【完結】偽物聖女ですが、恋だけは本物です

きゅちゃん

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第7話 聖女対決の行方

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 翌朝、私は誰よりも早く起きた。
 今日はエリスとの勝負の日。負ければ聖女の座を失い、最悪の場合は偽物として処罰される可能性もある。
 
「ルーナ様、今日はいつもより早いお目覚めですね」
 侍女のアンナが心配そうに声をかけてきた。
「何か特別なご予定でも?」
 
「ええ、少し街の様子を見に行こうと思って」
 私は平静を装った。アンナには心配をかけたくない。
 
 朝食もそこそこに、私は城を出た。約束の場所は街の中央広場。すでにエリスが来ているかもしれない。
 
 広場に着くと、案の定、エリスが優雅に立っていた。白いドレスに身を包んだ姿は、まさに天使のようだ。
 
「おはようございます、ルーナ」
 エリスが微笑む。昨日とは違って、今日は表面上は友好的だ。
「準備はよろしいですか?」
 
「ええ、もちろんです」
 
 私たちの周りには、すでに多くの民衆が集まっていた。二人の聖女が揃うなんて滅多にないことだから、自然と人が集まってくるのだろう。
 
「それでは、始めましょうか」
 エリスが手をかざすと、街の向こうから情報を集めるための光の鳥が飛んできた。
「まずは困っている人を探しましょう」
 
 さすが本物の聖女だ。こんな魔法も使えるのか。
 私にはそんな便利な魔法は使えないが——
 
「あの、聖女様!」
 
 突然、少女の声が響いた。見ると、十歳くらいの女の子が涙を流しながら走ってきている。
 
「どうしたの?」
 私は膝をついて、彼女の目線に合わせた。
 
「お母さんが......お母さんが倒れて動かないの!」
 
「案内して」
 
 私は迷わず少女についていく。エリスも後から続いてきた。
 
 少女の家は、街の貧民区にあった。古い家の中で、やせ細った女性が床に倒れている。熱を出しているようだ。
 
「栄養失調と過労ね」
 エリスが診断した。
「簡単な治癒魔法で治せます」
 
 彼女が手をかざすと、女性の体が光に包まれた。見る見るうちに顔色が良くなっていく。
 
「お母さん!」
 少女が母親に飛びつく。
「ありがとうございます、聖女様!」
 
 民衆から感嘆の声が上がった。
「さすがエリス様!」
「あっという間に治してしまった!」
 
 エリスが私を見た。その瞳には「どうですか?」という挑戦的な光がある。
 
 確かに、魔法での治療は素晴らしい。でも——
 
「少し待ってください」
 私は少女の母親に近づいた。
「なぜ、そんなに無理をしていたのですか?」
 
「それは......」
 女性が困ったような表情を見せる。
 
「お母さん、毎日働きづめだったの」
 少女が答えた。
「お父さんがいないから、お母さんが一人で......」
 
 私は周りを見回した。家の中には食べ物らしい物がほとんどない。
 
「エリス様」
 私は振り返った。
「確かに病気は治りました。でも、根本的な問題は解決していません」
 
「根本的な問題?」
 
「この方が倒れたのは、貧困が原因です。治療しても、また同じことが起こるでしょう」
 
 エリスの表情が少し曇った。
 
「それでは、どうしろと?」
 
「城で働きませんか?」
 私は女性に提案した。
「洗濯や掃除の仕事があります。お嬢さんも一緒に住めますし、食事も保証されます」
 
 女性の瞳に希望の光が宿った。
「本当ですか?」
 
「ええ。明日から来てください」
 
 「聖女様......」
 女性が涙を流しながら頭を下げる。
「ありがとうございます」
 
 民衆がざわめいた。
「根本的な解決か......」
「確かに、それの方が親切かも」
 
 エリスが複雑な表情を見せる。
 
「次に行きましょう」
 彼女が立ち上がった。明らかに機嫌を損ねている。
 
 二番目に向かったのは、古い橋の下だった。そこには浮浪者の老人がいた。
 
「この方も病気のようですね」
 エリスが再び治癒魔法を使おうとする。
 
「待ってください」
 私は老人に話しかけた。
「どうしてここにいるのですか?」
 
「わしは......元々は職人でした」
 老人が悲しそうに答える。
「でも、年を取って仕事がなくなり......」
 
「どんな職人でしたか?」
 
「木工です。家具作りが得意でした」
 
 私の頭に、ひらめきが浮かんだ。
 
「城の家具、古くなった物がたくさんあります。修理していただけませんか?」
 
 老人の瞳が輝いた。
「本当ですか? わしの腕でも......」
 
「きっと大丈夫です」
 
 私は老人を支えて立ち上がらせた。エリスが魔法で治療し、私が仕事を提供する。完璧な連携だった。
 
 でも、エリスの表情はますます険しくなっていた。
 
 三件目、四件目と回るうちに、パターンが見えてきた。
 エリスは魔法で問題を解決する。私は根本原因に対処する。
 
 そして、民衆の反応も変わってきていた。
 
「エリス様の魔法はすごいけど......」
「ルーナ様の方が、本当の意味で助けてくれる感じがする」
 
 とうとう、エリスが爆発した。
 
「いい加減にしてください!」
 
 突然の大声に、周囲がシーンとなった。
 
「あなたは魔法も使えないくせに、偉そうに!」
 
「エリス様......」
 
「私は完璧な治癒魔法を使えるのです! それなのに、なぜあなたの方が評価されるの?」
 
 ついに彼女の本音が出た。
 
「私の方が上なのに! 私の方が本物なのに!」
 
 民衆が困惑している。完璧だと思っていた聖女の、意外な一面を見てしまったのだ。
 
「エリス様」
 私は静かに言った。
「確かに、あなたは私より優れています。でも——」
 
「でも、何ですか?」
 
「聖女に必要なのは、魔力だけではないのではないでしょうか」
 
「何ですって?」
 
「人を思いやる心。困っている人の立場に立って考える気持ち。それが一番大切なのではないかと」
 
 エリスの瞳に、涙が浮かんだ。
 
「私は......私は完璧だと言われ続けて......」
 
「完璧である必要はありません」
 私は彼女の手を取った。
「一緒に、人々のために働きませんか?」
 
 しばらく沈黙が続いた。民衆も固唾を飲んで見守っている。
 
「負けました」
 ついに、エリスが呟いた。
「確かに、あなたの方が聖女にふさわしい」
 
 でも、私は首を振った。
 
「勝ち負けの問題ではありません。私たちは競争相手ではなく、協力者です」
 
「協力者?」
 
「ええ。あなたの魔力と、私の......何と言えばいいかわかりませんが、二人で力を合わせれば、もっと多くの人を救えるはずです」
 
 エリスの表情が明るくなった。
 
「それは......素敵ですね」
 
 民衆から拍手が起こった。
「二人の聖女様!」
「協力してくださるのですね!」
 
 でも、私はまだ不安だった。
 エリスには正体がバレている。いつ、それを暴露されるかわからない。
 
「ルーナ」
 エリスが小声で言った。
「あなたの秘密は守ります」
 
「え?」
 
「今日、よくわかりました。魔力があるかどうかなんて、些細なことです」
 
 私は涙が出そうになった。
 
「ありがとうございます」
 
「こちらこそ。あなたから学ぶことがたくさんありそうです」
 
 その時、街の向こうから黒い煙が上がった。
 
「火事だ!」
 
 民衆が慌て始める。
 
「急ぎましょう!」
 私とエリスは、同時に駆け出した。
 
 初めての共同作業が、今始まろうとしていた。
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