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ウマ並みなのよ
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よう、異世界転生大好物の諸君。
とりま、ヒマなら俺の話を聞いてってくれ。
あれは大体十年くらい前の事だった。
例によって死んでしまった俺は、例によって異世界に転生した。
ここまではいいだろ?よくあるテンプレだ。
美少女達に囲まれてのキャッキャウフフな生活。
ひとたび冒険に出ればチート能力で敵を瞬殺、強い上に超絶イケメン、ダラけていてもなんでも思い通り。
神は俺に二物どころかあらゆる物を与えたもうたのだっ‼
とか今頃言ってる筈だったんだ、これマジで。ホントにマジで。
でもさ、違ったんだわ。
神が俺に与えたのはチート能力でも、萌え系美少女でもなく、一本のニンジンだったんですよネー。
あの神、いつか蹴り殺す!
そして俺が生まれ変わった先というのが…。
「ウマヤドーノ!
赤ちゃんが生まれたってホント?!」
少女は馬小屋に駆け込むと、世話係のウマヤドーノに尋ねた。
「これは姫様。
このような所においでになっては、また叱られてしまいますぞ?」
そう言いながらもウマヤドーノは表情を綻ばせる。
「大丈夫よ。
今日はちゃんと御父様に御許しを頂いてきたわ」
生まれたばかりの仔馬と触れ合う事で、幼い姫に生命の尊さを学ばせたい。
そんな意図が王にはあったのかも知れない。
だが、そんな話を聞きながら俺は立ち上がるのに必死だった。
なんだ、この馬ってヤツらの習性は。
なんで転生してすぐ、こんなキツい目に遭わなきゃならんのだ。
もう、脚がガックガク。腰とかビックビク。
必死の形相で立ち上がろうとする俺を見ながら、大きな声で声援を送る姫。
「がんばって!がんばって!
立て!立つのよ!ウマ太郎っ‼」
(…精力剤みたいな名で呼ぶな!)
こうして二人は運命的ってワケでもない出会いを果たし、
国家権力を背負った幼い少女からの圧力により、俺は『ウマ太郎』と命名されたのだった。
それがね。
十年前の話なワケよ。
で、その十年間に俺が何してたかって言うとさ。
『食って走って寝てただけ』なんだわ、これマジで。
だって俺、超ウマじゃん?
神も俺をウマなんかにして何しろってんだよ、まったく。
昨日まではさ、そう思ってたんだよ。
それが今日になって突然。
「ウマ太郎、私と共に冒険の旅に出るわよ!」
とか、あの姫様が言い出したワケ。
いや、もう冒険とかさ。正直、どうでもよくね?って思ってるじゃん?
ウマ太郎的にはさ。
でもほら、養われてる身ってゆーか?
家畜的には逆らえないってゆーか?
あっという間に鞍つけられーの、手綱つけられーの、好き放題されたワケ。
あ、断っとくけど姫様はメチャクチャ可愛いのね。
とりま、芸能人で言うとあの子、あの子に似てるな。
名前は忘れたけど、あの子だよ。昔、グループでセンターやってた。
ほら、カレーのCMとかにも出てた。
あぁ、たしか『小野妹子』だ。
え?やってない?遣隋使42のセンターやってたじゃん。
え?妹子は男?どこの妹子だよ、それ。
ま、妹子の話は置いといてだ。
とりま、姫様を背中に乗せてイヤイヤ冒険に出たワケなのよ。
それからの毎日と言えばそりゃキツかったね。
だって十年間ずっとゴロゴロして遊んでたからさ。
体とか鈍ってるし、モンスターに襲われて慌てて逃げたら脚とか攣っちゃってさ。
ま、脚とかって、ぶっちゃけ脚しかないんだけど。
喉渇いても水とかあんま飲ませてくれないし、ハエとか身体に止まってくるし、不衛生極まりないワケよ、外の世界って言うのは。
それなのにウマの気も知らないで、姫様は毎日毎日戦いに明け暮れてさ。
言っとくけど、あれだよ?
妹子並みに可愛い姫様を背中に乗せてるって言っても、鞍の野郎が邪魔で肉体的接触とか一切無いからね。
何のご褒美も無いからね。ニンジン以外。
姫様の事は嫌いじゃないけど正直キツくなってきてさ。
はい、やめました。
ウマ太郎、脱兎のごとく逃げましたとも。
もー、やってらんね!
こんなブラックな長時間労働、ニンジンと干し草だけでやってられっか!
普段温厚なこのウマ太郎さんもとうとう、ぶちギレたってワケっすわ。
そっからは野生にでも返って、自由でも種付けでも謳歌してやろうって思ってたんだよなぁ。
…でも、不思議とさ。
一頭で夜の草原を歩いてる内に、だんだん寂しくなってね。
皆が目を覚ます前に戻ろうかとか悩んでたんだな。
もう少しすれば姫様だって冒険に飽きるかも知れないし、誰かが魔王っての?
そんな感じのヤツを倒して『世界に平和が訪れた!』的なエンディングになるかも知れないじゃん?
エンドクレジットにウマの名前は絶対載らないだろうけど。
そんなこと考えてたらさ、なんか遠くの方からめっさ足音が聞こえてきたワケ。
俺、馬だから耳とか超いいワケよ。
そんで俺、馬だから夜目とかも割りと利くワケ。
で、音のする方角を見てみた、そりゃもうスッゴい見てみた。
そしたらモンスターの大群が、事もあろうに姫様のいるテントに向かってるワケよ。いや、マジで。
ウマ太郎、焦ったね。そして豪快にチビったね。
そりゃだってさ。いくら姫様が強いって言ってもよ?
あんだけの数を相手に無事で済むワケがないからね。
あ、姫様死んだな。
そう思ったね。
だってそんなん、どーしよーもないじゃん?
俺、ただの馬だから。
どーしよーもない、どーしよーもない。
そんなことずっと思ってたらさ。
なんかモンスターの群れに全速力で突撃してたんよね。
俺、ただの馬だからさ。
走ること以外できねーよ。
剣をもって戦ったり、魔法ぶっ放したり、できねーよ。
俺が十年間、やってきた事と言えば。
『食って走って寝る』それだけ。
そんな生活に慣れきって、そんな生活に満足してた。
いや、そうじゃない。
満足したフリをしてたんだ。
でも、俺だってせっかく異世界に転生したんだ。
自分がこの世界にいる意味っつーか、なんつーか。
そんなもんをずっと探し求めてたんだよな。
ただデカいだけのウマの癖によ。
俺の十年間には何にもねー。
ただ、そんな俺にだって譲れねー事がある。
一頭の馬として、雄として、譲れねーモンがある。
それが仔馬の頃からずっと見てきたあの姫様の笑顔なんだって言ったら、お前ら笑うかな?
土煙をあげて連中の先頭を走ってたヤツを後ろ脚で蹴り上げると、俺は次に向かってきたヤツの首根っこに噛み付いて宙に放り投げ、そのまま地面に叩きつけてやった。
モンスターの数は、およそ五十匹あまり。
狼だったり、獣人だったり、色々だ。
獣人の突き出した槍を前脚を浮かせてかわすと、俺は体当たりで反撃した。
しかし、多勢に無勢。
気が付けば身体のあちこちには矢が刺さり、腹を槍で貫かれ、自慢の葦毛が血に染まってたっけ。
馬刺しっての、食った事ないけど旨いんかな。
モンスターと戦いながら、そんなバカな事ばかり考えてたな。
目が霞みはじめて、脚が動かなくなって、全身が痛くて、寒くて、視界がなんだか暗くなって。
あぁ、死ぬんだなって思った。
でも、俺は満足だったんだ。
五十匹いたモンスターの群れを半分以下にまで無力化出来たんだからな。
後はあの姫騎士様と護衛のバカどもが、なんとか、する…さ。
そうやって、俺の転生生活はやっと終わった。
別に鬱エンド、じゃねーぞ。
これはこれでハッピーエンドなのさ。
…さて。あの世でニンジンでも貪るか。
そして俺は意識を失った。
気が付いた時。
俺はやっぱり馬だった。
見慣れたテント、見慣れた護衛の男たち。
そして、俺の首に手をまわし、目にいっぱいの涙を溜めた姫様の顔が見えた。
「ウマ太郎っ‼」
(…だからその名で呼ぶなって)
俺は状況が理解できず、人間たちの説明を待った。
こう言う時は決まって人間たちが勝手に説明を始めるから馬的には楽だった。
「どうやら、奇跡的に間に合ったようですね」
姫様の護衛の一人、名前は忘れたが司祭のなんとかと言う男が言った。
「ありがとう!本当にありがとう!
ナントカ司祭様!」
どうしよう。
本当にナントカって名前だった。
「私の治癒魔法は傷付き、苦しんでいる者すべてに神の恩恵を与えるもの。
礼には及びませんよ、姫」
つまり、こう言う事か?
司祭は治癒魔法を馬一頭救う為に使ったと?
…馬鹿か、コイツは。
俺は正直、そう思った。
姫の代わりはどこにもいないが、馬の代わりはいくらでもいる。
もし、姫様に大事があった時、「馬に魔法を使ってたから救えませんでした」で済むと思ってるのか。
本当に無能な護衛を持つと姫様も苦労を…。
「無理なお願いを聞いて下さって、ありがとうございます」
え?
姫様があのハゲに頼んだの?
なんで、そんな事…。
俺は呆然として姫様を見詰めた。
特注品の銀の鎧に身を包み、その下に薄桃色の旅衣を着た可憐なれど勇ましき姫騎士様の姿を。
「ウマ太郎、もうあんな無茶はいけませんよ」
姫様はそう言うと俺の鬣を優しく撫でた。
さっきまでの戦いで荒ぶっていた心が不思議と安らぎを取り戻していく。
「あなたが居なくなってしまったら、誰が私を運んでくれると言うのです?」
そりゃ、他の馬だろ。
あんたは姫様、俺はただの馬。
命の重みがぜんぜん違うんだ。
それなのに、またそんなに泣いて。
姫様に笑ってほしくて頑張ったのに、泣かせてたんじゃ世話ないや。
「…これは誰にも言っていないけれど、弟のような貴方にだけは教えておきます」
姫様、何を言い出す気だろ?
まさか、まさか、ここにきて。
種族の差を越え身分の差を越え、ウマ太郎に愛の告白か?!
って、んなワケねーか。
俺の心臓は一ミリもトキメかなかった。
「この旅はね。
表向きはただの冒険旅行ですが、本当はそうではないの。
実は私、王国を追放された身なのです」
…はぁっ?!
その言葉の意味を理解するまで少し時間がかかった。
それは俺がただの馬だからではなく、ただの馬鹿だったからだ。
「今の父は二年前に就任した宰相の傀儡。
王国の実権を握っているのは悪魔のようなあの男、グラザインなの」
いや、ちょ、ちょっと待とうかお姫様。
一話完結のSSで、そんな伏線張られても困るんだが。
「彼は魔族と契約を結び、とても恐ろしい計画を実行にうつそうと」
「ヒヒヒィーーーーンッ‼」
(それ以上、もう喋んなっての!)
俺は必死の思いで嘶いた。
しかし。
「…そう。貴方もやっぱり許せないわよね。
仮にも王家に仕える者が魔族と手を結んでいるなんて」
(違うっ‼
これ以上、話を膨らますな!っつってんのっ‼)
俺は目と歯を思いきり剥き出しにした。
「まぁ、なんて凛々しい顔をするのウマ太郎。
そうなのね、私と一緒に戦ってくれると」
(だ、れ、が、戦うかーーーーーーーッ‼)
ウマ太郎の心の叫び、いや、嘶きはとうとう姫様の耳には届かなかったのであった。
おしまい
とりま、ヒマなら俺の話を聞いてってくれ。
あれは大体十年くらい前の事だった。
例によって死んでしまった俺は、例によって異世界に転生した。
ここまではいいだろ?よくあるテンプレだ。
美少女達に囲まれてのキャッキャウフフな生活。
ひとたび冒険に出ればチート能力で敵を瞬殺、強い上に超絶イケメン、ダラけていてもなんでも思い通り。
神は俺に二物どころかあらゆる物を与えたもうたのだっ‼
とか今頃言ってる筈だったんだ、これマジで。ホントにマジで。
でもさ、違ったんだわ。
神が俺に与えたのはチート能力でも、萌え系美少女でもなく、一本のニンジンだったんですよネー。
あの神、いつか蹴り殺す!
そして俺が生まれ変わった先というのが…。
「ウマヤドーノ!
赤ちゃんが生まれたってホント?!」
少女は馬小屋に駆け込むと、世話係のウマヤドーノに尋ねた。
「これは姫様。
このような所においでになっては、また叱られてしまいますぞ?」
そう言いながらもウマヤドーノは表情を綻ばせる。
「大丈夫よ。
今日はちゃんと御父様に御許しを頂いてきたわ」
生まれたばかりの仔馬と触れ合う事で、幼い姫に生命の尊さを学ばせたい。
そんな意図が王にはあったのかも知れない。
だが、そんな話を聞きながら俺は立ち上がるのに必死だった。
なんだ、この馬ってヤツらの習性は。
なんで転生してすぐ、こんなキツい目に遭わなきゃならんのだ。
もう、脚がガックガク。腰とかビックビク。
必死の形相で立ち上がろうとする俺を見ながら、大きな声で声援を送る姫。
「がんばって!がんばって!
立て!立つのよ!ウマ太郎っ‼」
(…精力剤みたいな名で呼ぶな!)
こうして二人は運命的ってワケでもない出会いを果たし、
国家権力を背負った幼い少女からの圧力により、俺は『ウマ太郎』と命名されたのだった。
それがね。
十年前の話なワケよ。
で、その十年間に俺が何してたかって言うとさ。
『食って走って寝てただけ』なんだわ、これマジで。
だって俺、超ウマじゃん?
神も俺をウマなんかにして何しろってんだよ、まったく。
昨日まではさ、そう思ってたんだよ。
それが今日になって突然。
「ウマ太郎、私と共に冒険の旅に出るわよ!」
とか、あの姫様が言い出したワケ。
いや、もう冒険とかさ。正直、どうでもよくね?って思ってるじゃん?
ウマ太郎的にはさ。
でもほら、養われてる身ってゆーか?
家畜的には逆らえないってゆーか?
あっという間に鞍つけられーの、手綱つけられーの、好き放題されたワケ。
あ、断っとくけど姫様はメチャクチャ可愛いのね。
とりま、芸能人で言うとあの子、あの子に似てるな。
名前は忘れたけど、あの子だよ。昔、グループでセンターやってた。
ほら、カレーのCMとかにも出てた。
あぁ、たしか『小野妹子』だ。
え?やってない?遣隋使42のセンターやってたじゃん。
え?妹子は男?どこの妹子だよ、それ。
ま、妹子の話は置いといてだ。
とりま、姫様を背中に乗せてイヤイヤ冒険に出たワケなのよ。
それからの毎日と言えばそりゃキツかったね。
だって十年間ずっとゴロゴロして遊んでたからさ。
体とか鈍ってるし、モンスターに襲われて慌てて逃げたら脚とか攣っちゃってさ。
ま、脚とかって、ぶっちゃけ脚しかないんだけど。
喉渇いても水とかあんま飲ませてくれないし、ハエとか身体に止まってくるし、不衛生極まりないワケよ、外の世界って言うのは。
それなのにウマの気も知らないで、姫様は毎日毎日戦いに明け暮れてさ。
言っとくけど、あれだよ?
妹子並みに可愛い姫様を背中に乗せてるって言っても、鞍の野郎が邪魔で肉体的接触とか一切無いからね。
何のご褒美も無いからね。ニンジン以外。
姫様の事は嫌いじゃないけど正直キツくなってきてさ。
はい、やめました。
ウマ太郎、脱兎のごとく逃げましたとも。
もー、やってらんね!
こんなブラックな長時間労働、ニンジンと干し草だけでやってられっか!
普段温厚なこのウマ太郎さんもとうとう、ぶちギレたってワケっすわ。
そっからは野生にでも返って、自由でも種付けでも謳歌してやろうって思ってたんだよなぁ。
…でも、不思議とさ。
一頭で夜の草原を歩いてる内に、だんだん寂しくなってね。
皆が目を覚ます前に戻ろうかとか悩んでたんだな。
もう少しすれば姫様だって冒険に飽きるかも知れないし、誰かが魔王っての?
そんな感じのヤツを倒して『世界に平和が訪れた!』的なエンディングになるかも知れないじゃん?
エンドクレジットにウマの名前は絶対載らないだろうけど。
そんなこと考えてたらさ、なんか遠くの方からめっさ足音が聞こえてきたワケ。
俺、馬だから耳とか超いいワケよ。
そんで俺、馬だから夜目とかも割りと利くワケ。
で、音のする方角を見てみた、そりゃもうスッゴい見てみた。
そしたらモンスターの大群が、事もあろうに姫様のいるテントに向かってるワケよ。いや、マジで。
ウマ太郎、焦ったね。そして豪快にチビったね。
そりゃだってさ。いくら姫様が強いって言ってもよ?
あんだけの数を相手に無事で済むワケがないからね。
あ、姫様死んだな。
そう思ったね。
だってそんなん、どーしよーもないじゃん?
俺、ただの馬だから。
どーしよーもない、どーしよーもない。
そんなことずっと思ってたらさ。
なんかモンスターの群れに全速力で突撃してたんよね。
俺、ただの馬だからさ。
走ること以外できねーよ。
剣をもって戦ったり、魔法ぶっ放したり、できねーよ。
俺が十年間、やってきた事と言えば。
『食って走って寝る』それだけ。
そんな生活に慣れきって、そんな生活に満足してた。
いや、そうじゃない。
満足したフリをしてたんだ。
でも、俺だってせっかく異世界に転生したんだ。
自分がこの世界にいる意味っつーか、なんつーか。
そんなもんをずっと探し求めてたんだよな。
ただデカいだけのウマの癖によ。
俺の十年間には何にもねー。
ただ、そんな俺にだって譲れねー事がある。
一頭の馬として、雄として、譲れねーモンがある。
それが仔馬の頃からずっと見てきたあの姫様の笑顔なんだって言ったら、お前ら笑うかな?
土煙をあげて連中の先頭を走ってたヤツを後ろ脚で蹴り上げると、俺は次に向かってきたヤツの首根っこに噛み付いて宙に放り投げ、そのまま地面に叩きつけてやった。
モンスターの数は、およそ五十匹あまり。
狼だったり、獣人だったり、色々だ。
獣人の突き出した槍を前脚を浮かせてかわすと、俺は体当たりで反撃した。
しかし、多勢に無勢。
気が付けば身体のあちこちには矢が刺さり、腹を槍で貫かれ、自慢の葦毛が血に染まってたっけ。
馬刺しっての、食った事ないけど旨いんかな。
モンスターと戦いながら、そんなバカな事ばかり考えてたな。
目が霞みはじめて、脚が動かなくなって、全身が痛くて、寒くて、視界がなんだか暗くなって。
あぁ、死ぬんだなって思った。
でも、俺は満足だったんだ。
五十匹いたモンスターの群れを半分以下にまで無力化出来たんだからな。
後はあの姫騎士様と護衛のバカどもが、なんとか、する…さ。
そうやって、俺の転生生活はやっと終わった。
別に鬱エンド、じゃねーぞ。
これはこれでハッピーエンドなのさ。
…さて。あの世でニンジンでも貪るか。
そして俺は意識を失った。
気が付いた時。
俺はやっぱり馬だった。
見慣れたテント、見慣れた護衛の男たち。
そして、俺の首に手をまわし、目にいっぱいの涙を溜めた姫様の顔が見えた。
「ウマ太郎っ‼」
(…だからその名で呼ぶなって)
俺は状況が理解できず、人間たちの説明を待った。
こう言う時は決まって人間たちが勝手に説明を始めるから馬的には楽だった。
「どうやら、奇跡的に間に合ったようですね」
姫様の護衛の一人、名前は忘れたが司祭のなんとかと言う男が言った。
「ありがとう!本当にありがとう!
ナントカ司祭様!」
どうしよう。
本当にナントカって名前だった。
「私の治癒魔法は傷付き、苦しんでいる者すべてに神の恩恵を与えるもの。
礼には及びませんよ、姫」
つまり、こう言う事か?
司祭は治癒魔法を馬一頭救う為に使ったと?
…馬鹿か、コイツは。
俺は正直、そう思った。
姫の代わりはどこにもいないが、馬の代わりはいくらでもいる。
もし、姫様に大事があった時、「馬に魔法を使ってたから救えませんでした」で済むと思ってるのか。
本当に無能な護衛を持つと姫様も苦労を…。
「無理なお願いを聞いて下さって、ありがとうございます」
え?
姫様があのハゲに頼んだの?
なんで、そんな事…。
俺は呆然として姫様を見詰めた。
特注品の銀の鎧に身を包み、その下に薄桃色の旅衣を着た可憐なれど勇ましき姫騎士様の姿を。
「ウマ太郎、もうあんな無茶はいけませんよ」
姫様はそう言うと俺の鬣を優しく撫でた。
さっきまでの戦いで荒ぶっていた心が不思議と安らぎを取り戻していく。
「あなたが居なくなってしまったら、誰が私を運んでくれると言うのです?」
そりゃ、他の馬だろ。
あんたは姫様、俺はただの馬。
命の重みがぜんぜん違うんだ。
それなのに、またそんなに泣いて。
姫様に笑ってほしくて頑張ったのに、泣かせてたんじゃ世話ないや。
「…これは誰にも言っていないけれど、弟のような貴方にだけは教えておきます」
姫様、何を言い出す気だろ?
まさか、まさか、ここにきて。
種族の差を越え身分の差を越え、ウマ太郎に愛の告白か?!
って、んなワケねーか。
俺の心臓は一ミリもトキメかなかった。
「この旅はね。
表向きはただの冒険旅行ですが、本当はそうではないの。
実は私、王国を追放された身なのです」
…はぁっ?!
その言葉の意味を理解するまで少し時間がかかった。
それは俺がただの馬だからではなく、ただの馬鹿だったからだ。
「今の父は二年前に就任した宰相の傀儡。
王国の実権を握っているのは悪魔のようなあの男、グラザインなの」
いや、ちょ、ちょっと待とうかお姫様。
一話完結のSSで、そんな伏線張られても困るんだが。
「彼は魔族と契約を結び、とても恐ろしい計画を実行にうつそうと」
「ヒヒヒィーーーーンッ‼」
(それ以上、もう喋んなっての!)
俺は必死の思いで嘶いた。
しかし。
「…そう。貴方もやっぱり許せないわよね。
仮にも王家に仕える者が魔族と手を結んでいるなんて」
(違うっ‼
これ以上、話を膨らますな!っつってんのっ‼)
俺は目と歯を思いきり剥き出しにした。
「まぁ、なんて凛々しい顔をするのウマ太郎。
そうなのね、私と一緒に戦ってくれると」
(だ、れ、が、戦うかーーーーーーーッ‼)
ウマ太郎の心の叫び、いや、嘶きはとうとう姫様の耳には届かなかったのであった。
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【※造りが上手いて事ダヨ。】
(=^・^=)。
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【※美味いけど…毒入りでは無い、事の例え。】