ワタルはまったく何もわかっていない様子で首をかしげている。
「今ってさ、世間は夏休みだよな」
「そうだよー。小学生から大学生まで、絶賛夏休み中!」
「その割にココ、ずいぶん人が少なくねえか?」
「えー……あれ? ホントだ。この時期は毎年いっぱいのはずなんだけど、なんでだろ?」

 俺は目を細め、口を開く。
「……なあ、所長から聞いてる依頼って、タダの監視員のバイトなのか?」
「うん。それ以外は何も聞いてないよ」
「やっぱ変だよな、あの所長がラクな仕事なんか回してくるわけねーし……この依頼、なんか裏があるんじゃね?」
「えー、気にしすぎだよぉー。人少ないほうがヒマでいいじゃん!」
「そもそも、何で俺がこんな所につき合わされなきゃなんないわけ?」
「はいはい、文句言ってないで仕事仕事!」
「仕事って、何するんだよ」
「えーっと……プールを監視するんだよ! で、足がつって溺れてる人がいたら助けるの!」
「俺、泳げねーんだけど?」
「……えっ?」
「えっ、じゃねーよ。猫なんだから泳げるわけねーだろ」

 ワタルは無言で顔を背けた。
 が、しっかり肩がぷるぷると震えている。

「……おいテメエ、笑ってんじゃねーよ」
「だ、だって……! まさかまひるっちが泳げないなんて思ってなくて……っ、ぷくくっ! あははッ! あっ、痛い痛い! 暴力反対!」
「黙れクソ河童!」
「まあまあ、心配しなさんな。この溝淵ワタルがいる限り、水辺の平和は約束されたようなものなんだから!」
 笑いすぎて涙を浮かべながらも、ワタルは得意げに薄い胸を叩く。
「そうかい、そいつは凄いな。それじゃあ、俺はここに座っててやるから、お前はしっかり働けよ」
「OK! まかせといて!」
 何やらやる気を出したらしいワタルは、意気揚々と歩き出した。

 やれやれ、何事も起こらなきゃいいけどな……。
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