上 下
3 / 34

3

しおりを挟む
それから、私達は庭にあるテラス席でお茶をすることになった。テーブルには、紅茶やお菓子が用意されており、とても美味しそうだ。
「さあ、どうぞ召し上がれ」
「ありがとうございます、いただきます」
父に促され、私は目の前にあるカップを手に取るとゆっくりと口を付けた。口の中に広がる甘い味と鼻を通り抜けていく香りに頬が緩む。
「美味しいです」
「そう、それは良かったわ」
嬉しそうに微笑む母の顔を見て、私もつられて笑顔になる。こうして両親と一緒に過ごす時間は久しぶりなので何だか嬉しい気持ちになるな。そう思いながら、再びカップに口をつけた時だった。
「それにしても、随分と顔色が良くなりましたね」
ふいに、父の口から出た言葉に私は動きを止めた。一瞬何を言われたのか分からなくて固まっていると、今度は母が口を開く。
「そうね、一時はどうなることかと思ったけど無事に治ってくれて安心したわ」
「・・・え?」
まさか、二人は私のことを心配してくれていたのだろうか?そう思うと胸が熱くなるのを感じた。それと同時に、嬉しさが込み上げてきて涙が出そうになるがグッと堪える。今は泣いてる場合じゃないもんね。ちゃんと二人にお礼を言わなきゃ!
「お父様、お母様、ご心配をおかけしてしまい申し訳ございませんでした。そして、私を助けてくれてありがとうございました!!」
私は深々と頭を下げると感謝の気持ちを伝えた。それを聞いた両親は顔を見合わせると照れくさそうに笑った後、私に優しく微笑みかけてくれたのだった。
その後、私達は他愛もない話をしながらお茶を楽しんでいたのだが、しばらくしてあることに気づいた。さっきから、クレアの様子がおかしいのだ。なんというか、そわそわしているというか落ち着きがないように見えるんだけど気のせいかな?心なしか顔も赤いような気がするし風邪でも引いたのかな?だとしたら大変だ!!「ねえ、クレア。ちょっといいかな?」
「はい、何でしょうか?」
私が声をかけると、彼女は慌ててこちらを向いた。やっぱり顔が赤く見えるな。もしかして、熱があるのかもしれないと思い彼女の額に手をあててみることにした。
「・・・っ!?」
その瞬間、クレアの顔が真っ赤に染まり上がったのを見て思わず首を傾げる。どうしたんだろう?なんだか様子が変だけど大丈夫かしら?
「お嬢様、あの、えっと・・・」
あたふたしながら何かを言おうとしているが上手く言葉にならないようだ。そんな彼女の様子を見てますます疑問を感じる私だったが、とりあえず彼女を落ち着かせようと頭を撫でることにした。よしよし、いい子だね~♪
「ひゃうっ!?」
ビクッと身体を震わせた後、力が抜けたようにぐったりともたれかかってくる姿を見て私は慌てた。どうやら気絶してしまったらしい。どうしよう!?誰か助けてください!!
「マリア」
不意に名前を呼ばれ振り返ると、そこには微笑みを浮かべている両親が立っていた。それを見てホッと胸を撫で下ろす私だったが、次の瞬間には別の意味で心臓が跳ね上がることになる。なぜなら、両親が何故か自分達の膝の上に座れと言ってきたからだ。しかも、拒否権はないらしく有無を言わせない様子だったので仕方なく従うことにする事にした。しかし、いざ座ってみると恥ずかしさのあまり逃げ出したくなる衝動に駆られる。うう、恥ずかしいよぉ……/// それでも何とか我慢していると、不意に頭を撫でられたので顔を上げると目の前には優しく微笑む両親の顔があった。その顔を見た瞬間、胸の奥がきゅっと締め付けられるような感覚がした気がしたが気のせいだろうか?しばらく見つめ合っているうちに段々と恥ずかしくなってきたので目を逸らすと今度は後ろから抱きしめられてしまった。驚いて振り向くとそこにはクレアの姿があり、彼女も顔を真っ赤に染め上げていた。それを見た途端、私の顔まで熱くなってきてしまい頭の中が真っ白になってしまった。
なんでだろう?どうしてこんなにもドキドキするんだろう?分からない……何も考えられない……ただ一つだけ言えることは、今すごく幸せな気分だということだけだ。このまま時間が止まってしまえばいいのにと思ってしまうくらいに心地よい気分だと思った瞬間だった。急に眠気に襲われた私は抗うことが出来ずにそのまま意識を手放してしまったのだった。
目が覚めると見慣れた天井が見えた。ここは私の部屋だと気づくと同時に昨日のことを思い出す。
(そっか、昨日あのまま寝ちゃったんだ……)
ぼんやりとした頭で考えていると、ふと隣に人の気配を感じたので視線を向けてみるとそこには気持ちよさそうに眠っているクレアの姿があった。その姿を見た瞬間、一気に頭が覚醒するのを感じた私は慌てて飛び起きると、ベッドから降りようとしたところで腕を掴まれたかと思うと引き寄せられてしまった。
しおりを挟む

処理中です...