ゴブリンしか召喚出来なくても最強になる方法 ~無能とののしられて追放された宮廷召喚士、ボクっ娘王女と二人きりの冒険者パーティーで無双する~

石矢天

文字の大きさ
33 / 45
第三章 一世一代の大博打

これはただの手付金だから

しおりを挟む

 夏が近づいている。
 昼に温められた地面が、漂う空気を熱する。
 夜になっても気温はやや高く、蒸し暑い。

「…………眠れない」

 決戦の時が近い、という緊張感に寝苦しさも加わりアリアは寝つけずにいた。
 ベッドから起き上がったアリアは、夜風に当たろうと部屋を出る。

 身に着けている生成色きなりいろの部屋着は、麻で出来た半袖のワンピースタイプ。
 こんな服装で外を出歩くなんて、王宮にいた頃には考えられない。

 しかし今は、アリアを見咎める者はいない。
 王女という肩書を失ったことで、新たに得たもののひとつだ。

「なんだか、自由って感じがするな」

 なんとも言えない開放感。
 少しだけ大人になった気分。
 出歩くのは建物の近くまでだけど。

 あまり遠くへ行って、またさらわれたら大変だ。
 ねっちり嫌味を言われるに違いない。
 主にアークから。

 月明かりと星明かりが、地面とアリアを照らす。
 生温かい風がアリアの身体を通り過ぎていった。
 心地よい、と評するには少々ベタつきが気になる。

「んーーーっ」

 アリアは湿った夜の空気を大きく肺に入れ、腕を上げて華奢な身体をグッと伸ばした。

「ん?」どこかから視線を感じる。
 辺りを見回してみるが、目につくところに人はいない。

(気のせい……かな?)

 首を傾げながら、視線を森の方へ向けると闇の中に光るものを見た。

(なにか、いる……)

 金色の光がふたつ。いや、もっとある。

 さすがにひとりで近づくわけにはいかない。
 アリアは目を凝らして、森の奥に広がる闇を視力で探った。

 一度気がついてしまえば、どんどん見えてくる。
 闇の中に無数に散らばる金色の光。

(もしかして……敵!?)

 ここは守護者が護る禁足地。
 外敵の侵入があれば、幾重にも張られた仕掛けが反応する。
 あの金色の光が侵入者であれば、当然見張りが気づくはず。
 これほど大量の敵が入り込むなど考えられない。

 考えられないが、戻って報告だけはしておこう。
 アリアはきびすを返し、森に背を向けて走った。


「むぷっ」

 走り出した瞬間、なにかにぶつかった。
 同時に鼻をくすぐる甘くスパイシーな香り。

 この匂いはよく知っている。
 ラキスがいつも吸っている葉巻の匂いだ。

「ラキス!?」
「アリアか。こんな時間になにをしている?」
「なにって……散歩?」
「ちゃんと寝ないと大きくならんぞ」
「なっ!!」

 アリアがとっさに胸を隠すと、ラキスは頭をポンとはたいた。

 あ……、そっちか。
 いや、そっちでも失礼なことに変わりはない。 
 アリアは頭に乗ったラキスの手を払いのける。

「子ども扱いするなっ!!」
「そういうセリフはもう少し大人らしくなってから言うんだな」

 出会ったときからずっと、重ね重ね失礼な男だ。
 これまでの付き合いで、ずいぶん慣れたけど――などと考えを巡らせ、それどころではなかったことを思い出す。

「いや、そんなことはどうでもいいんだ。ラキス! 森の中になにかがいる!!」

 アリアの訴えに「ほお」と返事をすると、ラキスはズカズカと森へ向かう。
 その様はあまりにも無遠慮。あまりにも無防備。

「ちょっ、ラキス。気をつけてよ。もしかしたら、大軍かもしれないんだ」

 さきほど見た金色の光を思い出し、ラキスの外套の裾を握って後についていく。

「せめて、せめて弓兵アーチャーくらい召喚してよぉ」

 アリアの声は届いているはずなのに、ラキスはすっかり無視をして歩みを進める。

 森の奥は闇に包まれている。
 ここまで来てはじめてラキスは「サモン」とつぶやいた。

 ホッと息を吐いたアリアの前に、ゴブリンの斥候スカウトが松明を持って現れた。
 暗いから斥候をぶのはわかるけれど、戦力としてはほとんどゼロに等しい。

「ラキスゥ……」

 不安で外套を掴む力が強くなってしまう。
 頭を地面の方へ向け、恐る恐る周囲に目を配る。

 斥候とともに森へ入って数メートル。
 ラキスがピタリと足を止めた。

「なにも、いないようだが?」
「へ?」

 そんなバカな、と思いつつ。
 アリアは顔を上げて周囲を見渡した。

「……あれ?」

 あれほどあった金色の光はどこへいったのか。
 どれほど目を凝らしてみても、光のかけらすら見つけることはできなかった。

「さ、さっきは本当に……」
「夢でも見たんだろう」
「夢? いやいや、寝つけなくて外に出たんだぞ」
「じゃあ幻か幽霊だ」

 それはそれで怖い。
 アリアの背筋にゾワゾワッと悪寒が走った。

 森を後にしたラキスが葉巻を取り出し、いつものように斥候が火を点ける。

「ふぅー」と吐き出された紫煙が、星の散らばる空へとふわふわと昇っていく。

「さあ、帰るぞ」
「……もう少し付き合ってよ。葉巻それ、吸い終わるまででいいから」

 いま戻ってもアリアは眠れそうにない。
 確かに見たはずの金色の光、あれは結局なんだったのか。

 正体を知ることは出来なくても、せめて心を落ち着かせたい。



 夜空の下、ふたりは地面に腰を下ろした。
 こうしているとラキスと初めて会った日のことを思い出す。

 焚き火もないし、白湯もないけれど。
 ラキスはあの日と同じく、葉巻をくわえていた。

「ラキスはどうしてボクを助けてくれるの?」
「お前が責任を取れと言ったんだろう。対価はお前のカラダ、違ったか?」
「違わない……けど」

 アリアはずっと気になっていた。
 はじまりはアリアが彼を巻き込んだから。

『対価はボクのカラダで払う』
『お前のカラダ? で手を打つ』

 そんなやりとりをしたのは確かだ。
 だけどきっと、いや確実に、ラキスはアリアの身体になど興味はない。

 アリアは男の子のような喋り方をしていても、華の十六歳乙女。

 異性からの目線の違いくらいはわかるつもりだ。
 ラキスがアリアを見る目は……家族を見る目とよく似ている。

 今まで一度だってアリアに手を出したことはない。それどころか、手を出す素振そぶりすら見せない。
 アリアはホッとすると同時に、情けなさも感じていた。

「ロゴールから救って貰った。ルシガーに捕まったときも助けてくれた。でも、ボクはまだ、なにも支払えてない」

 このままだと借りばかりがふくらんでいく。
 負い目ばかり背負うことになる。

 おずおずとラキスの顔を覗き込む。
 彼は「ふぅ」と煙を空へと吐き出した。

「後払いで構わん」
「それって、いつの話さ」
「そうだな……。お前次第じゃないか」

 ハッキリとは言わないが、これは「女としての魅力が無い」と言われているのと同じだ。

「……ムカつく」
「そうか」

 どうしてこうなってしまうのだろう。
 なぜこんなことでイライラしているのだろう。

 アリアはラキスに子ども扱いされると、いつも胸がキュッと苦しくなる。

「ムカつく!!」

 アリアは一際大きな声で悪態をつき、ラキスの胸元を掴んで顔を引き寄せた。

 唇が重なる。
 大人のキスというには程遠い、触れるか触れないかというギリギリの口づけ。
 それでも、ラキスが吸っていた葉巻の香りを唇越しに感じた。

 どれくらいの間、そうしていたのだろう。
 ものすごく長い時間だったようでもあり、一瞬のようでもあった。

 アリアは両手で押し出すように、ドンッとラキスの肩を突き飛ばして立ち上がる。

「こ、これは。手付金てつけきん、ただの手付金だからっ。さ、最後まで、ちゃんと責任もって仕事しろよな!」

 それだけ言い残して、アリアは部屋へと走った。
 残されたラキスがどんな顔をしていたのか、アリアは見る勇気は無かった。

 その夜、結局アリアが朝まで眠れなかったことは言うまでもない。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

「お前は用済みだ」役立たずの【地図製作者】と追放されたので、覚醒したチートスキルで最高の仲間と伝説のパーティーを結成することにした

黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――役立たずの【地図製作者(マッパー)】として所属パーティーから無一文で追放された青年、レイン。死を覚悟した未開の地で、彼のスキルは【絶対領域把握(ワールド・マッピング)】へと覚醒する。 地形、魔物、隠された宝、そのすべてを瞬時に地図化し好きな場所へ転移する。それは世界そのものを掌に収めるに等しいチートスキルだった。 魔力制御が苦手な銀髪のエルフ美少女、誇りを失った獣人の凄腕鍛冶師。才能を活かせずにいた仲間たちと出会った時、レインの地図は彼らの未来を照らし出す最強のコンパスとなる。 これは、役立たずと罵られた一人の青年が最高の仲間と共に自らの居場所を見つけ、やがて伝説へと成り上がっていく冒険譚。 「さて、どこへ行こうか。俺たちの地図は、まだ真っ白だ」

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

処理中です...