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4 記憶
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◇
意識が途切れ途切れとなる。記憶が塗り潰されていく。私の記憶が、私自身の想いが、私の中に入り込んでくる何かに侵食されていく。
力強く、私の中を私以外の何かが流し込まれる。私の私自身には用もないように――
愛しい人はこの私に今縋り付く美しいサリメリアであると。私の希う女性はサリメリアひとりであると。私の中に侵入し私を別のものへ変化させようとする。
私の心はそれを必死で拒んでいた。私の愛しい人は別にいると。それが今私の押し流されそうになる記憶の中のその姿をと追い求めるが、逆により流されそうになりながらも、愛しい人を求めていた。
名すら、私の中から無理矢理消し去られて。思い出そうとしても思い出せない。
ただただ愛しい人はいたはずだと、だがそれがサリメリアに書き換えられて。塗り潰されていく。私というものが。存在が。
白く細い指が私の顔に添えられ、覗き込まれる。亜麻色の柔らかそうな髪、ひたむきに見つめる緑の瞳が美しく煌き、そしてそっと目を伏せ閉じ、私を待っている。
この人が私の最愛、だろうか? 本当にこの女性だろうか?
愛おしいと私が感じる何か以外に必死に抵抗し拒む意識がある――――
私が本当に私が愛しいと思い、守り愛しみたいと思っていた人はこの女性だっただろうか?
思わず自らの胸を押さえると不思議に何かが違う気がした。
そっとサリメリアから身を離そうとすると、彼女は私を抱きしめようとする。
やっと会えた愛しい人のはずなのに――
「……」
声が聞こえた気がした。
だが遠い。あまりにも遠い気がした。誰の声だかわからない、だがその悲痛な声は私の心に刺さった気がした。どうにかしてやりたいと。そんな声を思いをさせたくないと。
「…………兄様!」
昔のように呼ぶ声。昔とは? 私の昔に兄と呼ぶ者がいただろうか?
「ハリヤード兄様!」
名を呼ぶ声。ハリヤード? 私の名は――頭が痛い。私はカルサバルトのはず?
「ハリヤード様」
女性の声も聞こえる。綺麗な声だ。いつまでも聞いていたくなるような、胸に残る声。
ふたりの声に、そんな悲痛な声を上げさせたくはない気がした。
それは何故だろうか? 私は私の名は――
私の体を捕まえて引き寄せ、幼い昔のように兄様と私を呼ぶ声。
目を開くと蒼い双眸に涙が滲んでいる。
そっと、その頬に指を伸ばす。
そしてもうひとり。泣いてしまっている女性に泣かないでと声にならない声にしかならないが、そう口を開く。
エルリアと……
私はそのまま意識を失った——
意識が途切れ途切れとなる。記憶が塗り潰されていく。私の記憶が、私自身の想いが、私の中に入り込んでくる何かに侵食されていく。
力強く、私の中を私以外の何かが流し込まれる。私の私自身には用もないように――
愛しい人はこの私に今縋り付く美しいサリメリアであると。私の希う女性はサリメリアひとりであると。私の中に侵入し私を別のものへ変化させようとする。
私の心はそれを必死で拒んでいた。私の愛しい人は別にいると。それが今私の押し流されそうになる記憶の中のその姿をと追い求めるが、逆により流されそうになりながらも、愛しい人を求めていた。
名すら、私の中から無理矢理消し去られて。思い出そうとしても思い出せない。
ただただ愛しい人はいたはずだと、だがそれがサリメリアに書き換えられて。塗り潰されていく。私というものが。存在が。
白く細い指が私の顔に添えられ、覗き込まれる。亜麻色の柔らかそうな髪、ひたむきに見つめる緑の瞳が美しく煌き、そしてそっと目を伏せ閉じ、私を待っている。
この人が私の最愛、だろうか? 本当にこの女性だろうか?
愛おしいと私が感じる何か以外に必死に抵抗し拒む意識がある――――
私が本当に私が愛しいと思い、守り愛しみたいと思っていた人はこの女性だっただろうか?
思わず自らの胸を押さえると不思議に何かが違う気がした。
そっとサリメリアから身を離そうとすると、彼女は私を抱きしめようとする。
やっと会えた愛しい人のはずなのに――
「……」
声が聞こえた気がした。
だが遠い。あまりにも遠い気がした。誰の声だかわからない、だがその悲痛な声は私の心に刺さった気がした。どうにかしてやりたいと。そんな声を思いをさせたくないと。
「…………兄様!」
昔のように呼ぶ声。昔とは? 私の昔に兄と呼ぶ者がいただろうか?
「ハリヤード兄様!」
名を呼ぶ声。ハリヤード? 私の名は――頭が痛い。私はカルサバルトのはず?
「ハリヤード様」
女性の声も聞こえる。綺麗な声だ。いつまでも聞いていたくなるような、胸に残る声。
ふたりの声に、そんな悲痛な声を上げさせたくはない気がした。
それは何故だろうか? 私は私の名は――
私の体を捕まえて引き寄せ、幼い昔のように兄様と私を呼ぶ声。
目を開くと蒼い双眸に涙が滲んでいる。
そっと、その頬に指を伸ばす。
そしてもうひとり。泣いてしまっている女性に泣かないでと声にならない声にしかならないが、そう口を開く。
エルリアと……
私はそのまま意識を失った——
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