23 / 23
第三章 未知なる宇宙の存在たち
第21話 宇宙の楽器
ルミナス・プリズムが去ってから三日目。
ミレイは自室の窓際に座り、流れゆく星々を眺めていた。
手のひらを膝の上に置き、呼吸を整えている。父から教わった瞑想の姿勢。いつもなら心が静まるはずのこの時間が、今日は違った。
「光と闇、善と悪、正義と不正義...」
プリズムの言葉が、脳裏から離れない。
『すべてを二つに分け、必ず片方を「良い」とし、もう片方を「悪い」とする』
それは水面に落ちた石のように、心の奥底に波紋を広げ続けていた。
ミレイの内側には、確かに「分けたがる心」があった。機械化された人々を「不自然」と感じ、富裕層を「傲慢」と決めつけ、過激派を「危険」と恐れていた。それは、まるで川を堰き止めようとする行為に似ていた。流れを分断し、一方を清流と呼び、他方を濁流と名づける。でも、本当にそれだけだろうか?
コン、コン。
ドアをノックする音。ミレイが目を開けると、キャプテン・リードが立っていた。
「ミレイ、少しいいか?」
「はい、船長」リードは部屋に入ると、窓の外を見つめた。
彼の左腕—機械化された腕—が、微かに光を反射している。その光は、まるで彼自身の内側にある何かが、抑えきれずに漏れ出しているようだった。
「私は...戦争で左腕を失った。機械化を選んだ。それは『正しい』選択だったと、ずっと信じていた。でも今は...分からない」
ミレイは何も言えなかった。言葉は、時として沈黙よりも空虚だ。
「明日、新しい星系に到着する」リードは続けた。
「そこには、メロディオン人という宇宙人が住んでいる。彼らは...音と振動で生きている種族だ。我々とは全く異なる存在の仕方をしている」
「また…」ミレイの声は小さかった。「また、私たちの欠点を突きつけられるのでしょうか?」
リードは振り返り、ミレイの目を見た。その瞳の奥には、諦念と希望が、まるで水と油のように混ざり合わずに浮かんでいた。
「違う。プリズムは私たちに『問いかけ』をしたのだ。答えを見つけるのは、私たち自身だ」
翌朝—いや、宇宙には朝も夜もない。ただ、船の時計が人工的に区切った「朝」という名の時間が訪れた。
ブリッジでは、科学官が観測データに目を凝らしていた。
「船長、メロディオン星系まで、あと三時間です」
その言葉に、ブリッジにいた人々の視線が、一斉に前方のスクリーンに向けられた。
まだ、何も見えない。ただ、無数の星々が、永遠の沈黙の中で輝いているだけだった。
ミレイは、その星々を見つめながら思った。これらの光は、何百年、何千年も前に放たれたものだ。今、自分が見ているのは「過去」であり、その星はもう存在しないかもしれない。時間と空間は、こうして常に私たちを欺く。
「船長!」科学官が再び声を上げた。その声には、微かな震えがあった。
「星系の端に、到達しました」
スクリーンが切り替わる。
そして—人々は、息を呑んだ。
前方に、巨大な星雲が広がっていた。
それは「色」と呼ぶには、あまりにも複雑すぎた。虹のすべての色が、まるで生きているかのように蠢き、混ざり合い、分離し、また融合する。赤が青に溶け込み、緑が紫を抱きしめ、黄色が橙に変化していく。色彩の饗宴。光の乱舞。
「これが...メロディオン星雲」科学官が呟いた。
星雲は、ゆっくりと脈動していた。まるで、巨大な生命体の心臓のように。あるいは、宇宙そのものが呼吸しているかのように。
拡がる—
収縮する—
また拡がる—
そのリズムは、不思議なほど規則的だった。
ザック・ブラックウッドが、機械化された左腕を握りしめた。「何だ、あれは」
「星雲全体が...振動している」科学官が計器を確認する。「いや、違う。これは...音波だ。星雲全体が、一つの巨大な音を発している!」
「音?」
宇宙空間には、音を伝える媒質がない。真空の中では、どんな爆発も、どんな叫びも、完全な沈黙のうちに起こる。
しかし—船のセンサーが拾っていた。何かを…
それは音波ではなく、電磁波でもなく、もっと根源的な「振動」だった。空間そのものが震えている。時間そのものが波打っている。
「船長!」通信士が震える声で報告した。
「船体が...共鳴しています!」
「共鳴?」リードが眉をひそめた。
「はい。星雲からの振動に、船全体が反応しています。船体の金属、内部の空気、すべてが...」
その瞬間—
ヴォォォォォォォン...
船内に、低い音が響いた。
それは機械的な音ではなかった。まるで、巨大な鐘が、遥か彼方で鳴らされたような—あるいは、地球の奥底で眠る何かが、目覚めようとしているような—そんな、根源的な響き。
人々は、自分の体が震えているのを感じた。
骨が、内臓が、血液が、細胞が—すべてが、その音に共鳴している。
「これは...」スターリングが呟いた。
彼女の機械化された体でさえ、震えていた。「音...なの?」
科学官が、慌ててデータを確認する。
「星雲の中心に...惑星があります。距離、約二光時。観測データによれば...」
言葉が詰まった。
「どうした!」リードが促す。
「その惑星は...常に振動しています。大気、海洋、地殻、すべてが同期して震えている。まるで、惑星全体が一つの...」
「…楽器」ミレイが、小さく呟いた。
その言葉に、人々が振り向く。
ミレイは、スクリーンを見つめたまま続けた。
「あの惑星は、一つの巨大な楽器なんだわ!そして、宇宙そのものを...演奏している!」
ミレイは自室の窓際に座り、流れゆく星々を眺めていた。
手のひらを膝の上に置き、呼吸を整えている。父から教わった瞑想の姿勢。いつもなら心が静まるはずのこの時間が、今日は違った。
「光と闇、善と悪、正義と不正義...」
プリズムの言葉が、脳裏から離れない。
『すべてを二つに分け、必ず片方を「良い」とし、もう片方を「悪い」とする』
それは水面に落ちた石のように、心の奥底に波紋を広げ続けていた。
ミレイの内側には、確かに「分けたがる心」があった。機械化された人々を「不自然」と感じ、富裕層を「傲慢」と決めつけ、過激派を「危険」と恐れていた。それは、まるで川を堰き止めようとする行為に似ていた。流れを分断し、一方を清流と呼び、他方を濁流と名づける。でも、本当にそれだけだろうか?
コン、コン。
ドアをノックする音。ミレイが目を開けると、キャプテン・リードが立っていた。
「ミレイ、少しいいか?」
「はい、船長」リードは部屋に入ると、窓の外を見つめた。
彼の左腕—機械化された腕—が、微かに光を反射している。その光は、まるで彼自身の内側にある何かが、抑えきれずに漏れ出しているようだった。
「私は...戦争で左腕を失った。機械化を選んだ。それは『正しい』選択だったと、ずっと信じていた。でも今は...分からない」
ミレイは何も言えなかった。言葉は、時として沈黙よりも空虚だ。
「明日、新しい星系に到着する」リードは続けた。
「そこには、メロディオン人という宇宙人が住んでいる。彼らは...音と振動で生きている種族だ。我々とは全く異なる存在の仕方をしている」
「また…」ミレイの声は小さかった。「また、私たちの欠点を突きつけられるのでしょうか?」
リードは振り返り、ミレイの目を見た。その瞳の奥には、諦念と希望が、まるで水と油のように混ざり合わずに浮かんでいた。
「違う。プリズムは私たちに『問いかけ』をしたのだ。答えを見つけるのは、私たち自身だ」
翌朝—いや、宇宙には朝も夜もない。ただ、船の時計が人工的に区切った「朝」という名の時間が訪れた。
ブリッジでは、科学官が観測データに目を凝らしていた。
「船長、メロディオン星系まで、あと三時間です」
その言葉に、ブリッジにいた人々の視線が、一斉に前方のスクリーンに向けられた。
まだ、何も見えない。ただ、無数の星々が、永遠の沈黙の中で輝いているだけだった。
ミレイは、その星々を見つめながら思った。これらの光は、何百年、何千年も前に放たれたものだ。今、自分が見ているのは「過去」であり、その星はもう存在しないかもしれない。時間と空間は、こうして常に私たちを欺く。
「船長!」科学官が再び声を上げた。その声には、微かな震えがあった。
「星系の端に、到達しました」
スクリーンが切り替わる。
そして—人々は、息を呑んだ。
前方に、巨大な星雲が広がっていた。
それは「色」と呼ぶには、あまりにも複雑すぎた。虹のすべての色が、まるで生きているかのように蠢き、混ざり合い、分離し、また融合する。赤が青に溶け込み、緑が紫を抱きしめ、黄色が橙に変化していく。色彩の饗宴。光の乱舞。
「これが...メロディオン星雲」科学官が呟いた。
星雲は、ゆっくりと脈動していた。まるで、巨大な生命体の心臓のように。あるいは、宇宙そのものが呼吸しているかのように。
拡がる—
収縮する—
また拡がる—
そのリズムは、不思議なほど規則的だった。
ザック・ブラックウッドが、機械化された左腕を握りしめた。「何だ、あれは」
「星雲全体が...振動している」科学官が計器を確認する。「いや、違う。これは...音波だ。星雲全体が、一つの巨大な音を発している!」
「音?」
宇宙空間には、音を伝える媒質がない。真空の中では、どんな爆発も、どんな叫びも、完全な沈黙のうちに起こる。
しかし—船のセンサーが拾っていた。何かを…
それは音波ではなく、電磁波でもなく、もっと根源的な「振動」だった。空間そのものが震えている。時間そのものが波打っている。
「船長!」通信士が震える声で報告した。
「船体が...共鳴しています!」
「共鳴?」リードが眉をひそめた。
「はい。星雲からの振動に、船全体が反応しています。船体の金属、内部の空気、すべてが...」
その瞬間—
ヴォォォォォォォン...
船内に、低い音が響いた。
それは機械的な音ではなかった。まるで、巨大な鐘が、遥か彼方で鳴らされたような—あるいは、地球の奥底で眠る何かが、目覚めようとしているような—そんな、根源的な響き。
人々は、自分の体が震えているのを感じた。
骨が、内臓が、血液が、細胞が—すべてが、その音に共鳴している。
「これは...」スターリングが呟いた。
彼女の機械化された体でさえ、震えていた。「音...なの?」
科学官が、慌ててデータを確認する。
「星雲の中心に...惑星があります。距離、約二光時。観測データによれば...」
言葉が詰まった。
「どうした!」リードが促す。
「その惑星は...常に振動しています。大気、海洋、地殻、すべてが同期して震えている。まるで、惑星全体が一つの...」
「…楽器」ミレイが、小さく呟いた。
その言葉に、人々が振り向く。
ミレイは、スクリーンを見つめたまま続けた。
「あの惑星は、一つの巨大な楽器なんだわ!そして、宇宙そのものを...演奏している!」
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【なろう490万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ
海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。
衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。
絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。
ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。
大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。
はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?
小説家になろうSF(パニック)部門にて490万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。
カクヨムのSF部門においても高評価いただき100万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。