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突然の便り
しおりを挟む拝啓 にんげん様。
早春の候、皆様にはますますご健勝のこととお喜び申し上げます。
さて、本日お便りを差し上げたのは他でもありません。
長年に渡って私共とにんげん様との間に生じている幾つかの誤解を解きたい一心で、筆を執らせて頂いた次第で御座います。
乱筆故にお見苦しい点もあるかと存じますが、何卒ご容赦くださいませ。
ネズミへの誤解と真実
『チーズが好き』
多くのにんげん様が誤解されておられるのが私共ネズミの嗜好品かと思います。
皆様には意外かも知れませんが、私共はチーズが特別好きではありません。
あの鼻の曲がるような強烈な臭さと言ったら、苦手な者の方が多いくらいです。
特にブルーチーズなど、グルメな私共にとっては言語道断。
それなのにお飼いのハムスター達に、にんげん様は拷問のようにカビの生えたチーズをお与えになられます。
あんな臭いものを美味しそうに食べられるのは、私共より色んな感覚が麻痺しているにんげん様くらいのモノです。
どこで間違った情報が伝わったのかは解りませんが、グルメな私共は穀物や糖質を含んだ甘い御菓子を好んで食します。
努々、お忘れなきよう切にお願い申し上げます。
寒暖定まらぬ時期ですので、どうぞお身体ご自愛ください。 敬具
ネズミより
拝啓、にんげん様。
爽やかな初夏を迎え、木々の緑も日増しに深くなってまいりました。ご一同様には、なお一層お健やかにお過ごしのことと存じます。
この度お便りを差し上げたのは他でもありません。
私共、カタツムリとにんげん様との間に長年続いている誤解に一言申し上げたく、こうして筆を執らせて頂きました。
種族が異なれば見える世界も違うもの。
私共は寄り添い合える共存共栄の関係性とぬめり気を、何より大切に考えております。
カタツムリへの誤解と真実
『アジサイが好き』
にんげん様の勝手なイメージとは異なるかと存じますが、私共はアジサイが特に好きと言うワケでは御座いません。
ご存知のようにアジサイの葉っぱには毒があります。
したがって一部の下手物好きの輩以外でこれを食する者はおりません。
ですからどうか私共を見掛けても、強引にアジサイの上に乗せて写真を撮ったりしないでください。
乗せるのであれば美味しい野菜の葉っぱの上、もしくはカルシウムをたっぷり含んだコンクリートの上が好ましいです。
最後にもう一つ申し上げたいのですが、私共がナメクジさんの祖先にあたると言うことをどうぞ覚えておいてください。
ナメクジさんが先ではありません。
ナメクジさんが殻を脱ぎ捨て、新たな種として私共から進化されたので御座います。
だからと言って私共の殻をはがして、ナメクジとして生きれるかとお試しになるのはやめてください。
殻を剥がされると内臓も一緒に引きちぎられて死んでしまいます。
大量の塩でもナメクジさん同様に死んでしまうので、わざわざ試そうとしないでください。
私共もひとつの命、生き物です。
努々、お忘れなきように。
梅雨の晴れ間の美しい青空に夏らしさを覚える昨今、どうぞお健やかにお過ごしください。 敬具
カタツムリより
おい、にんげん。
おれたちはゴキブリ、ハエ、ムカデの、にんげん被害者の会だ。
お前達に日々嫌われ、仲間を虐殺され、これまで溜めに溜め込んだ鬱憤をぶつける為に手紙を書いてきてやった。
これを読んでよく反省したら、もう殺虫剤なんて使うんじゃねえぞ!
べ、別に怖くて言ってるワケじゃないからな?!
害虫たちへの誤解と真実
『気持ち悪いだと?ふざけんな!』
お前ら、日頃から生き物の命を大切にしましょうとか、人の嫌がることをしてはいけませんとか子供に教えてるそうだな?
けどよ、その裏で殺虫剤振りかざして俺たちを追い回すってのは一体どういう了見だ?
不潔だ、キモいだ、あり得ないだぁ?!
お前らのやってることの方がよっぽどあり得ねーよっ!
同じ昆虫でもカブトムシやクワガタは『カッコいい』って評価なのに、ちょっと見た目の好みが合わないってだけで俺たちは完全に悪者扱い。
命の尊さや慈愛の精神はどこ行ったんだよ?
増えると困るから殺す、バイ菌を持ってるから殺すって?
お前らはそうやって殺されて、仕方ねえなって納得して死ねるのかよ。
この際だからはっきり言ってやる。
お前たちこそ、この星にはびこる一番の害虫だ。
自然を不自然で破壊する欲望のかたまり、それがお前らの本質だよ。
必要以上に殺し、必要以上に奪い、必要以上に壊す。
ここは生き物みんなの星なんだ。
お前らだけのものじゃない。
だからとっとと台所を俺たちに明けわた…。
(そこから先は何も書かれていない。
代わりにゴキブリのものと思われる、つぶれた触覚が一本挟まれているだけだった)
拝啓、にんげん様。
元気に増殖してるかな?
私は神様です。
この前のゴキブリくんからの手紙を読んだ後。
君たちが何を感じ、どう暮らしていくのか、この数週間と少しのあいだ観察していました。
しかし、とても残念なことに君たちは何も変わらなかった。
相変わらずつまらないことで傷付け合い、どうでもいいことで奪い合い、我欲を満たすためだけに生きてきましたね。
不完全であるがゆえに君たちは悩み、不完全であるがゆえに君たちは恐れ、不完全であるがゆえに君たちはもっとも学ぶべきことから目を背けてしまった。
こうなってしまってはもう、どうすることも出来ない。
だから今日で世界を終わらせます。
君たちが手紙を受け取ってからきっかり一時間後。
この星からひとり残らず人類は死滅するのです。
それでは残りわずかな余生を、悔いのないよう過ごしてください。
自分だけは助かろうなんて無駄なことは考えないこと。
他者の命をいたずらに奪ったものは同じ境遇をたどり、ことごとくその罪を裁かれる。
これは長い時間をかけた、そういう実験だったのです。
神様より
拝啓、神様。
神様、どうか、どうか、お願いです。
私たちを殺さないでください。
私たちはたしかに害虫たちをたくさん殺しました。
増えすぎた犬や猫、野性動物を自分たちの都合で殺しました。
魚や家畜を大量に殺して、食べきれなかった肉をたくさん捨てました。
森の樹を伐り、川を汚し、海や山にゴミを捨てました。
そこに生きるもの達のすみかを奪いました。
ただ生きると言うだけの目標がいつしか、よりよく豊かに生きること、他の者より幸せな人生を歩むことへと変わっていきました。
そしてそのために、他のあらゆる自然や生物、他人を利用してきました。
私たちは弱く、狡く、そして愚かでした。
今は心から無念に思い、悔恨の涙を止める術すら持ちません。
神よ、それでもにんげんは。
私たちは授かった命のもと、せいいっぱい最善を尽くして生きてきたつもりです。
一人一人が未来を夢見て、希望を掲げて、病や老い、多くの不幸と戦いながら、愛するもの達のために強くあろうと生きてきたのです。
この身がたとえどれだけの罪に穢れようとも、そうしなければ我々は生きられなかった。
他の生物を殺さなければ生きていけなかった。
大昔にあなたが望まれたように、ここまで繁栄することなどできなかった。
綺麗事だけでは己を、家族を、友人を、大切なものを守れなかったのです。
だって、それこそがこの世の真理ではありませんか。
この世をそうお創りになったのは何より、あなたご自身ではありませんか?!
死ぬのは嫌だ、死にたくない!
もう蟻の子一匹、誓って殺したり致しません。
神よ、どうかお慈悲を、お慈悲を。
あわれな子羊に救いの御手を差し伸べたまえ‼
か弱きにんげんより
その日。
宛先のない手紙を大量に残して、人類は滅亡した。
了
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