【完結】婚約破棄された悪役令嬢ですが、もう王子には興味ありません

きゅちゃん

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第19話「初任務」

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 騎士団に入団してから二週間が経った。

 毎日が訓練の連続だったが、少しずつ騎士団の生活に慣れてきた。朝の長距離走も、剣術訓練も、以前より楽にこなせるようになっている。

 この日の朝、いつものように訓練場に集合すると、クララの隣に見慣れない人物が立っていた。

 五十代くらいの男性。白髪混じりの髪を後ろで束ね、深い青の瞳は鋭さと知性に満ちている。体格は細身だが、その佇まいには圧倒的な威厳があった。

「紹介する。こちらは、魔法騎士団団長、レオポルド・フォン・ヴァルデック閣下だ」

 クララの言葉に、騎士たちが一斉に敬礼した。

 団長。

 騎士団のトップであり、かつて「雷神」の異名で恐れられた伝説の魔法使いだ。

「諸君、今日は特別な日だ」

 レオポルド団長の声は、穏やかだが力強かった。

「見習い騎士たちに、初めての任務を与える」

 ざわめきが起こった。

 入団してまだ二週間。もう任務が与えられるのか。

「今回の任務は、東の国境近くにある村、リンデンブルクの調査だ」

 団長が地図を広げた。

「この村から、三日前に救援要請が届いた。原因不明の病が蔓延し、既に十名以上が倒れているという」

「病、ですか?」

 ミレーナが尋ねた。

「ええ。だが、通常の病ではない可能性がある。魔力の乱れを感じるという報告もある」

 団長が私を見た。

「エリアナ・フォン・ヴェルナー」

「はい」

 私は一歩前に出た。

「君は治癒魔法に長けていると聞いている。この任務の指揮を執ってもらいたい」

「私が、指揮を?」

 驚いた。まだ見習いの身で、任務の指揮を任されるなど。

「君には、シュヴァルツヴァルトでの実績がある。魔力の乱れを解決した経験もある」

 団長が微笑んだ。

「それに、実戦こそが最良の訓練だ。恐れることはない」

「わかりました。お受けします」

「よろしい」

 団長が他の騎士たちを見回した。

「エリアナの補佐として、ダリウス、ミレーナ、ブルーノ、そしてヴィクトールが同行する」

 四人が前に出た。

「出発は明日の夜明けだ。準備を整えておけ」

「了解!」

 その日の午後、私たちは作戦会議を開いた。

 騎士団の会議室に、五人が集まる。

「まず、村の状況を整理しよう」

 私は地図を広げた。

「リンデンブルクは、人口三百人ほどの小さな村。主な産業は農業と、近くの鉱山での採掘だ」

「鉱山?」

 ヴィクトールが反応した。

「もしかして、鉱山が関係しているかもしれない」

「どういうこと?」

「鉱山には、時々魔石の鉱脈がある。もし不安定な魔石を掘り当てれば、魔力が漏れ出す可能性がある」

 なるほど。魔力の漏出が、病の原因かもしれない。

「まず現地で状況を確認して、原因を特定しましょう。その上で、対処法を考えます」

「了解」

 四人が頷いた。

「それから」

 私は皆を見回した。

「今回、私が指揮を執ることになりましたが、皆さんの方が経験豊富です。遠慮なく意見を言ってください」

「当然さ」

 ダリウスが笑った。

「俺たち、チームだからな」

「ありがとう」

 翌朝、私たちは馬に乗って出発した。

 ルナも一緒だ。彼女の嗅覚は、魔力の乱れを感知するのに役立つはずだ。

 王都を出て、東へ向かう街道を進む。

 秋も深まり、木々は紅葉で彩られていた。

 二日間の旅路。夜は野宿をしながら、着実に目的地に近づいていく。

 二日目の夕方、ようやくリンデンブルクが見えてきた。

 しかし、村の様子は明らかにおかしかった。

 煙突から煙が上がっている家は少なく、通りには人影がほとんどない。

「静かすぎるな」

 ブルーノが警戒した声で言った。

「気をつけて進みましょう」

 村の入口で、私たちは一人の老人に出会った。

 村長だという。

「魔法騎士団の方々ですか……ありがとうございます、よく来てくださいました」

 村長は疲れ切った顔で、深く頭を下げた。

「村の状況を教えてください」

「はい。三週間前から、村人たちが次々と倒れ始めました。最初は普通の風邪だと思ったのですが……」

 村長が声を震わせた。

「高熱が出て、体中に黒い斑点が現れ、やがて意識を失います。今では、三十人以上が寝込んでいます」

「亡くなった方は?」

「まだ、いません。でも、時間の問題かと……」

「患者を診せてください」

 村長に案内され、私たちは村の集会所に向かった。

 そこには、簡易的な病室が作られていた。

 ベッドに、多くの村人が横たわっている。

 どの顔も青白く、額には汗が浮かんでいる。

 体を見ると、確かに黒い斑点が広がっていた。

 私は一人の患者に近づき、手を額に当てた。

 魔力を流し込み、体内の状態を調べる。

 すると——

 体の中に、異常な魔力が渦巻いているのを感じた。

 それは、まるで毒のように、全身を蝕んでいる。

「これは……」

「わかったか?」

 ヴィクトールが尋ねた。

「魔力中毒です。外部から、大量の魔力を浴び続けている」

「やはり、鉱山か」

「おそらく」

 私は村長を見た。

「最近、鉱山で何か変わったことはありませんでしたか?」

「そういえば……三週間前、新しい坑道を掘り始めました」

 村長が思い出したように言った。

「その日から、鉱山の奥で不思議な光が見えると、鉱夫たちが言っていました」

「光?」

「ええ。青白い、まるで生き物のような光だと」

 私とヴィクトールは、顔を見合わせた。

「魔石の鉱脈だな」

「しかも、かなり強力な」

 私は立ち上がった。

「鉱山に行きましょう。原因を断たなければ、患者たちは治りません」

 鉱山は、村から少し離れた場所にあった。

 入口には、立入禁止の札が立てられている。

「準備はいいか?」

 私は四人を見回した。

 皆、武器と魔法の準備を整えている。

「行くぞ」

 鉱山の中は、予想以上に広かった。

 幾つもの坑道が、迷路のように入り組んでいる。

「ルナ、魔力の源を探して」

 小さな狼が、鼻を鳴らしながら先導してくれた。

 奥へ、奥へと進んでいく。

 空気が、徐々に重くなっていく。

 魔力の濃度が、上がっているのだ。

「気をつけろ。この濃度、普通じゃない」

 ダリウスが警告した。

 さらに進むと、青白い光が見えてきた。

 新しく掘られた坑道の奥。

 そこには——

 巨大な水晶の塊があった。

 高さは三メートル以上。表面は青白く輝き、内部では無数の光が渦巻いている。

「これは……」

 ヴィクトールが息を呑んだ。

「純粋魔石の原石だ。こんな大きなもの、見たことがない」

 魔石は、魔力を蓄積する鉱物だ。

 特に純粋魔石は、膨大な魔力を持つ希少な宝石として知られている。

 しかし、この大きさの原石は、安定していない。

 暴走した魔力が、周囲に漏れ出しているのだ。

「どうする?」

 ミレーナが尋ねた。

「封印するしかありません」

 私は前に出た。

「皆さん、魔力の共鳴を使います。私に魔力を貸してください」

「わかった」

 四人が、私の周りに円を作った。

 それぞれが手を繋ぎ、魔力を流し込み始める。

 私は、その魔力を受け止め、一つに束ねていく。

 五人分の魔力が、一つの巨大な力となった。

「いきます!」

 私は、その力を純粋魔石に向けて放った。

 銀色の光が、水晶を包み込む。

 暴走していた魔力を、少しずつ鎮めていく。

 水晶の輝きが、徐々に弱まっていった。

 そして——

 完全に、光が消えた。

 魔力の漏出が、止まったのだ。

「やった……」

 私は膝をついた。

 膨大な魔力を使い、体が疲れ切っている。

「大丈夫か?」

 ダリウスが支えてくれた。

「ええ、大丈夫」

 私は立ち上がった。

「これで、村人たちは助かります」

 村に戻ると、患者たちの容態が改善し始めていた。

 黒い斑点が消え、顔色も戻ってきている。

「治った……!」

 村長が涙を流した。

「本当に、ありがとうございます!」

 村人たちも、次々と目を覚まし始めた。

 子供たちが元気に走り回り、大人たちが笑顔を取り戻していく。

 その光景が、何より嬉しかった。

 その夜、村では感謝の宴が開かれた。

 質素だが、心のこもった料理が並ぶ。

「エリアナ様、本当にありがとうございました」

「私だけの力じゃありません。皆で協力したからです」

 私は仲間たちを見た。

 ダリウス、ミレーナ、ブルーノ、ヴィクトール。

 皆、疲れた顔をしているが、満足そうに笑っていた。

「いい任務だったな」

 ヴィクトールが言った。

「お前の指揮、悪くなかった」

「ありがとう」

 翌朝、私たちは村を後にした。

 村人たちが、総出で見送ってくれた。

「また来てください!」

「お元気で!」

 手を振りながら、私たちは王都へと向かった。

 馬上で、ダリウスが言った。

「エリアナ、お前、いい指揮官になれるよ」

「そうかしら?」

「ああ。お前は、人のことを第一に考える。それが、指揮官に必要な資質だ」

 その言葉が、嬉しかった。

 三日後、王都に戻った私たちは、団長に報告した。

「見事だ」

 レオポルド団長が満足そうに頷いた。

「初任務を完璧にこなすとは。諸君の働き、誇りに思う」

「ありがとうございます」

「特に、エリアナ」

 団長が私を見た。

「君の判断力と指揮、素晴らしかった。これからも期待している」

「はい!」

 その夜、自室で一人、私は窓の外を見ていた。

 初任務、成功した。

 多くの人を救えた。

 これが、私の目指す道だ。

 手のひらに、光を灯す。

 銀色の光が、優しく輝いた。

 レオン、私は頑張っています。

 あなたが教えてくれたこと、全て活かしています。

 これからも、もっと成長していきます。

 窓の外では、星が瞬いていた。

 新しい任務が、きっとまた来る。

 でも、恐れはない。

 仲間がいる。

 力がある。

 守るべき人々がいる。

 だから、大丈夫。

 どんな困難も、乗り越えていける。

 そう信じて、私は明日への準備を始めた。
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