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第16話 「精霊女王セレス」
「改めまして、エレナちゃん。私は精霊女王セレス、まぁあなたが私なんだけどね。そう言っても実感わかないわよね?」
もちろんわくわけはなかった。だいぶ性格も口調も違うし...こんなにはっきりものが言えたら、もっと苦労しなくて済んだろうに、などと場違いなことを考えてしまう。
「あの...あなたはもう...その、なんていうか」
言い淀む私に、セレスの声はおかしそうに答えた。
「言ったじゃん。バリバリ死んでる。じゃあ、この声は何なのかって感じよね?これは私の魂の要素を、精霊の力で一時的に再構築しているにすぎない。よーするにコダマみたいなもんよ」
「な、なるほど...で、私はいったいどうしたら?」
「うーん真面目でよろしい。さすが私...いや、時間がないんだった。まずはあなたに王国の守護結界を貼り直して欲しいの。隣の精霊王といっしょにね。久しぶりね、アキュラ...といっても、あなたは覚えていないでしょうけれど」
「うん、すまないが...」
「いいのよ、遠い遠いはるか昔のことだから...」
そう答えたアキュラに、セレスの声は少しだけ寂しさのようなものを滲ませたような気がした。
ひょっとしたら、いや、たぶん記憶を失う前のアキュラとは面識があるのだろう。
「さっそくだけど術式を伝えるわ。あなたの意識に直接流れ込むはず...その根本は、私の魂に刻まれている。つまり、あなたの魂にもね」
その言葉が終わらないうちに、意識の中へ情報の奔流が流れ込んでくるような感覚があった。
「これは...っ」
肉体的な痛みがあるわけではないが、脳を直接揺さぶられるような、かつてない感覚に私は動揺する。
意識と情報の境目が融解していき、自身の魂を上書きされるような感覚とでも言えばいいのだろうか。
だが、不思議と恐怖はなかった。ただどこか懐かしい、そんな気がした。
「ごめんね...ほんとうは、話したいこと、伝えたいことがたくさんある。でももう時間がない。術式は王国の要衝、東西南北の4箇所すべてに展開して完成する。北はここニヴェルガルド...残り3箇所は、北方同様それぞれ古来から守護の騎士団が置かれているはずよ」
「なるほど、東西南北に騎士団が配置されているのはそういうことだったのか...」
カイルが納得したように頷いた。
「おっとそこのイケてる青年!そう、何をキョロキョロしてんの。あんたよあんた」
カイルがびっくりしてセレスの像の方を見る。
「その子をしっかり守りなさい。王国の興廃はその娘にかかってるんだから」
「わ、わかりました」
「それにねぇ...超いい女になると思うから、手放すんじゃないわよ」
「なっ、私はそういうつもりでは...」
「いやー、どこの誰かは知らないけれど、俺もそう思うぜ?」
当惑するカイルの肩をポンポンと叩きながら、エリックが割って入った。
「話はわかったぜ、セレスさんとやら。俺たちがばっちりこの娘を守るから安心してくれ。いい女を守るのは、男の甲斐性ってやつだ」
「あら、話がわかるじゃない。...っと、本当に時間がないわ。おしゃべりはここまでのようね。アキュラ、エレナを頼んだわよ。そしてエレナ...この先きっと辛いこともあるでしょう。でもあなたならきっと乗り越えられる。私にできるのはここまでだから、あとはあなたが切り開いていってね」
勝ち気そうだったセレスの声が、最後だけはひどく優しかった。
精霊女王セレス...かつて私だった人。
はるか古代を生きた彼女が何を思ったのか、その全貌はわからないけれど、しかし責任感が強く優しい人だということはわかった。
「はい、私にできることをします」
だから、不安を押し隠して女神像に向かってしっかりと頷いた。
次の瞬間、微笑んだ美しい女性の像が一瞬だけ見えたような気がした。
やがて周囲は静寂を取り戻し、セレスの魂のこだまが消え去ったことを理解する。
「アキュラ...やりましょう」
「こちらは準備万端さ」
セレスから術式を継承したことで、精霊術師としての能力が一気に底上げされたことを実感する。
アキュラとの魔力のやり取りも円滑になっていた。
「カイル様、エリック様、今からセレス様から伝授された結界術を展開します。エリック様や他の騎士の方々はアキュラを見るのははじめてでしたね。彼は精霊王アキュラ、私の頼れるパートナーです」
もはやここまできたら一蓮托生だと思ったので、アキュラの存在をエリックたちにも開示する。
「よろしく頼むよ諸君」
「おやおや、とんでもないお嬢さんだってわけね...まさか精霊術師とは」
エリックが大仰に天を仰いだが、それは口先ばかりのことで、この状況を楽しんでいることがすぐにわかる。
「セレス様から伝授された術式の詠唱にはかなり時間がかかりますし、その間私は無防備になってしまうので...」
「私が守る!」「俺に任せろ!」
咄嗟に2人の声が重なる。
「...ふん」「...ちっ」
それが照れ臭かったのか、2人はそれぞれあらぬ方向を見つめて誤魔化すことにしたようだ。
私はなんだかそれがおかしくって、場違いだとは思いつつもくすくすと笑いが溢れてきてしまった。
「ふふふ...」
その笑いは次第に2人に、そしてアキュラや他の騎士たちにも伝播していった。
ひとしきり皆で笑うと、改めて自分の中で覚悟が定まったような気がした。
「では...」
もはや沈黙した女神像の前に、精神を集中させながら跪いた。
この遺跡の中であればおそらくどこで詠唱しても構わないのだろうが、このセレスの前が一番ふさわしい気がしたのだ。もうこの世にはいない彼女が、優しく見守ってくれているような気がして。
もちろんわくわけはなかった。だいぶ性格も口調も違うし...こんなにはっきりものが言えたら、もっと苦労しなくて済んだろうに、などと場違いなことを考えてしまう。
「あの...あなたはもう...その、なんていうか」
言い淀む私に、セレスの声はおかしそうに答えた。
「言ったじゃん。バリバリ死んでる。じゃあ、この声は何なのかって感じよね?これは私の魂の要素を、精霊の力で一時的に再構築しているにすぎない。よーするにコダマみたいなもんよ」
「な、なるほど...で、私はいったいどうしたら?」
「うーん真面目でよろしい。さすが私...いや、時間がないんだった。まずはあなたに王国の守護結界を貼り直して欲しいの。隣の精霊王といっしょにね。久しぶりね、アキュラ...といっても、あなたは覚えていないでしょうけれど」
「うん、すまないが...」
「いいのよ、遠い遠いはるか昔のことだから...」
そう答えたアキュラに、セレスの声は少しだけ寂しさのようなものを滲ませたような気がした。
ひょっとしたら、いや、たぶん記憶を失う前のアキュラとは面識があるのだろう。
「さっそくだけど術式を伝えるわ。あなたの意識に直接流れ込むはず...その根本は、私の魂に刻まれている。つまり、あなたの魂にもね」
その言葉が終わらないうちに、意識の中へ情報の奔流が流れ込んでくるような感覚があった。
「これは...っ」
肉体的な痛みがあるわけではないが、脳を直接揺さぶられるような、かつてない感覚に私は動揺する。
意識と情報の境目が融解していき、自身の魂を上書きされるような感覚とでも言えばいいのだろうか。
だが、不思議と恐怖はなかった。ただどこか懐かしい、そんな気がした。
「ごめんね...ほんとうは、話したいこと、伝えたいことがたくさんある。でももう時間がない。術式は王国の要衝、東西南北の4箇所すべてに展開して完成する。北はここニヴェルガルド...残り3箇所は、北方同様それぞれ古来から守護の騎士団が置かれているはずよ」
「なるほど、東西南北に騎士団が配置されているのはそういうことだったのか...」
カイルが納得したように頷いた。
「おっとそこのイケてる青年!そう、何をキョロキョロしてんの。あんたよあんた」
カイルがびっくりしてセレスの像の方を見る。
「その子をしっかり守りなさい。王国の興廃はその娘にかかってるんだから」
「わ、わかりました」
「それにねぇ...超いい女になると思うから、手放すんじゃないわよ」
「なっ、私はそういうつもりでは...」
「いやー、どこの誰かは知らないけれど、俺もそう思うぜ?」
当惑するカイルの肩をポンポンと叩きながら、エリックが割って入った。
「話はわかったぜ、セレスさんとやら。俺たちがばっちりこの娘を守るから安心してくれ。いい女を守るのは、男の甲斐性ってやつだ」
「あら、話がわかるじゃない。...っと、本当に時間がないわ。おしゃべりはここまでのようね。アキュラ、エレナを頼んだわよ。そしてエレナ...この先きっと辛いこともあるでしょう。でもあなたならきっと乗り越えられる。私にできるのはここまでだから、あとはあなたが切り開いていってね」
勝ち気そうだったセレスの声が、最後だけはひどく優しかった。
精霊女王セレス...かつて私だった人。
はるか古代を生きた彼女が何を思ったのか、その全貌はわからないけれど、しかし責任感が強く優しい人だということはわかった。
「はい、私にできることをします」
だから、不安を押し隠して女神像に向かってしっかりと頷いた。
次の瞬間、微笑んだ美しい女性の像が一瞬だけ見えたような気がした。
やがて周囲は静寂を取り戻し、セレスの魂のこだまが消え去ったことを理解する。
「アキュラ...やりましょう」
「こちらは準備万端さ」
セレスから術式を継承したことで、精霊術師としての能力が一気に底上げされたことを実感する。
アキュラとの魔力のやり取りも円滑になっていた。
「カイル様、エリック様、今からセレス様から伝授された結界術を展開します。エリック様や他の騎士の方々はアキュラを見るのははじめてでしたね。彼は精霊王アキュラ、私の頼れるパートナーです」
もはやここまできたら一蓮托生だと思ったので、アキュラの存在をエリックたちにも開示する。
「よろしく頼むよ諸君」
「おやおや、とんでもないお嬢さんだってわけね...まさか精霊術師とは」
エリックが大仰に天を仰いだが、それは口先ばかりのことで、この状況を楽しんでいることがすぐにわかる。
「セレス様から伝授された術式の詠唱にはかなり時間がかかりますし、その間私は無防備になってしまうので...」
「私が守る!」「俺に任せろ!」
咄嗟に2人の声が重なる。
「...ふん」「...ちっ」
それが照れ臭かったのか、2人はそれぞれあらぬ方向を見つめて誤魔化すことにしたようだ。
私はなんだかそれがおかしくって、場違いだとは思いつつもくすくすと笑いが溢れてきてしまった。
「ふふふ...」
その笑いは次第に2人に、そしてアキュラや他の騎士たちにも伝播していった。
ひとしきり皆で笑うと、改めて自分の中で覚悟が定まったような気がした。
「では...」
もはや沈黙した女神像の前に、精神を集中させながら跪いた。
この遺跡の中であればおそらくどこで詠唱しても構わないのだろうが、このセレスの前が一番ふさわしい気がしたのだ。もうこの世にはいない彼女が、優しく見守ってくれているような気がして。
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