タネツケ世界統一 下品な名前で呼ばれてるけど、俺、世界を救うみたいです

進常椀富

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第二章 女神の揺籃 イシュタルテア

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 森のなかにパンパンと銃声が鳴り響いた。
 この音はイリアンの銃だ。
 俺たちはモンスターの巣を発見し、掃討作戦に移っていた。
 いまのところ、俺の仕事はない。  
 木陰に座ってポットで紅茶用の湯を沸かしていた。
 隣ではペルチオーネが、シロップ漬けのチェリーが載った焼き菓子をほお張っている。
 もごもご咀嚼しながらペルチオーネが言う。
「これおいしー! マスター、これもっとない?」
 俺はお菓子の詰まった大きな包みを二つ差し出してやった。
「探せばあるだろ。でも全部食べるなよ?」
「えー、もっと持ってくればよかったのにー」
 実のところ、包みはもうひとつ残してある。
 コイツなら、あるだけ全部食べてしまいかねない。
 ペルチオーネが目を輝かせて包みを開けていると、ヒサメの声が聞こえてきた。
「タネツケ、来てくれー」
 別に切羽詰まった様子じゃない。
「わかった、いま行く」
 俺は返事をして立ち上がった。
 傍らでペルチオーネがむくれる。
「えー、めんどくさーい」
「なんならおまえは待っていてもいいぞ」
「本体から離れると余計なエネルギー使うもーん」
 けっきょく、お菓子を両手に一個ずつ持って、ペルチオーネもついてきた。
 洞窟の前まで行くと、みんながそろっていた。
 周りには苔の山のようなものがいくつも転がっている。
 退治したモンスターのなれの果てだった。
 小型拳銃を両手で持ったまま、少し青ざめた顔でイリアンが言った。
「やっぱり銃って怖いです」
 そこをマトイが励ます。
「でもスジいいよ。ほとんど外してないもん」
 自分の大型拳銃の弾倉を交換しながら続ける。
「この銃はイマイチかな。反動が大きくて使いにくいよ」
 マトイの隣でアデーレが申しわけなさそうにつぶやく。
「す、すいません、わたしまだ何にもしてなくて……」
 確かに剣は綺麗に輝いている。
 俺は慰めの声をかけた。
「射撃手が三人もいるんだから、そうそう接近戦にはならないだろ。ところで俺はなんで呼ばれたんだ?」
 弓を持ったヒサメが洞窟から出てきて言った。
「外に出てきたヤツはみんな退治した。洞窟のなかを調べようと思うんだが、おまえ明かりの魔法を覚えただろう、この前。使ってくれ」
「そういえば、照明なんて持ってこなかったな」
 俺は答えて、ペルチオーネを振り返る。
「いくぞ、ペルチオーネ」
 ペルチオーネは低い声でぶつぶつ言ったあと、持ってきたお菓子を口に詰め込んだ。
 準備が出来たようなので、ペルチオーネを引き抜く。
 剣を掲げて、刀身を目標にして光の魔法を発動させた。
 ちょっとした明かりの魔法でも、ペルチオーネを媒介にすると、まばゆい光の玉になった。
 俺は光を宿した剣をたいまつのように持ちあげて、みんなを振り返る。
「じゃあ行くか」
 俺とアデーレが並んで前を歩き、その後ろを射撃組がついてくる。
 俺たちは自然のままの、ごつごつした洞窟へ入っていった。
 中は広く、周囲の地面には動物の骨が散乱していた。
 その空間を先に行くと、急に下へ向かって伸びている。
 俺たちはそこでいったん止まった。
 ヒサメに振り返って聞いてみる。
「奥に行くのか? ここまでで十分な気もするけど」
「無理をしない程度に奥も見ていこう」
「わかった」
 俺たちは足元に気をつけながら、岩場を下る。
 底へつくと、目の前に岩の裂け目があった。
 その先は広い空間のようだった。
 俺は少し考えたあと、剣を振るって光の玉を放り込んだ。
 光の玉はすーっと飛んでいき、岩壁に当たって落ちる。
 俺はさらに二個の光球を投げ込み、さらに剣にも新しい光を灯した。
 奥の空間が明かりで照らし出される。
 怪物はいない。
 だが、そこには人工物があった。
 ほぼ平らにならされた地面には魔法陣が描かれ、その中央に木組みの祭壇が置かれていた。
 新しいものじゃない。
 みなを振り返って言う。
「面白そうだ、もう少し調べてみよう」
 俺は岩の裂け目を通り、すぐあとにアデーレが続いた。
 岩室のなかへ入ってみると、暗がりになりかけている一角に人の形を発見した。
 驚いて目を凝らすと、それは埃を被った鎧姿だった。
 足を投げ出すかっこうで、岩壁に背を預けている。
「鎧だ!」
 アデーレが弾んだ声を出して、倒れた鎧へ走り寄っていく。
「よせよアデーレ、たぶん腐った中身が入ってるぞ?」
 俺の制止も聞かず、アデーレは跪いて鎧に手を伸ばす。
 その瞬間。
 金属音を発して鎧が跳ねた。
 全身を花のように開いて、アデーレを飲み込んでしまう。
 あっという間の出来事だった。
 アデーレを取り込んで、鎧はガシャリとうつ伏せに倒れた。
「キャーッ!」
 イリアンが悲鳴をあげる。
「アデーレ!」
 俺たちは口々に名前を呼び、薄汚れた鎧に駆け寄った。
 兜は完全に頭部を覆うタイプで、アデーレの様子はわからない。
 鎧は腕をついて身を起こし、げっぷをした。
「大丈夫か、アデーレ?!」
 俺は跪いて助け起こそうとした。
 そこへ、なぎ払うような右腕の一撃が放たれた。
 怪力だった。
 不意打ちを食らった俺は宙を飛び、背中から落ちた。
 痛みに身を屈め、激しく咳き込む。
 制服の防御力がなければ、どうなっていたかわからない。
「よせ、アデーレ!」とヒサメの怒鳴り声が聞こえた。
 続いて「アデーレ、しっかりして!」とマトイの声もする。
 なんとか起きあがってみると、アデーレの剣を拾いあげた鎧が、ヒサメとマトイに迫っているところだった。
 ヒサメとマトイは武器を構えて後退する。
 鎧からは埃と泥が消え、赤く輝く装甲は燃えるようなオーラに包まれていた。
 俺は立ちあがりながらペルチオーネに聞く。
「あれはなんだ、どうなっている!?」
『聞かれたなら答えるわ』
「もったいぶるな!」
『あれはデーモンメイルよ。依り代をずっと待ってたみたい。もしかしたら意外とこの世界に流れ着いたばかりかも』
「なんで黙ってたんだ!」
『だって、デーモンは活性状態にあるほうが美味しいもの。胸を貫いて吸ってやりましょうよ、マスター』
「そんなことできるか、バカ!」
 俺は言いながら、マトイたちとデーモンメイルのあいだに走り込んでいく。
 デーモンメイルの前に立ちはだかると、背後からヒサメが聞いてきた。
「ペルチオーネと喋っているのか?」
「ああ!」
「なんと言っている?」
「いまはまだなんとも言えない。逃げまわるしかない!」
 デーモンメイルが剣の一撃を振りおろしてきた。
 俺はそれを弾く。
 続いて素早い動きで突き込んできた。
 俺はギリギリで身をかわす。
 油断できない相手だ。
 ペルチオーネと会話するのも難しい。
 背後からマトイの声が聞こえた。
「タネツケ、アタシたちは十分離れたから!」
「よし!」
 俺はデーモンメイルの剣をかわしざま、横へ飛び退いた。
 さらに数歩離れて、左手のひらをデーモンメイルに向ける。
 まずは動きを止めなくては。
「通常魔法陣展開! インクリーザー!」
 俺の足元に魔法陣が広がり、重力増加の魔法がデーモンメイルに向けて放たれた。
 しかしデーモンメイルは歩みを止めない。
 効き目が弱い。
 俺はさらに魔力を注ぎ込んだ。
 デーモンメイルが迫る。
 ダメだ!
 動きを止める前に接近されてしまう!
 俺は魔法を解除し、打ち込まれた剣を受ける。
 綱渡りをしながらペルチオーネと会話するしかなかった。
「どうすればいい、ペルチオーネ?」
『胸を貫いて吸ってやるのよ』
「アデーレを救う方法だ!」
『聞かれたなら答えるわ。中枢を麻痺させて、そのあとはアデーレ次第ね。コイツを支配できるかどうか』
 剣戟を受け流しながら、さらに聞く。
「中枢はどこだ!?」
 ペルチオーネがつまらなそうな声で言った。
『後ろ、首の付根あたり。見ればわかるけど』
 俺はデーモンメイルも含めて、みんなに聞えるように大声で言った。
「背後に回りたい! 首の後ろに弱点がある! 目立つ部分だ!」
 デーモンメイルはおそらく人の言葉を理解しているだろう。
 自分の弱点を知られてどう動くか。
 俺は後ろへ回りこもうとした。
 もちろん、簡単にはできない。
 デーモンメイルも素早い動きで俺を正面に捉える。
 だが、そうなればマトイとヒサメがデーモンメイルの背後につく。
 マトイの銃が銃声を轟かせた。
 続いてデーモンメイルから、弾かれたような金属音が響く。
 デーモンメイルはまったく気にしない様子で、剣を振るい続けた。
 マトイが悲鳴のような声をあげる。
「だめ! 当たったけど効かないよ!」
 普通の武器じゃ歯が立たないか……。
 ある程度は予想していた。
 ここは俺とペルチオーネの力で乗り切るしかないようだった。
「アデーレ、気をしっかり持て! いま助けてやるからな!」
 俺はそう呼びかけたが、返ってきたのはうなり声とともに繰り出される剣のきらめきだった。
 
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