隠しておくしかないよね

古部 鈴

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どう話していいのだろう

      ◇

 内装も外装も立派なかんじの馬車に乗せられた。馬車なんて初めてだ。どうするのかわからなかったけれど、そばにいた男性がさらっと手をひいてくれた。

 どこに連れて行かれるのだろう? 

 窓の外を流れる景色は、ビルとか見慣れたものがない。見たことのない長閑なそれでいて時代を感じさせる街並み。

 アスファルトなんてものはなくて、道は土か石畳みたいで音がするし、揺れるし、隣には綺麗な先程の男性もいるし、落ち着かない。

 それに──記憶がないと告白したほうがいいのかな。そのまま流していていいかといえば、確実に困るだろう未来がこのままだと待っている。
 貴族令嬢なんて無理だ。体には染み付いていたとしても、中身が私なのだからどうにもならない。

「あ、あの」
 思い切って声をかけると、その人は優しく微笑みを浮かべて話しかけてくれた。
「レフィリア、心配しなくていい。両親には私から話をしておくから、何も気にしなくていい」

「あ、ありがとうございます」
 とても言いにくい。あなたは誰ですかってたずねるのって。でも聞いてみるしかない。このまま知らないままずるずるいくと、より聞きにくくなるだろう。

 一拍おいて、私は言葉を重ねた。

「あの……失礼ですが、あなたは私の身内でしょうか? 記憶がなくて……どなたなのかわからないのです」
 私の言葉に驚く顔も美麗で美形凄いなと心底思った。






「レフィリア、私はクリフォード・リスティス。レフィリアの義理の兄だ」
 よくわからないが、義理の兄らしい。身内なのだろうと推測してはいたが、義兄とは思っていなかった。

「何もわからないのかい?」
 とても心配そうに見つめる眼差しに私は罪悪感を抱いた。記憶がないどころか、中身が違いますとか言える訳もない。言われても受け止められるとは思えない。妄言と思われるだろう。

「全くわからないのです」
 ある意味嘘は言っていない。話していないことがあるだけだ。

「先程のシアソン・サカラス侯爵令息のことはどうだ?」
 ああ、あの浮気男? とは言わない方がいいだろう。
「見ず知らずの方にしか思えませんでした」

 ふぅと息を吐くクリフォード。

 義理の妹がこれだとびっくりするし、困ってしまうよね。こちらもどうしていいのかわからない。
 元のレフィリアがどう義兄に接していたのかもわからないし。
 どうしたものかと見上げていると、クリフォードは困ったような顔をしている。

 不安になり俯くと、
「大丈夫だ。レフィリア。大丈夫」
 そう言って軽く抱きしめられた。


 揺れる馬車の中、義兄らしい男性のぬくもり。もちろん赤面する。男性に満員電車とか以外でこんなに接近するなんて経験がなかったから。満員電車は近くにいるだけだし、全然違うけれど。

 いい香りがするし、あたたかい。なんだろう。びっくりもする。

 なんだろう? どきどきするのは確かだけれどね。中身私だから。

 多分私には兄はいなかったのだろうと思う。兄ってこんなかんじなのかな? 

 義理らしいけれど。距離感がよくわからない。


 私には見知らぬ男性だ。でも──
「レフィリア」
 体を離して、小さな子供のように優しく頭を撫でられる。優しくて、こそばゆい。
「大丈夫だ」
 その声が優しくてそのまま縋ってしまいたくなってしまう。心細くて、つい。そのまま撫でていて欲しいと思ってしまった。
「大丈夫だ。私がついている」

 なんだか涙がこぼれそうになった。堪えるけれど。恥ずかしいし、クリフォードのこの高級だろう黒いコートとか私の着ているドレスとか汚せないからね。

 ハンカチはと思い探していたら、白いハンカチが差し出された。
「ありがとうございます」
「気にしないでいい。つらかろう」
 

 やっぱり訳がわからないことを言われていたのも、こうしてわからないままなのも、これからどうしていいのかも、色々とかなり堪えていたのだろう。涙が止まらない。

 そんな私に大丈夫だというように背を軽く撫でていてくれるクリフォードの手が優しくて、より涙があふれて止められなかった。
 


     
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