ないと思うけれど

古部 鈴

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ないわよね?

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     ◇
 私はリーラリアに取り憑いているというのかな? よくわからない状態だけれど、彼女の中にいる。    

 転生者なのかもだけど、うすぼんやりした記憶と意識があるだけの希薄な存在。


 人間として生きていた頃があっただろうけれど、もう元の名前すらよく覚えていない。


 どうしてこうなったかとかよくわからない。
 でも、気がつくとリーラリアの中にいた。

 彼女が幼い時から見守ってきた。まぁ中にいる訳だから自動的に見ていることになったのだけれど。
 私自身はリーラリアが物心つくまで、もっとぼんやりしていた気もする。

 彼女の中をまどろむように、意識がたゆたっていたのだけれど、ふと、ここになんか既視感があって、なんだかなんだろうなと思っていた。

 そしてこれ、もしかして生きていた時やったことのあるゲームの名前なんだったかな? なものじゃないかなって気がついた。

 ゲーム世界に転生とかそういうお話も読んだことはあったような気はするけれど、まさか自分がとは思わなかった。しかも、詰んでいる役だし。


 ――悪役令嬢のリーラリア・ラカルナ。
 ヒロインに被害を与えたと婚約者に断罪される役柄だった。

 
 ざっと見る限り――ごめん、実際さ、これただの浮気男よね? いや、まぁ姿は確かに顔とかも端麗ですらっとした貴公子然とはしていたけれど、でもあのスチルはギルティだと思うのよね。

 どう見ても婚約者いるのに、婚約中にもかかわらず別の令嬢を懸想している様子にしか見えなかったし。
 まぁしているのだけれどね。物語としてね。知ってるけど。

 ヒロインは、ヒロインだからタラシたおしだしね。他にも男性に勿論想いを寄せられている。怖いくらいに。

 これゲーム、だからいいかもだけれど、現実だと事件起こりそうな世界広がらないかな? 女性の嫉妬も怖いだろうけど、男性も中々みたいだし。

 さばききれるの? とも思うし。勝手に思い詰められて、惨事とか普通にありえないのかなって。

 想いつめた人間怖いと思うのよね。人の想いの重みも怖いし。好きな人に思われるのは嬉しいもの。好感持たれるのはいいけれど、でもこの想い、そういうレベルじゃないし。まぁ人それぞれだろうけど、私は怖い。

 寄せられた想いを気にせず、無意識にうまく操るとか最早どうなっているの? 意識的にとかだとただの悪女よね?

 女怖いの世界が広がるし。
 
 私には無理って逃げるわ。そんなヒロインの中に入っていたらと想像するだけでも、がくぶるふるえる世界。
 怖いしかない。







 一方リーラリアはリーラリアで、私の記憶を夢に見たりしていたみたい。リンクが出来ていたのか、どうなっているかわからないけど、お話しが出来るようになった。

 傍目から見れば、独り言で怪しいかもだけど。


 リーラリアには助言というのかな? 話し合っていた。

 リーラリアは鏡に向かって、私に話しかけているけれど。半端ないナルシシストみたいにしかみえないかな? でも対象いる方が話しやすいらしくて。

 なんだったかな、本当こんなぼんやりした記憶じゃなくて、詳細な記憶であればよかったのに。

 リーラリアは元々悪役令嬢と呼ばれる役柄。
 でもゲームのリーラリアとは私という要素が加わったためか何か、全然変わってしまったけれど。
 まぁ変えたの私だろうね。

 リーラリアの縦ロール、悪くないのだけど、なんとなく悪役令嬢イコール縦巻きロール感するし、薄紫の髪を普通に背に流す方が似合うかなって思ったのよね。

 縦ロールも似合うのよ、勧めたい気持ちもわからなくもない。どんな髪型も似合うと思う。
 でも私はあえてそっちの方がいいよって推した。

 侍女達は縦巻きロールにしたそうだったけれど、これは物語の強制力かな。


 まぁリーラリア、自分が入っていていうのもなんだけど、美少女なのよね。鏡に向かって私に話しかけてくれていたのだけど、可愛い少女に可愛い綺麗な声で話しかけられて、テンションめちゃくちゃ上がってた。

 自分がその中に入っているのは残念案件かもと思うけど。
 
 
 パッケージ通りじゃないってのもありかなって。スチルの絵柄と違うのもあり。

 元々の性格も何故こうねじ曲がったかな? って曲がり具合だったけれど、それも私という話し相手がいたせいか、そんなふうに曲がらなかった。

 令嬢として厳しく躾けられているけれど、親達は子供放置だし。ものは与えてもね。ものはあたえるのよね。
 金は愛。イコール愛で。

 結果、愛情は金や物って思ってしまって。
 お金で買えるものみたいに思ってしまっているようなタイプにしたくなくて、ついぐいっと軌道修正かけたのよね。とかあれこれと。
 だからヒロインに嫌がらせとかも何もしていない。したいと思うような子にはさせなかった。

 私一応中の人なのよ。でも別の意識でもあるの。だから、私自身になるかもしれないけど、リーラリアをそういう方向へ行かないようにしたかった。むしろ愛でたおした。だって可愛いのよね。リーラリア。自己愛じゃないけれど、自己愛っぽいよね。




 
 
       ◇

 そして婚約者であるナサカリス・メイアノス様。その隣にはアメリサ・ラテイヤ様。
 本当なら断罪され、婚約破棄を言い渡されるはず……


 だったのだけれど――


 焦茶の髪で、深い緑の双眸の男性が私をというのかリーラリアを愛おしげに見つめている。
「リーラリア」
 声も表情も甘い。砂糖漬けに砂糖をまぶしてまたその上から砂糖をコーティングしてまだざらざらかけているように甘い。
 

 なんだかヒロインの周りに侍るスチルの時よりも甘々なかんじだけど。

「こんな美しい君の姿を、他の男に見せたくはないのだが…………」
 そう言いながら、周りを牽制するように辺りを睨み付ける。
「ああ、他の者達に見せることすらもったいない」
 苦悩しているが、残念臭が漂う。

 でもわからなくもない。そりゃそうよね。綺麗だし可愛いもの、リーラリア。

 そして今着ているドレスは深緑。ナサカリス様から送られてきたもの。独占欲しか見えないし。がんがん物を送ってくる。自分の送ったもので埋め尽くす勢い。埋めたいんじゃないかな? 
 

 そして、隣にはヒロイン――

 豊満な胸元が、蒼いドレスからなんていうのか、こぼれそうで見ているとハラハラしてしまうけれど、ドレスとして成立しているのだろうから大丈夫なのよね? とつい思うようなドレスを着ているアメリサ様。ピンクブロンドのゆるい巻き毛を纏めてある。明るい紫の瞳が私というかリーラリアを見て細められている。

 ヒロイン、なんかもっと清楚だった気がするのだけど、なんだろう? いや、まぁ似合うのは似合うけれど。

 自分の着ているドレスより、ぐぐっとあまりに開けているので、少し見ていて心配になった。

 きゅっとコルセットで締め上げているにしても細い腰。
 

 コルセット今自分もつけられているけれど、かなりつらいわね。コルセットの強制力というのか、こう体の肉の移動というのか、最早成形というのか、締める寄せるあげるで作られている体に重みのあるドレスというのか。リーラリアかなりほっそりしているけれど。

 ふっと気絶してしまう女性が多いことは仕方ないのじゃないかと思う。これでダンスを踊る訳だものね。


 令嬢って凄いと思う。私も令嬢の中にいるのだから令嬢かもだけど。

 





 物思いにふけっていると、軽やかな足取りでヒロイン様がそばに近づいてきていた。
「リーラリア様」
 結局なかよくなっちゃったのよね。ヒロインと。
 
 その行手をすっと阻む影。

 もちろん、ナサカリス様だ。

「アメリサ嬢、リーラリアに近づきすぎないように」
 ヒロインを睨むナサカリス様。
 私は内心頭を抱えてみている。

 おかしいことに、傍目から見ていると三角関係の一点になってしまったみたいなのね。

 アメリサ様、友情だと思うのだけれどな。ナサカリス様、全力すぎてね。女性でも寄り付きすぎるとこうなるのね。

 アメリサ様、それはそれで楽しんでいらっしゃるみたいだけど。


 物語の強制力でとか思わなくもなかったのだけど、違う意味の修羅場かな。




 これ見ながら、実はちょっと危機感抱いている。

 もし、リーラリアの中に私がいるって、ナサカリス様にばれたら、なんとなく怖い気がするのよね。

 一番近くにいる存在になるよね。私。リーラリアの中にいてリーラリアでありリーラリアではない私。

 女性であっても、牽制してくるお方だし、私をリーラリアと思うか異物と思うか……異物とみられたら、なんか怖い気するのよね。

 奪い合いは嫌だな。中から出ろって言われても困るし。

 強制退去とか言われても困るしね。どう退去するのかな? 
 なんだか言われそうで怖くて。


 ないよね? ないと思いたいけれど……

          end
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