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あなたのことだけ

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     ◆
 庭園の片隅、ラフィラス様は私のことを気遣ってくれるお言葉をかけて下さいました。 


「……君が、絡まれているのが…………見えたから」

 小鳥達がさえずる声の賑やかな、緑の庭園の中、言葉を選びながらゆっくりとお話して下さいます。

 つい、そのお声、お言葉に、私は頬を赤らめ、うっとりラフィラス様を見つめてしまいました。

 ああ、そよ風がラフィラス様の灰色の髪を揺らしています。

 聡明な灰色の瞳の素敵なこと。無駄にきらきらしていないですし、私は大好きです。
 あまり外出しないからか、青白いくらい白い肌。制服の中でおよぐ細い体躯。
 背丈も私より少し高いくらいで、威圧感もありません。


 
「気にかけてくださりありがとうございます」
 嬉しくて仕方ないです。

 心からの笑みがこぼれてしまいます。
 気持ちが急に上昇しすぎて、嬉しいのに、涙もこぼれそうになりますがこらえます。

「……大丈夫? あ、マイレシル公爵令嬢は、すぐにいらっしゃったかい?」
「いらっしゃいました」
「もっと早くに出来ていれば……」

 もしかして、まさか、ラフィラス様が? 嬉しすぎます。

 舞い上がって降りてこれません。

「ありがとうございます。ラフィラス様」
「いや……何も、出来ていないから……」

 ラフィラス様が私のことを考えてくださることが既に喜ばしいというのに、助けてくださったなんて……。

 天にも昇ってしまいそうです。

 素敵なラフィラス様、優しいラフィラス様。いつもひいていらっしゃるというのに、何かの時にはそっと手を差し伸べて下さるラフィラス様──



 少し頬をゆるめ、優しげな表情で少し視線を、そらしがちにそれでもちらりと私を見つめて下さるラフィラス様。私が近づきすぎると、顔を赤らめてしまわれるラフィラス様。

 初めは小説の中で気になっていましたが、関わる間にどんどんもっとラフィラス様のことが好きになっていました。

 魔法に夢中になっているラフィラス様。置いてけぼりになっていることにふっと気づいて、向き直り、わかりにくいところなどを説明して下さるラフィラス様。
 

 好きな方の一番の興味。私もお話についていけるように、魔法も極めていきたいのです。

 ヒロインに魔法の素質があってよかったです。



 私は、ラフィラス様そのものが好きです。仕草や表情。お声。そのお心、存在自体が尊いのです。





 そんなふうに、ラフィラス様と共に過ごす幸せな時を過ごしてのですが──


「なんと美しくも可憐な……」
 どこから現れたのか、現れたるは、きらきらの銀と蒼の貴公子。

 ──もう許して下さい。またですか?

 すっと、跪かれ見上げられます。


 ラフィラス様ならいいですのに。

 近くにいらっしゃるラフィラス様も面食らった表情ですが、そんなお顔も素敵です。

「私は、レストラ家長子、セライハルと申します。美しい人…………」
 
 色々おっしゃっておられますが、私の中ではラフィラス様との素敵な時間が、台無しにされていることの方が重要です。
 ラフィラス様のことだけが気になります。


 もう、なんでこうなのでしょうか? 

 好きな人がいるのです。求愛されても困りますのに……。

 ──好きな方がいるのに、他の方を好きになる訳ないじゃないですか。




          end



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