【完結】婚約破棄された辺境伯爵令嬢、氷の皇帝に溺愛されて最強皇后になりました

きゅちゃん

文字の大きさ
17 / 21

凋落の聖女

しおりを挟む
エリアナとルシアンの国家訪問から一週間後、ルミナス王国の宮廷は大混乱に陥っていた。帝国皇室からの調査報告書の内容が貴族たちの間に広まり、セレスティアに対する疑念が日増しに強くなっていた。

「本当に、あの聖女様が偽物だったなんて」

「でも、帝国皇室の公式文書ですから」

「エリアナ皇后陛下への仕打ちも、考えてみれば不自然でした」

宮廷の至る所で、このような会話が交わされていた。

セレスティアの私室では、彼女が鏡の前で震えていた。かつて天使のように美しかった顔は、今や恐怖と絶望で歪んでいる。

「どうして、どうしてこんなことに」セレスティアは鏡に向かって呟いた。「完璧だったはずなのに」

ドアがノックされ、アレクサンダーが入ってきた。しかし、その表情は以前のような愛情に満ちたものではなく、冷たく疑わしげだった。

「セレスティア」アレクサンダーの声は硬かった。「話がある」

「アレクサンダー様」セレスティアは振り返った。「ご機嫌うるわしゅう」

「あいさつは良い。その報告書の内容は本当なのか」アレクサンダーは単刀直入に尋ねた。

「何のことでしょうか」セレスティアは取り繕おうとした。

「とぼけるな」アレクサンダーの声が荒くなった。「君の出自について、君の過去について、そしてエリアナを陥れた方法について、全て詳細に書かれているではないか」

セレスティアは観念した。もはや嘘を重ねても無駄だった。

「それが、どうだというのです」彼女は開き直った。「私は貴方のためを思って」

「僕のため?」アレクサンダーは信じられないという表情をした。「君は僕を利用していただけではないか」

「違います!」セレスティアは必死に訴えた。「私は本当に貴方を愛しています。エリアナなど、貴方にはふさわしくない女でした」

「ふさわしくない?」アレクサンダーは冷笑した。「今やエリアナは隣国の皇后だ。それに比べて君は何だ? 正体を暴かれた偽聖女ではないか」

その言葉は、セレスティアの心を深く傷つけた。しかし、同時に彼女の心に新たな怒りを生んだ。

「そうやって、貴方も私を見捨てるのですね」セレスティアの瞳に、狂気じみた光が宿った。「エリアナの時と同じように」

「セレスティア、君は」

「でも、私には最後の手段があります」セレスティアは不気味に微笑んだ。「貴方を道連れにする方法が」

アレクサンダーは背筋に寒気を感じた。

翌日、ルミナス王国の宮廷にさらなる衝撃が走った。セレスティアが突然、国王に謁見を求めたのだ。

「陛下」セレスティアは国王の前に跪いた。「重要な告白がございます」

「告白?」

「はい。実は、エリアナ様への陰謀には、アレクサンダー王太子殿下も深く関わっていらっしゃいました」

謁見の間に居合わせた貴族たちがざわめいた。

「何だと?」国王は驚愕した。

「殿下は、エリアナ様を邪魔に思っておられました」セレスティアは涙を流しながら続けた。「そして、私に陰謀を提案されたのです」

「それは嘘だ!」アレクサンダーが謁見の間に駆け込んできた。「父上、この女の言葉を信じてはいけません」

「アレクサンダー様」セレスティアは悲しそうに見上げた。「もう隠す必要はございません。全てを正直にお話ししましょう」

「黙れ!」アレクサンダーは激怒した。「君こそ嘘つきではないか」

しかし、セレスティアは既に準備していた証拠を取り出した。

「これをご覧ください」彼女は一通の手紙を差し出した。「殿下から私への指示書です」

国王がその手紙を読むと、顔が青ざめた。そこには確かに、アレクサンダーの筆跡でエリアナを陥れる計画が記されていた。

「これは偽造だ!」アレクサンダーは叫んだ。

「偽造でしょうか」セレスティアは冷笑した。「筆跡鑑定をしていただければ分かります」

実際、その手紙は巧妙に偽造されたものだった。しかし、筆跡は完璧にアレクサンダーのものを模倣していた。

「父上、信じてください」アレクサンダーは必死に弁明した。「僕はそんな指示などしていません」

しかし、国王の心には既に疑念が芽生えていた。息子が権力欲のために婚約者を陥れたのではないかという疑いが。

「セレスティア」国王は厳しい口調で言った。「もし君の告白が真実なら、なぜ今まで黙っていたのだ」

「申し訳ございません」セレスティアは泣き崩れた。「殿下への愛情ゆえに、真実を隠してまいりました。しかし、エリアナ皇后陛下の高貴なお姿を拝見し、自分の罪の深さに気づいたのです」

完璧な演技だった。セレスティアは最後の力を振り絞って、アレクサンダーを道連れにしようとしていた。

「父上!」アレクサンダーは絶望的な声で叫んだ。「僕を信じてください」

しかし、もはや国王の心は決まっていた。

「アレクサンダー」国王は重々しく言った。「調査が終わるまで、そなたは軟禁とする」

「父上!」

衛兵がアレクサンダーを取り囲んだ。彼は絶望的な表情でセレスティアを見つめた。

「君は、僕を裏切ったのか」

「裏切り?」セレスティアは冷たく微笑んだ。「貴方こそ、私を見捨てようとしたではありませんか」

その瞬間、アレクサンダーは理解した。セレスティアという女性の本当の恐ろしさを。

セレスティアは立ち上がると、国王に向かって深く一礼した。

「陛下、私は全ての罪を償うために、修道院に入ります」彼女は殊勝な表情で言った。「しかし、その前に一つだけお願いがございます」

「何だ」

「帝国皇后陛下にお会いして、直接お詫びを申し上げたいのです」

国王は考え込んだ。確かに、それは筋の通った要求だった。

「分かった。申し入れてみよう」

セレスティアは心の中で冷笑した。まだ最後の手段が残っていた。エリアナを道連れにする方法が。

しかし、彼女はまだ知らなかった。エリアナとルシアンが、既に彼女の全ての策略を見抜いていることを。

そして、最後の審判の時が近づいていることを。

王宮の片隅で、軟禁されたアレクサンダーが一人、絶望に暮れていた。

愛していると信じた女性に裏切られ、王太子としての地位も危うくなった。

全ては、エリアナを失った時から始まっていたのかもしれない。

後悔しても、もう遅すぎた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は廃墟農園で異世界婚活中!~離婚したら最強農業スキルで貴族たちが求婚してきますが、元夫が邪魔で困ってます~

黒崎隼人
ファンタジー
「君との婚約を破棄し、離婚を宣言する!」 皇太子である夫から突きつけられた突然の別れ。 悪役令嬢の濡れ衣を着せられ追放された先は、誰も寄りつかない最果ての荒れ地だった。 ――最高の農業パラダイスじゃない! 前世の知識を活かし、リネットの農業革命が今、始まる! 美味しい作物で村を潤し、国を救い、気づけば各国の貴族から求婚の嵐!? なのに、なぜか私を捨てたはずの元夫が、いつも邪魔ばかりしてくるんですけど! 「離婚から始まる、最高に輝く人生!」 農業スキル全開で国を救い、不器用な元夫を振り回す、痛快!逆転ラブコメディ!

『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』

とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~ -第二部(11章~20章)追加しました- 【あらすじ】 「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」 王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。 彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。 追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった! 石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。 【主な登場人物】 ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。 ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。 アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。 リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。 ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。 【読みどころ】 「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

婚約破棄で追放された悪役令嬢、前世の便利屋スキルで辺境開拓はじめました~王太子が後悔してももう遅い。私は私のやり方で幸せになります~

黒崎隼人
ファンタジー
名門公爵令嬢クラリスは、王太子の身勝手な断罪により“悪役令嬢”の濡れ衣を着せられ、すべてを失い辺境へ追放された。 ――だが、彼女は絶望しなかった。 なぜなら彼女には、前世で「何でも屋」として培った万能スキルと不屈の心があったから! 「王妃にはなれなかったけど、便利屋にはなれるわ」 これは、一人の追放令嬢が、その手腕ひとつで人々の信頼を勝ち取り、仲間と出会い、やがて国さえも動かしていく、痛快で心温まる逆転お仕事ファンタジー。 さあ、便利屋クラリスの最初の依頼は、一体なんだろうか?

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

悪役令嬢に転生したけど、破滅エンドは王子たちに押し付けました

タマ マコト
ファンタジー
27歳の社畜OL・藤咲真帆は、仕事でも恋でも“都合のいい人”として生きてきた。 ある夜、交通事故に遭った瞬間、心の底から叫んだーー「もう我慢なんてしたくない!」 目を覚ますと、乙女ゲームの“悪役令嬢レティシア”に転生していた。 破滅が約束された物語の中で、彼女は決意する。 今度こそ、泣くのは私じゃない。 破滅は“彼ら”に押し付けて、私の人生を取り戻してみせる。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...