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1章
第18話:牙と爪、開戦前夜
しおりを挟む夜の静寂。
空には星一つ見えず、風は凍てつくように冷たい。
フェンリース村の結界の外、木々の間に人影が浮かぶ。
それは、帝国軍先遣部隊の斥候たち。重装の気配もなく、まるで影そのもののように動いていた。
「……結界、やはり異常に強固だ。範囲は村全体……いや、それ以上か」
斥候の一人が報告の術符を手に取る。
「どうする? 討ち入るか?」
「無駄だ。あれは“防衛陣”じゃない。“迎撃陣”だ。……一歩踏み込めば、命はない」
そう語るその男の肩に、ぴたりと冷気が触れた。
「……っ!?」
その瞬間、何かが宙を滑る。
次の瞬間——雷鳴のような咆哮が、森を切り裂いた。
紅蓮の竜、フレアが翼を広げて宙を舞い、咆哮とともに周囲を焼き払う。
熱と威圧、魔力の奔流が、帝国軍の先遣隊を一撃で吹き飛ばした。
同じ頃、村の中。
ユリウスは結界の中心で、膨大な魔力を調整していた。
全方向に展開された【魔力識別陣】と【反応式魔弾陣】。
さらに、リリアが精霊術を用いて村の防壁に“風と水の加護”を流し込む。
「これほどの術式群……あなた一人で設計されたのですか?」
「ああ。戦場では、無駄な応援など来ない。自分の身は、自分で守る」
ユリウスの魔力は安定していた。だが、その奥にある“静かな怒り”を、リリアは感じ取っていた。
「……あなたは、優しすぎるのです」
「……それは侮辱か?」
「いえ、敬意です」
一方、セラは剣を握りしめながら、村の外壁の上に立っていた。
初めて見る“戦争”の気配に、足が震える。それでも、逃げないと決めた。
誰かが、村の背を守らなければならない。
ユリウスだけに、すべてを背負わせたくない。
「……来るなら、かかってこい。あたしはもう、何も捨てない!」
そして――森の彼方。
ラグナ=ベイルが、軍を率いて立っていた。
その背後には、黒い鎧に身を包んだ兵が並ぶ。
魔導機兵、投槍部隊、精鋭の剣兵。いずれも帝国の名誉と実力を兼ね備えた者たち。
「ようやく面白くなってきた……なあ、ユリウス=グレイ。
あんたが“魔王の末裔”なら——その実力、見せてみろよ」
ラグナの掌に、禍々しい魔力が集う。
人とは思えぬ獣性。その背には、角と尾がうっすらと浮かび始めていた。
開戦は、すぐそこに迫っていた。
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