タネツケ世界統一 下品な名前で呼ばれてるけど、俺、世界を救うみたいです

進常椀富

文字の大きさ
77 / 94
第二章 女神の揺籃 イシュタルテア

飛翔のとき

しおりを挟む
「サリー! どっちを先にやればいいんだ!?」
 俺の叫びにサリーが答える。
「人型のほうが本体! でかい部分は武装オプションみたいなものだから!」
 俺は目下の敵を見た。
 巨大なチョウチンアンコウ。
 その提灯の部分に、乾いた灰色の肌をした人型がぶらさがって喚いている。
 裸だったが、男でも女でもない。
 こいつらと、まるで何ヶ月も戦い続けていたような気さえしてくる。
 俺はフルブーストと強化魔法の重ねがけで超人と化していた。
 魔人のささいな動きから予測する。
「来るぞ!」
 俺とサリーは飛びのいて離れた。
 アンコウの口から火の玉。
 目から熱線。
 俺は走って回りこみながら、ペルチオーネの先端を向け、ヘルバウンドを連射した。
 狙いは魔人本体だ。
 提灯の人型周辺で、爆発が連鎖する。
 しかし。
「ホァ! ホァ! ホァァァー!」
 魔人は爆風に激しく揺れながら、手足をバタつかせている。
 癪なことに、まるで喜ぶ子供のようだった。
 俺とサリーとシャルロッテで、この魔人を足止めしている。
 残った全員が、もう一体を相手にしているが、まだ勝どきはあがらない。
 実際、苦戦していた。
 無傷の者はいない。
 動き、反撃することで、なんとか生き延びている状態だった。
 頭のなかでペルチオーネの声がした。
「目に見える弱点ははっきりしてるわ! 魔人とアンコウを繋いでる提灯部分よ! 攻撃を集中して、マスター!」
 そうはいわれても……。
 サリーとは離れていて相談できない。
 俺はペルチオーネを振るいながら、トークタグを使った。
「シャルロッテ、提灯部分を切り落としたい! なにかアイデアは!?」
「わたくしも試しているのですが、威力が足りません。わたくしたちの最高火力をぶつけるほかに選択肢はないでしょう」
「俺とサリーのコンビネーターか!」
「はい」
「でもあれを使うには、こっちの動きが止まる!」
「わたくしに少し時間をください。最大級までにした『霧の瀑布』を使って目潰ししてみます。そのあいだに」
「それしかないか!」
「三……」
 シャルロッテがカウントダウンを始めた。
 俺はヘルバウンドを連射しながら、アンコウから離れる。
 走りながらサリーの姿を探した。
 サリーは右後ろについて、ビームを連射していた。
「二……」
 シャルロッテが準備を終えるまでは、注意をこちらに引きつけなくてはならない。
 ヘルバウンドを撃ちながら、俺はサリー目指して走った。
 火の玉と熱戦が、あとを追うように放たれる。
 いまのところうまくいっていた。
「一……」
 サリーはすぐ目の前だった。
 俺はサリーに左手を掲げながら叫んだ。
「サリー! コンビネーターだ! 狙いは提灯ッ! 魔人とアンコウを切り離すッ!」
「わかった!」
 サリーも右手を伸ばして走ってくる。
 俺とサリーが合流し、手を握り合った直後、シャルロッテの声が聞こえた。
「瀑布!」
 光と大音響の洪水があふれる。
 巨大な魔人が数えきれない光輝の玉に包まれた。
 俺たちは動きを止めて、準備を整える。
 握ったサリーの手から力が流れ込んできた。
 そこへ俺の力を加えて送り返す。
 さらに大きくなった力が流れ込んできた。
 力の循環が生まれ、どんどん増幅していく。
「いくよ!」
 サリーがバイザーへ左手をあてた。
「おうよ!」
 俺はペルチオーネの先端を、いまは光の壁となった魔人へ向ける。
 魔人を包んでいた光が、すーっと消えていく。
 サリーは叫んだ。
「コンビネーター!」
 俺もタイミングを合わせて剣ビームを……。
 乾いた音を立てて、フルブーストが解けた。
 すべての強化魔法も消えてなくなる。
 俺の足から力が抜け、膝が笑う。
 サリーのビームだけが、提灯の竿に届いた。
 当然、威力不足だった。
 魔人の反応は早かった。
 灰色の人型が俺を指さして喜びの声をあげる。
「アーッ!」
 次の瞬間には、アンコウの熱線が俺の右足を貫いていた。
 ペルチオーネの空間防御は破れたが、それがなければ、俺は右足すべてを失っていただろう。
 しかし、どのみち俺はもう動けない。
 命を失うのも刹那の問題だった。
 俺に与えられているはずの『危機脱出能力』に期待した。
 なにも浮かばない。
 なにしろ世界が違う。
 この世界では、効果を発揮しないようだった。
 続く第二波。
 アンコウの目が向けられた瞬間、サリーが俺を突き飛ばした。
 アンコウからの熱線。
 サリーは、バイザーからビームを出して、熱線の角度を変えた。
 だが、逸れた角度はうまい具合じゃなかった。
 熱線はわずかに下へ向いただけで、サリーの胸を貫いた。
 サリーは口から血を流し、俺のほうへ倒れてくる。
「サリィィィィッー!」
 俺が呼んでも返事などない。
 唐突に身体を衝撃が襲った。
 続いて突風のように流れる空気。
 俺とサリーは、シャルロッテの両脇に抱えられていた。
 シャルロッテはジグザクに跳びながら言う。
「岩陰に運びます! 魔法で手当を! きっと間に合います!」
 俺は脇に抱えられながら、向かい側のサリーへ呼びかけ続けた。
「サリー! サリー! しっかりしろ! いま俺が治してやる! あきらめるな!」
 サリーは完全に意識を失っていた。
 シャルロッテが大きな岩の陰に俺たちをおろしてくれた。
「魔人の気を引いて、なんとか時間を稼ぎます!」
 そう言い残して、シャルロッテは風のように去る。
 俺は足を引きずりながら、サリーの具合を見た。
「サリー!」
 そして力が抜けていく。
「サリー……」
 倒れたサリーの胸の中央に、ぽっかりと穴が開いていた。
 穴はこぶし大もあった。
 そしてなにより、穴の向こうにはサリーが寝ている岩肌が見えている。
 心臓がなくなっていた。
 俺の使える魔法じゃ対処のしようがなかった。
 それに、シャルロッテは忘れていたし、俺自身も忘れていた。
 俺はフルブーストが解除された直後。
 意識を保っているのがやっとで、明かりを灯す魔法さえ使えない状態だった。
 俺の基準じゃサリーは死んでしまった。
 だが、もしかしたらこの世界での上級の方法なら、まだ助ける方法もあるかもしれない。
 絶望とともに叫ぶ。
「誰か来てくれぇぇぇーっ!」
 俺の声は戦いの騒音にかき消されたかもしれない。
 どのみち、こんな大岩の陰では、誰にも気づかれないだろう。
 トークタグを起動しようと口を開いたとき、蚊の鳴くようなかすれ声がした。
「もういいよ、タネツケくん……」
 サリーは身動きもせずに言う。
「わたし、もう死んでる……」
 どういう奇跡かしらないが、俺はそれにすがった。
「なに言ってるんだサリー! まだ口が利けるじゃないか! おまえは生きている! しっかりしろ、いま助けを呼ぶ!」
 サリーは弱々しく言った。
「やめて。ここにいて。せっかくの機会を無駄にしないで。わたしの命を」
「でも、おまえ……」
「わたしは死んだ。でも三年の義務がわたしを動かして、わたしの飛翔をとどめている。顔を近づけて。よく聞いて……」
 俺は屈みこんで、サリーの口に耳を寄せた。
 サリーが囁く。
「わたしはこの世界を飛び立つ。死の力をもって。その力で……キミの『限界』も持っていく!」
 サリーの腕が俺をきつく抱き締めた。
「タネツケくん、キミは男の人がどういう姿か教えてくれた。恩に着る」
 俺はサリーの言葉を信じてなかった。
 このまま助かるんじゃないかと思った。
「サリー! 気を確かに持て! きっと助かる!」
「もっと仲良くしとけば……よかった……」
 抱きしめる力が痛いほどになった瞬間、サリーの身体が光の粒子となって弾けた。
「サ……ッ!」
 サリーの名を呼ぼうとしたが、できなかった。
 呼吸が止まる。
 俺の身体は、いままでにない感覚に包まれた。
 皮膚が、端からめくれあがるッ!
 そのまま激痛とともに身体が裏返しになり、それがまた裏返しになる。
「うぉおおおおおおおッ!!!!」
 俺は恐怖と激痛で叫んだ。
 でも、本当に声が出ているのかもわからない。
 身体はぐるぐると裏返り、回転した。
 細胞のひとつひとつが、強烈な洗浄をかけられているかのようだった。
 そしてまっさらになった部分へ、なにか新しいものが染みこんでくる。
 激しい回転とともにじわじわと、新しい印が……。
 俺は耐えるしかなかった。この試練を。
 耳をつんざく轟音がピークに達し、不意におさまった。
 俺の身体は、まだ実体を保っている。
 岩床に寝転がったままだったが、なにかが違う。
 世界との調和を感じる。
 新しい力に満たされて、俺は幸福感めいたものを感じていた。
 その幸福感が、罪悪感をも呼び寄せる。
 サリーは死んで、その身体さえ消滅してしまった。
 俺の『限界』を道連れに、この世界を去っていった。
 怒りと悲しみと幸せが混ざりあって、俺は初めての感情を味わった。
 激しい怒涛が込みあげてくる。
 俺の身体の中心でマグマの火柱がうねっていた。
 俺はッ!
 この力ッ!!
 無駄にはしないッ!!!
「うぉおおおおおおおッ!」
 俺は雄叫びとともに跳ね起きた。
 右足の傷が、それとわかるほど速くふさがっていく。
 いつのまにか剣を手放していた。
 落ちているペルチオーネへ手を向ける。
 ペルチオーネは向こうから飛び込んできた。
「ずいぶんしおらしくなったなペルチオーネ」
『……』
「ひと働きしてもらうからな」
 俺はペルチオーネをくるりと一回転させて、悲壮な戦いの続く戦場へ向きなおった。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

Gランク冒険者のレベル無双〜好き勝手に生きていたら各方面から敵認定されました〜

2nd kanta
ファンタジー
 愛する可愛い奥様達の為、俺は理不尽と戦います。  人違いで刺された俺は死ぬ間際に、得体の知れない何者かに異世界に飛ばされた。 そこは、テンプレの勇者召喚の場だった。 しかし召喚された俺の腹にはドスが刺さったままだった。

転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる

ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。 レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。 これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。

処理中です...