【完結】パラレルハーレム・トラベラー

きゅちゃん

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激戦と創造神の真意

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青い砂漠のオアシスで住民たちの生活とその不安に触れた俺たちは、次の試練の気配を追うため旅を再開した。砂漠の風が冷たく吹き抜け、ブレスレットが微かに光る中、俺たちはオアシスでの温かい滞在の思い出を胸に砂をかきわけて進んでいた。だが、その途中で砂嵐が突然強まり、空に青い光が走る。地面が揺れ、ブレスレットが激しく脈動する。俺が叫ぶ。

「みんな、気をつけろ! 何か来る!」

その瞬間、砂嵐の中からアルテミシアが現れる。銀髪が風に舞い、白いローブの金刺繍が輝く。彼女の瞳は冷たく、光の鞭が鋭くうなりを上げる。

「選ばれし者、お前たちがオアシスの虫けらと絡む姿を見たぞ。この世界は終わらねばならぬ。今度こそ本気で潰すつもりだ」

俺がブレスレットで氷の刃を構え、言う。

「アルテミシア、お前、まだ俺たちを傀儡にしようって望みを捨てていないのか? オアシスの人たちを見て、何も感じないのか?この世界で懸命に生きている人たちがいるんだぞ。リセットなんてさせない!」

彼女が冷たく笑い、鞭を振り上げる。

「リセットを止める? 愚かだ。お前たちの意志などなんの意味もない。これ以上に茶番にはもう我慢ならん。お前を潰せば、この胸のざわめきも消える!」  

戦闘が始まる。ミレアが剣を振り、アルテミシアの光の鞭と真っ向から激突する。激しく火花が散り、彼女が剣を振り下ろすが、アルテミシアが鞭を巻きつけ、ミレアの剣を弾き飛ばす。これまでのアルテミシアは本気を出していなかったのか。そう感じるほどに激しい攻勢に圧倒され、さすがのミレアも体勢が崩れて膝をつく。その隙をアルテミシアが見逃すはずもなく、追撃の光の波が叩き込まれた。ミレアの細身の身体があっという間に吹き飛ばされ、砂に倒れる。じわりと血が滲み、彼女が呻く。

「ご...ごめん、悠斗、やられた……!」

サフィーラがアルテミシアの背後に回り、素早く動きを乱そうとするが、ミレアを倒したアルテミシアは恐るべき反応速度でそれを察知していた。サフィーラを見ることもなく鞭を旋回させ、砂を巻き上げて視界を奪う。サフィーラが「見えない!」と叫んで一瞬動きが止まる中、容赦なく光の刃が彼女の肩を切り裂き、サフィーラも倒れこんでしまった。くそっ、アルテミシアの本気がこれほど強いとは。
これまでの旅で味わったことのない苛烈な戦いを前にして、身体が言うことを聞かない。恐怖しているのだ。
自分自身が本当の強さを得ていたわけではないことを実感させられる。

「剣士ちゃん、ごめん……!」

そんな中でレイラが黒い炎を連射し、アルテミシアに迫る。炎が鞭にぶつかり激しく爆発するが、アルテミシアが冷静に光の障壁を展開し、炎を跳ね返す。レイラが「くそっ!」と呪いながらなおも突進するが、地を這うように迫る鞭が彼女の足を絡め、引き倒してしまった。そこに追撃の光の波が直撃し、レイラが血を吐いて倒れる。

「ゆ、悠斗、私も……!」

リリアが俺の腕を握り、震える声で魔法を放つが、アルテミシアが鞭を一閃し、魔法を切り裂く。かばうまもなく光の刃がリリアの胸をかすめ、彼女が悲鳴を上げて倒れた。

「悠斗、ごめんね……!」

セリーナが水魔法で援護しようと巨大な水の壁を作るが、アルテミシアが鞭を振り回して風圧を産み、壁が出来上がる前に水を蒸発させる。彼女が縮地術でも使ったかのような疾さでセリーナに迫り、光の波で吹き飛ばす。セリーナが杖を取り落とし、砂に倒れる。

「悠斗っ……!」  

仲間が次々と倒れていくが、どうしようもできない。先程から氷の刃を連発するも、まるでかすりもしない。アルテミシアの障壁に刃が弾かれ、彼女が鞭を振り上げたと思うと、焼け付くような痛みが全身に走る。息もできないほどの衝撃に襲われ、思わず砂に膝をついてしまう。ぜえぜえとアホみたいに息を切らすしかできない中、光の鞭が俺の肩を切り裂き、鮮血が砂を染める。ああ、俺はまた死ぬのか?何もできずに?

ブラック・アウトするようにぼんやりした脳裏を絶望が覆う中、アルテミシアが冷たく言う。

「お前さえいなければ、この胸の熱は消える。お前を殺す!」

鞭が俺に振り下ろされる瞬間、全ての終わりを覚悟して目を閉じた。
ああ、結局転生とは何だったのか?俺の旅の意味は?仲間たちを守れなかった。
リリア、サフィーラ、ミレア、セリーナ、レイラ...みんなを守れなくて本当にごめん。
しかし、終焉は訪れない。

霞む視界の中、何とか目を開くと... アルテミシアの手が止まっていた。
その美しい瞳が揺れたかと思うと、力なく鞭が砂に落ちる。

「なぜだ……? お前を殺せば全てが終わるのに、なぜ手が動かん? お前を見ると、胸が締め付けられる……何だ、これは?」  

その時、砂嵐が裂け、巨大な光の柱が空から降り注ぐ。威圧的な声が響き、圧倒的な何かが姿を現す。光の柱から、凍りつくような絶世の美しい女神が現れた。長い白髪が流れるように風に揺れ、透き通るような青い瞳が全てを見透かすように輝く。彼女の肌は氷のように白く、薄い光の衣が身体を包み、冷たく美しい顔立ちに感情の欠片もない。間違いない。これが創造神なのだ。神がアルテミシアに冷たく告げる、その声は砂漠を凍らせるような響きを持っていた。

「アルテミシア、なぜためらう? 選ばれし者を殺せ。お前の役目はサイクルを確実にすることだ」

アルテミシアが創造神を見上げ、震える声で言う。

「創造神よ、私は……御身の意図を汚す者を排除するつもりだった。だが、この男を殺せば、この感覚が消えると思ったのに……なぜか、できない!」

創造神の青い瞳が鋭く光り、声が轟く。

「ためらうとは、感情に支配されたか? お前は私の道具に過ぎん。ならば、私が直々に選ばれし者を排除する」

光の柱が俺に向かって落ちてくるのが見えた。今度こそおしまいだ。アルテミシアの鞭もやばいが、これはさらに次元が違う。本能的にそれだけはわかる。反射的に俺がブレスレットを握り締め、立ち上がろうとする瞬間、アルテミシアが俺をかばうように立ち塞がるのが見えた。俺を襲うはずだった光が彼女を貫き、アルテミシアががっくりと膝をつく。銀髪が砂に散り、白いローブが血に染まるのが見えた。

俺が叫ぶ。

「アルテミシア、なぜだ!?」

彼女が弱々しく笑い、俺に目を向ける。

「お前……お前の意志は......私を乱した。お前と話すたび、胸が熱くなった。お前を殺せば消えると思ったのに……今、思う。これが恋というものなら、もっと早く知りたかった……」

アルテミシアが俺の手を握り、力を失う。彼女の瞳から光が消え、砂に倒れた。
その顔に、はじめて微笑めいたものが浮かんでいるようだった。
それは...とても美しい顔だった。
俺は彼女を抱き上げる。知らず、涙が溢れていた。

「アルテミシア、お前、なぜ……!」  

創造神が冷たく俺を見下ろし、光の柱を再び構える。彼女の白髪が風に揺れ、凍てついた美貌が俺を貫く。俺がアルテミシアを抱いたまま立ち上がり、叫ぶ。

「創造神、お前、彼女を殺したのか!? 俺たちを殺して、何が得られるんだ!?」

創造神の声が砂漠に響き、その冷たい美しさが一層際立つ。

「選ばれし者、お前たちの存在がこのサイクルを歪めた。この世界は選択を誤った。ゆえに人の営みによって歪みが増大するばかりだ。よってこの世界はこれ以上は継続が無意味だ。リセットすることでふたたび完全な世界を目指すのだ。それを成すまで、終わりなきサイクルを繰り返す。それが私の意志だ。本来であればお前たちの欲望が鍵を満たすが、お前たちの無意味な意志がそれを乱している。アルテミシアは道具として失敗した。お前もここで終わらねばならぬ」

俺がブレスレットを握り、涙を流しながら言う。

「人の営みが歪みを作るなら、オアシスの人たちの笑顔はなんだ!? 人はより良い明日のために代わっていけるんだぞ!! 完全な世界って何だ!? そんなもの、あるわけがない!!アルテミシアは俺をかばって死んだ。お前のサイクルなんて、俺が止めてやる!」

創造神の青い瞳が一瞬揺れ、彼女の冷たい声が続く。

「お前たちの営みが歪みを生み、砂嵐を呼び、魚を死なせる。それを正すのがリセットだ。だが、お前の意志、アルテミシアを惑わせたその力、少し興味深い。鍵が揃うまで、お前を見よう。次の試練で決着をつけるがいい」

光の柱が消え、創造神の絶世の姿が砂嵐の中に溶ける。ブレスレットが眩い光を放ち、創造神の力を弾いた余韻が残る。  
砂漠の風がアルテミシアの銀髪を揺らし、俺は彼女を抱き締める。彼女の犠牲が、俺の決意を一層強くした。
――続く
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